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魔王の器  作者: 北崎世道
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能力

「もしかしてお主、やけになっておらぬか?」


 留置所へ戻る道中、出し抜けにアウルアラが言った。


「どういう意味?」


「いやまぁ、きっかけは童になるのじゃが、今朝、お主が起きた時、リリスという小娘と事が起きたのを知ってから、なんじゃかキャラが変わった気がしてのぅ。先程の件も普段のお主なら小娘を助けたのはいいが、その後、アパートに連れ込むまではせんかったと思うて。特に、下心を隠さず平然とばらした挙句、小娘をドン引きさせたじゃろう? そもそもあんな風にキショい事を考える事自体、お主らしくない気がしての。もしかして、と思ったんじゃ」 


 どうだろう、と僕は考える。


 正直、自分でやけになった覚えはない。だけど、アウルアラの言う通り、さっきの僕の発言は確かに僕らしくなかった気がする。確かに異世界に来た当初はチート能力使ったハーレム志向だったが、ここで過ごすにつれて、ゲームや漫画的な感覚から、現実のものだと捉えるようになり、相対する人たちを物語のキャラではなく一人の人間として扱うようになったように感じる。


 それがさっきの僕の発言は、名前も知らない女の子をギャルゲー攻略キャラの一人みたいな扱いだったと思う。


「もしかして、ナイルの小娘への操を童が崩して、しかも事に及んだリリスとの間柄も消せないから、いっそのこと他の女にも手を出そうとしたのかもと思うての。人殺しと一緒じゃよ。一人殺せば、何人殺すのと一緒。一人と浮気をすれば、何人浮気しても同じ、じゃと。そういう事じゃな」


「あるいはそうかもね」と僕は言う。「自覚はなかったけど、アウルアラの言葉にもなんとなく腑に落ちる気もするし。かといってそれだけではない気もする。こう言っちゃなんだが、僕はアウルアラに影響を受けている気がするんだ」


「童に?」


「そう」と僕は首肯する。「頭の中に貞操感フリーダムな全裸女を飼ってるんだ。元々、僕はそこまで芯を持った人間じゃないし。他人から簡単に影響を受けるタイプだと思う。そんな人間が頭の中に究極変態痴女魔王を飼うようになったら、ある程度はその影響も受けるんじゃないかって…………まぁ、これはアウルアラに責任を擦り付けてるだけかもしれないけど…………でも、そういう風に思う事はあるかな」


「どちらにせよ童のせいか」


「こういう時ってアウルアラのせいだと言えば言う程、僕のせいな気がするよな」


「すまぬな」と殊勝な態度のアウルアラ。


「別に謝らなくてもいいよ。まぁ、開き直られるよりはマシだけど。正直、アウルアラがいなければ僕は既に死んでたって場面がいくつかあるし、それを無視してアウルアラを責め立てるのもなんか筋が通ってないように思う」


 見る人によっては、弱い僕が下手にチート能力を得て調子こいてるだけに見えるだろうし。それも全く否定できない。


 悪くて弱いのは僕だ。


「…………アルカが童の宿主でよかったわ」とアウルアラが言う。


「どうしたの? なんか変な物でも食べた?」


「昨晩メスを一匹喰ったぐらいじゃな」


「さいですか」


 そんなこんな話してるうちに目的地のお城に到着する。


 飛行魔法をとめて、華麗に着地。夜間の割に大勢いる憲兵たちの目を掻い潜って、先程ぶち込まれた留置所に向かう。


 しかし道中、さすがにあの狭い階段では人の目を避ける事もできずに見つかってしまう。


 案の定、大声で助けを呼ばれるが無視して、そのまま地下へ。こちらの通行を邪魔する憲兵を無理やり押し飛ばしつつ、さっき僕が脱出した檻を探す。ひん曲げた鉄格子が目印だ。


「どこかなぁ」と色々探し回り、その途中で思わぬ人を発見する。


「あれ? あんた殺されたはずじゃ……?」


 たくさんある檻の中の一つに、いつか見た事のある筋肉の鎧を身にまとったむさいおっさんが寝転んでいた。振り返り、こちらを見て、驚愕を示す。


「お、お前は…………っ!」


 僕が殺した事になっている四人の内の一人。


 ムッサイだった。



 ◆



「あれ? なんでお前がこんなところにいるの?」


 僕の問いに囚人服の上からでもケツ毛が透けてるムッサイは、


「どうしてお前がこんなところにいるんだ?」と僕と同じような問いを返した。


 質問に質問で返すのはマナー違反、と言いたいところだが、確かに状況も知らない人がここで僕を見たら、それぐらいの反応はしてしまうだろうと思い、ツッコミを自粛。


「僕はあんたら四人を殺した容疑で檻に入れられたんだ」と状況を端的に説明する。「でも、生きてるじゃんね。それってどういう事? おっさんには分かる?」


 ムッサイのおっさんは呆然として口をパクパクさせていたが、暫くして我を取り戻したか、


「あ……ああ、たぶん分からなくもないが、ちょっと説明が必要になるな。簡潔に言うと、ブーザマとジャントルのおっさんが死んだ。殺されたんだ。そんで俺は生きてるが、こうして捕まって檻の中に入れられている。ウェールイも生きてる。俺の知る限りじゃまだ捕まってないようだな」


「ふぅん」と僕。


 ブーザマが死んでるのは間違いないと思ってたが、まさかジャントルまで死んでるとは……。こういうのは結局、死んでるのは一人だけみたいなパターンかと思ったのだが、残念ながら予想は外れてしまった。


 そっか……あの爺さんは死んだのか。でもまぁ、死んでるとも思ってたから、今更ショックを受ける感じでもない。生きてるとも思ってたし死んでるとも思ってた。シュレディンガーというよりは、競馬で二つともに賭けてるような感じ。どっちになっても、あぁやっぱりか、もしくは、まさかそんな、みたいな感想である。


 それよりもだ。


「殺されたって言ったけど、誰に殺されたかは分かる? 犯人が分かれば、冤罪も解けると思うんだけど」


「俺の目の前で殺されたが、犯人は判らないな。フードをかぶっていて、顔は見えなかった。だから正直、お前が殺したってのも否定はできん。まぁ、時間を考えたら、可能性は低いと思ってるがな」


「時間?」


「事件が起きたのは、俺達が捕まって、ここまで運ばれる道中でだ。だから捕まってすぐだな」


「ん? それなら憲兵が目撃したんじゃ……?」


 と、ここで僕を捕まえに来た憲兵がわらわら集まってきた。全員倒す事もできなくはなかったが、ここでこれ以上暴れるのはよろしくないと判断し、素直に降参を示した。さすがに三十人同時に現れたら、こうするのが得策かなぁ、と思ったのだ。


 その中の一人には、相性のおかげで簡単に倒せたあの大ボスさんも混じってたし。


 僕の降参の意志を見て、憲兵の一人が僕に手錠を掛けた。


「それじゃ、また後で話を聞きにくるね」と僕はムッサイのおっさんに言い残して、この場を後にした。


 憲兵たちは意外と大人しく丁寧に僕を連行した。


 こういう奴等はかなり高圧的かつ暴力的にこちらを連行するモノだと思っていたが、なんだかおっかなびっくり、壊れモノを扱うような態度だった。


「貴様、どうして戻ってきたんだ…………?」


 憲兵の一人、っていうか大ボスさんが尋ねてきた。


 風格のあるおっさんだな、と思いつつ僕は、「一応戻って来るって言ったからね。だって僕は何にもやましい事はしてないもん。それに出て行ったのも、身内に暫く帰れない事を伝える為だし。あんた達がさっさと事情聴取を行って、僕を解放してくれればこんな事にはならなかったんだよ」


 僕がぷんぷん怒りを示すと、大ボスのおっさんは「…………そうか」とだけ言った。


 特に謝罪らしい謝罪はなかった。



 ◆



 今度、僕が入れられたのは別の檻だった。鉄格子が縦の棒だけじゃなくて横棒もあるワッフルみたいな網目状だ。


「おら、入れ」


 少し落ち着きを取り戻した憲兵たちが、ようやくそれらしい高圧的な態度で僕の背中を押し、檻に閉じ込める。


 背中を押されて、少しだけむっとした僕はすぐに振り返り、ワッフル型の鉄格子をまた腕力だけでひん曲げてみせる。ふん、愚か者めが。


 まぁ、腕力だけとは言ったが、実はこっそり炎魔法を使って、鉄を温め、ワッフルを焦がすように曲げやすくしたのだけど。細かいことは気にしない。どちらにせよ、手ぶらで壊せる事には変わりないし。傍目からは大した違いはない。見るだけなら。ティッシュとキムワイプみたいなものだ。


 僕の威嚇に憲兵たちがビビッて逃げていく。


 その中で唯一ビビらず残ったのは例の大ボスさんで、


「また逃げるつもりか?」あらん、挑発的。


「いざとなったらね。あるいは逃げる必要もないくらいにここを破壊してやるかもしれないけど」


「ふふっ」と大ボスさんが失笑する。「そんな時が来ない事を祈ろう」


 そう言って彼は去っていった。


 なんとも風格のある大ボスさんだった。渋い顔だし、敵ながらちょっとだけカッコいいと思ってしまった。だが、


「ああいう渋いおっさんの尻を後ろから全力で突いてメス堕ちさせてやりたいのぅ」というアウルアラの呟きに、僕はなんとも言えない気持ちになった。


 

 ◆



 その後は特に何も起きなかった。檻の中で冷たい一夜を過ごした。布団を貸すんじゃなかった。


 下水道みたいに薄暗くて汚い檻の中。そこにある硬いベッドで過ごす一夜がどんな気分か。普通の人間は知らないだろう。僕は今回の件で初めて知ったが、本来同時に味わうべき恐怖というスパイスがないので、全く同じとは言えないだろう。


 朝になると食事が出た。他の囚人は檻から出されて囚人専用の食堂に向かっていたが、僕は檻の中のままで、ご飯の方が運ばれてきた。


 どうも危険視されてるようだった。既に鉄格子をひん曲げて、自由に出入りできる状態だというのに、なんとも滑稽な対応である。


 そのくせ飯を持ってきた憲兵が僕の目の前で飯に唾を吐き掛けてくるという挑発的かつある意味で人間的な態度も見せるもんだから、意味が分からない。パワハラ上司の説教意義くらい意味が分からない。


 とりあえずその憲兵の顔面を未舗装道路くらいボコボコにしてやり、顔面血だらけになった状態で引き摺り檻を出て、食堂らしき方へと向かった。幸い食堂は簡単に見つけられた。遠いと反乱起こしやすそうだもんね。そこにいたビビり散らかす食事係の憲兵に事情を説明し、新しい飯を用意させ、そのままぼろい長机が並ぶ食堂で食べた。顔面未舗装道路はその場に転がしておいた。


 んで。食べ終えた頃に憲兵の仲間が集まって剣を向けてきたが、その中にレスラー系の中ボスさんがいて、彼がなんとかざわめくその場を収めてくれた。この人も意外と話が分かる手合いらしい。


「話は聞いた。部下が悪かったな。こいつは今朝からの出勤で、お前の怖さが分かってなかったらしい」


「て事は他の囚人にはああいう事をしているという事ね。もう一ダースほど殴っておこうかな」


「俺が殴っておく。それ以上はお前の罪になるからやめてくれ。…………すまない」


「謝るなら、そもそも僕を捕まえた事から謝ってほしいんだけど」


「それについては今、色々と確認を取っているところだ。情報が錯綜していて、我々も混乱しているから勘弁してくれ」


「さいですか」


 とまぁ、そんな朝だった。



 ◆



 昼になった。だが、昼食はなかなか用意されなかった。


 昼過ぎになっても出て来ず、散々待ちくたびれた僕は、偶々、檻の前を通りかかった憲兵に話を聞いた。すると、そもそも昼食は出ないとの事。一日二食の吝嗇系。人権はどうした。


 仕方ないので僕は檻を出て、食堂に向かい、食事係の憲兵に昼食を催促した。


 食事係の憲兵は初めこそ僕の催促を断ったが、暫く僕が脅迫もとい催促し続けるとやがて根負けして、渋々ながらも用意してくれた。


 ビビっていたせいもあったかもしれない。途中で鼻水垂らして嗚咽を漏らし始めたが、おそらく気のせいだろう。…………ガチで謝っておいた。


 そういう訳で昼食にありつけたのだが、昼食も酷い質素なメニューだった。まぁ、朝食に出されたのが粗悪なパンと薄いスープだけだったから、このくらいは察するべきではあった。いくら身体の小さな五歳児とはいえこの程度の栄養では健康も正気も保てるとは思えないので、食後はこっそり地上に出て、お城近くのご飯屋さんでたらふく飯を食べて、それからまた檻へと戻った。道中は憲兵と顔を合わせる事もあったが、この時点でだいぶ僕の強さが知れ渡っているようだったので、見てみぬ振りをしてくれた。


 …………なんで僕、ここにいるんだろう。


 満腹になった昼食後は心地よい睡魔に促されるまま昼寝を取り、気付いたら夕食の時間になっていた。当然、夕食ももらって(檻の前まで運ばれた。運んできたのは今朝ボコボコにした憲兵で、妙にへこへこへりくだっていた)、そのままゆっくりと時間を過ごした。


 何もないところで徒に時間を過ごすのは退屈という名の拷問であるが、僕には何もなくとも魔力の訓練だったり、脳内に住み着くアウルアラとの雑談だったりができるので、それほど苦痛は味わわなかった。


 しかしそうはいっても今日一日、全く、何にも、これっぽっちも事情聴取をするような雰囲気がなかったのはどういう事だろう。犯罪者の人権についてあれこれ語るほど僕は思想が強くないが、それでも何の悪いこともしていない冤罪の容疑者を丸一日放っておくのはさすがに扱いが酷過ぎると思った。なので、檻を出て抗議に向かった。


「おーい! いくらなんでも待たせすぎだろーっ! こんちくしょーっ!」 


 ぷんすか頭に血管を浮き出たせて、僕は演説好きでもないのに留置所内を歩き回った。


 さすがにこっそり出歩くのではなく、堂々としかも声を上げて出歩いたら、見てみぬ振り上手な憲兵たちも無視する事はできずに、やめてくれ檻に戻ってくれと懇願してきた。


「だったら、はやく事情聴取をしてくれよ。僕は何にも悪いことはしてないから、こうやって潔白を証明する為、一度出た檻の中に戻ってきたんだぞ! それなのにずっと放置するなんてあまりに酷過ぎるじゃないか!」


 ぷんすかぷんすか。


 潔白が証明できるまでそれなりに時間は掛かるかもとは思ったが、まさか潔白を証明する為の機会が与えられるまでにすら時間が掛かるとは思わなかったので、こうやって怒ってるのだ。


 まぁ、末端の憲兵からしてみれば迷惑極まりない抗議なのかもしれない。


 それにクレーマー気質ではない僕にはこういった行為はちょいと抵抗がある。元の世界で嬉々としてやってる連中は頭がどうかしてるとしか思えない。


 とはいえ、何も抗議しないのもそれはそれで問題があるので、僕は頑張って声を上げている。


 抗議は決して悪いことではない。バカやクソの抗議が悪いのであって、まともな人間の抗議は決して悪くない。


 今回の僕はバカやクソではない…………筈だ。うん。


 だから大丈夫…………の筈。きっと。


「いい加減、聴取しろ―ッ! 僕は何も悪い事してないんだから、さっさと調べて、解放しろーっ!」


「わ、分かりましたから。今、上の方に言って、貴方の事を調べてもらうよう頼みますから、檻の方へお戻りください」


 憲兵がペコペコし始めたので、僕は言われた通り檻へと戻る。


 困らせたりする事は本意ではない。僕はクレーマーじゃないのだ。一応、自分ではそのつもりなのだ。


 大人しく従って檻の中に戻り、そこでむすっとした顔のまま、話を聞いてくれる人が来るのを待つ。


 十分くらいして、憲兵らしくない人が檻の前までやってきた。


 きっちりした格好の、偉そうな人だ。鉄格子越しに彼が話しかける。


「えっと、キミがアルカ君だっけか?」


 かなり不機嫌そうな顔だった。彼の横には大ボスさんともう一人、見知らぬおじさんが構えている。たぶん大ボスさんと同じくらい強い。


 偉そうな人が言った。


「なんでも、自分は無実だからさっさと調べて、解放しろって暴れてるんだってね」


「別に暴れてはないけどね。でも、折角、誤解を解くため協力しようとここで待ってるのに、何も調べようとせずに放置しっ放しは頭に来るから、文句言ってただけ」


「脱獄したのに?」


「急にいなくなると心配する人がいるから、その人達に事情を説明しただけだよ。だから戻ってきたんじゃない」


「ふうん」と偉そうな人が含み笑いを見せる。


 なんだろう。なんか、すごい嫌な感じ。ナチュラルにこちらを見下してるのは、この人の生来の癖なのかもしれないけど、それ以前にこちらの事をそもそも人間扱いしてないっていうか。家畜扱いしてるような目で見てくる。かなり腹立たしい。


「それじゃ聞くけど、キミは事件当時、一体何をしていたか話してくれるかい?」


「えっと……」


 確か、事件は四人が憲兵に連れ去られてすぐに起きたって言ってたよな……。


「あの時は、たしかマウンティング氏親子とキラレキさん、それとラキ・ゴーグルさんと一緒に街の方へ帰ってたかな。街外れの廃墟にいたから」


「ほうほう」と嬉しそうに頷く偉そうな男。名前なんていうんだろ。


 偉そうな男は何度か首肯を繰り返した後、僕にこう尋ねた。


「アルカ君はどうして、事件が起きたタイミングを知ってるのかな? それはこちらでしか知らされていない極秘情報なんだけども」


「え? だって当事者から聞いたし。あ、そういや、殺人容疑が出てるけど、本人生きてるじゃん。ムッサイのおっさんはここの留置所の中にいたじゃん。それなのになんであのおっさんの殺人容疑まで────、」


「ムッサイという男はここの留置所にはいませんよ?」


 僕の言葉を遮るように偉そうな男が告げる。


「え? いやだって、僕はこの目で……」


「ふむふむ。どうやら容疑者アルカは錯乱している、と。成程ね。やはりキミが犯人で間違いないようだね……どうやらキミにはその自覚はないようだけども」


「いやいや、それは流石に無理があるでしょ。だったら、今から僕が────、」


 と、ここで僕の背筋に悪寒が走った。


 なんだか嫌な予感がする。


 どうしてこの男はこうも余裕癪癪なのだろう。殺された人間が生きているという致命的なミスを指摘しているのに。どうして…………。


 咄嗟に探知魔法を使って、ムッサイのおっさんが留置所内のどこにいるか探そうとしたが…………見つからない。どこにもあのおっさんの魔力が感じられない。元々、魔力自体は希薄な筋肉の塊だったが、闘気の方は人一倍、いや人十倍くらいありそうな筋肉だったから、探知魔法に引っ掛からない訳ではない。本当にあのおっさんの気配が感じられない。


 まさか…………と僕が目の前の男を見ると、彼は悪意に満ちた笑みでこちらを見据えていた。


「…………殺したの? 昨晩、僕が見つけたから? おっさんの口を閉ざす為に? たったそれだけの理由で?」


 偉そうな男の口端が更に歪む。


「なにやら勘違いしているようだね? 君は昨日、誰とも会っていないよ? 幻覚を見たんじゃないかな? あはは。これはもう有罪確定だね」


「…………」


 絶句。


 この世界に来て、嫌な奴はそれなりに会ったと思うけど、ここまで悪意に満ちた男はいなかった。あのブーザマでさえもここまで邪悪じゃなかったと思う。


「…………悪い人だね。あんた。こんな人に権力を持たせてたらいかんでしょ……」


 元の世界じゃあるまいし。


 あまりにも邪悪な人間に僕がドン引きしていると、彼はそのまま踵を返して去ろうとする。


「え? 帰るの?」


「だって有罪は確定でしょう? これ以上こんなところに居る意味ないじゃないか」


「いやいやいや!」


 僕は慌ててひん曲げた鉄格子の隙間をぬって出ようとすると、大ボスさんともう一名が暴力を持って僕を止める。


「ふんぎゃっ」


 殴られた。


 デカい拳に殴られ、尻もちを付くと同時、僕の身体に何かが巻きつけられた。


「え? なにこれ?」


 僕は殴られただけだ。にもかかわらず、いきなり得体の知れない何かが巻き付いてきた。誰が? 一体どうやって?


「おそらくもう一人の方の能力じゃろう」とアウルアラが言う。「偶にこういう能力持ちがいるんじゃよ。魔法であって魔法でない、その者個人だけが使用できる得意な魔法じゃ。スタンドやら念能力みたいなもんだと思ってよい。ちなみに今は一億人に一人くらいのレアな能力持ちとは言っておくが、どうせ後でその設定はなかったかのように能力者がジャンジャン出てくるから覚悟しておけ」


「なんだそれ……」


 すごいメタ。というか、そんなんなら最初からその設定は言わなけりゃいいのに。


 それはともかくとして、その能力によって全身を拘束された僕はそのまま動けず、檻の中で芋虫みたいに蠢くしかできなかった。


「ぐぬぅ……」


 偉そうなやつたちはそのまま部屋を出て行ってしまった。


 くそう。悔しいな。


 ってこれ、もしかして僕、有罪扱いで処刑されちゃう?


 マジ?



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