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魔王の器  作者: 北崎世道
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仕返し

後半かなりひどい拷問があるので注意

といっても、描写自体はそこまでグロくありません

むしろ別の意味で痛々しいと感じると思うので、そちらにも注意

僕の考えた最強の拷問的な感じで


「おぉ、アルカよ。しんでしまうとはなさけない!」


 と言われた気がしたが生きてた。


「いや、ほとんど死んどったぞ、お主」


 声が聞こえた。


 が、見えない。何も見えない。暗い。冷たい。寒い。


 ここは何処だろう。


 静まり返った闇の中。


 そのどこかで声がする。


「えっと、ここはハラリとかいうおっさんの家で、周りには誰もおらぬな。お主の記憶は読んだから童にもある程度状況は判るが、お主が死んどった時、いやお主が気絶しとった時の事は知らぬ。とりあえずお主がヤバかったから童が咄嗟に回復魔法で治療してやったんじゃ。つうか、お主の魔力がほとんど尽きとったから、マジ大変じゃったぞ。周囲の魔素をかき集めて、あとはお主の中に居るこの前戦ったアレ、ペスト阿修羅の力も借りてなんとか一命を取り留めたぞ。棺桶に片足どころかほぼ全身突っ込んで、逆に片足だけ出とったくらいじゃったから、マジ焦ったわ。何をやっとんじゃお主は」


 えっと、誰? 誰の声?


「童じゃよ。お主の中に仮住まいしとるプリティキュートビューティホーな魔王のアウルアラ様じゃ。忘れたのか?」


 …………あぁ、そういやそんなのがいたような。いなかったような。何の漫画で見たんだっけ。かませ犬みたいなキャラだったかな。


「違うわっ。…………ふむ。どうやら死にかけて一時的な記憶喪失になっとるようじゃの。じゃがまぁ、童が覚えとるから、完全に忘れた訳じゃあるまい。そのうちすぐ思い出すじゃろ。とりあえず起きよ…………いや、そのまま寝といてもよいかの。童がどうにかしておくから、お主はゆっくり休んどけ」


 うん。分かった。おやすみ。



 ◆



 ────という訳で、身体の主導権交代。


 童じゃよ。寝起きのまま登場。アウルアラ様の出番じゃ。


 いやまぁ、出番と言っても、だいぶ身体のダメージが大きくて、あまり自由には動けぬみたいじゃな。


 とりあえず上半身だけ起こすか。


「…………ふむ」 


 さっき見た通り、周りがぐしゃぐしゃになった狭い家の中。倒れたタンスに割れた食器の数々。


 家の中に台風ができて、全てを粉々にぶち壊したかのような有り様じゃ。


「げふっ」


 唐突な吐血。


 胃か食道に溜まった血が口から出てきてしもうた。


 一緒に胃液も出てきたので、鉄臭いやら酸っぱいやらで非常に気持ち悪い。


 ここ数日、魔力欠乏がどうたらで気絶しとったから、食べ物が出てこんかったのが幸いか。


 いや、どうじゃろう。


 いくら身体は人間であるとはいえ、人間よりも上位の童でさえしんどいと思うような体調じゃ。


 宿主のアルカが一時的にもバタンキューするのも致し方なしってところかの。


 とりあえず立ち上がる。


 出血し過ぎた為、頭がガンガンするし、くらくらする。血が足りん。


 最悪のコンディションの中、童は壁に寄り掛かりながらゆっくり歩き、家の外に出る。


 えぇっと、ここはゲルル街とか言っておったか。 


 視界が霞んで、遠くまでは見えぬ。


 が、なんとなく炭鉱的な雰囲気が漂っておるのが判る。


 感じるのは目だけではないって事じゃ。


 音や匂い。後は肌を撫でる砂交じりの風などかの。


 少し歩くと、ようやく霞んでた視界が開けてきた。やはり第一印象通り、炭鉱の街じゃった。


 なにやら遠くからこちらをチラチラ様子見する者がおるが、どうにも怪しい。


 こちらを心配しとるならあんな風な態度にはならぬだろうと思われる。


 おそらくは人攫いの類だと察した。


 その男が意を決してこちらに近寄ってきたので、童はその場で吐血してやった。


 特にその吐血が男に掛かったとかそういうのではないが、男は何事もなかったかのようにこの場を通り過ぎていった。


 当然じゃ。誘拐しようとした子供が血を吐いたのじゃ。


 金にはならんし、なんなら変な病気を持ってる可能性だってある。


 そんなのを攫う気にはならんじゃろう。今着とる服だって、よく見たら血まみれなんじゃから、すぐに察するじゃろう。


 そんな訳で人攫いの危機から脱した童は、また適当に歩く。


 そしたら今度は別の者が近寄ってきた。


 またしても人攫いの可能性を疑ったが、今度は違うた。


 今回は悪人ではなく、善人じゃった。


 血だらけで今にも死にそうな童を素直に心配してきたお人好しの者じゃった。


「大丈夫、あなた?」 


 声を掛けられるが、瀕死の童ではまともに声が出せぬ。


 ひとまず「助けてくれ」と言ってみるが、やはり掠れていてまともに声が出ていない。


 しかしながら、声が出てないなら出てないなりにこちらの状態が伝わったので、「大変、助けてあげなくちゃ」と言って善意の女性がこちらを抱え、おそらくは彼女の家へと連れられた。


 そやつは見たところ四十代前半の女で、家は徒歩一分とも掛からないすぐ傍にあった。


 家に運ばれ、そのままベッドに寝かされる。


 寝転がると少し楽になったので、今度こそはと喋りかけてみる。


「腹が減った。飯を食わせとくれ」


「え? なに?」と耳をそばだててきたので、もう一度同じ事を繰り返す。


 すると、今度はちゃんと伝わったらしく、


「分かったわ。今すぐ作ってあげるから待っててね」と言って、女は料理を作り始めた。


 童は目を瞑って彼女が飯を作ってくれるのを待った。


 

 ◆



 暫くして声を掛けられた。


「できたわよ…………ってあら? 眠ってる?」


 確かに童は寝ていたが、眠りが浅かったのでその声で目が覚めた。


 目を開くと、女性は口に手を当て、「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」


 童は首を横に振る。


 それから頑張って身体を起こし、女性が作ってくれたお粥を食べる。


 おそらく消化に良いモノで、早めに作る事を意識したのじゃろう。お粥というよりお茶漬けに近いところもあったし、味付けが塩以外されておらんかったが、それでもかなり美味しかった。


 空腹は最高のスパイスというのは本当じゃな。


 アルカの小さな身体でもぺろりと平らげてしまった。


「美味かった……ご馳走様でした」 


 礼を言うと同時に眠気が襲ってきた。


 女性が何か言っておったが、眠気に抗えず童は再び寝てしまった。



 ◆



 そして起きると、女性が隣で寝ておった。


 手を出されたのかと勘繰ったが、どうやら違うらしく、ただの添い寝のようじゃった。


 辺りが暗いとこから今は夜である事。それと、小柄なアルカなら一緒のベッドに寝てもなんら問題ないと判断したからじゃろう。


 実際、一人用のベッドに一緒に寝ておるのに、スペースの余裕はあったし、それに女性からは発情の匂いがまるでせんかった。つまらぬ。


 年齢的に我が子のように思っとるのかもしれん。早ければ孫かも。


 ともあれこの女は善良で無害な人間じゃ。


 このままここで休んでもよいのじゃが、童には為すべき事がある。アルカに身体を譲ったらそれはおそらく邪魔される事じゃ。


 できればやっておきたい。


 なのでそっと出る事にした。身体は充分休まったし、魔力だって回復した。欠乏症も一度死にかけたショックで治った。


 完全に回復しきった訳ではないが、八割くらいで充分。体力はともかく魔力に限って言えば、アルカは規格外じゃ。一割でも常人を優に超えるから問題ない。


 ベッドを抜け出し、居間にいくらか金を置いといた。助けてくれた礼じゃ。アルカも文句は言わぬじゃろう。


 家を出て、探知魔法を使う。


 目標はアルカを殺したあの借金取りの男じゃ。


 あやつは見逃してはおけぬ。絶対に許されぬ事をした。


 探知魔法で男の魔力を感じ、そこに向かう。


 夜の街は静けさに充ちておったが、穏やかじゃった。アルカなら不気味さを感じ、外を歩く事を避けたかもしれぬが、魔王の童には不気味さの方が心安らぐものである。


 周りに誰もおらぬから、人目を憚る必要もない。堂々と道の真ん中を歩く事ができる。


 男の魔力は、ここから少し離れた建物内から感じられた。家ではなさそうじゃが、宿屋でもなかった。廃墟みたいな二階建ての建物じゃ。


 おそらく奴の仕事場なのじゃろう。普段は女を連れ込んで居るかもしれぬが、今晩は奴と、覚えのある魔力だけじゃった。好都合。


 真正面の入り口から扉を透過し、入り込む。


 これはアルカにはできぬ魔法じゃな。


 そしてそのまま二階に上がり、入り口と同じように扉を透過して奴の寝ている部屋に忍び込む。


 そこにはアルカを殺しかけた例の借金取りと、ハラリが居った。


 借金取りの方はベッドでグースカ熟睡しておるが、ハラリの方は床に倒れておった。


 手足を縛られ、怪我もしておる。


 大分、手荒い拷問を受けたようじゃ。


 このまま放置しとくと、明け方には冷たくなっとるやもしれぬ。


 ひとまず童はハラリに回復魔法を放ち、しかし意識が戻らぬよう眠りの魔法も掛けておく。


 そしてこれからが大事な目標。童が為すべき事。


 魔法ではなく魔力を扱い、建物内に潜んで居ったゴキブリ二匹とをサイコキネシスで掴み、男の口に放り込む。それと同時に口を縫い合わせ、魔力で固める。これで男は口を開けなくなった。童が込めた魔力よりも強い魔力と筋力を籠めれば口は開けるが、この男の力では不可能じゃ。


 突然口にゴキブリを放り込まれた男は、当然起きるが、童は腹部を殴って悶絶させる。


 悶絶する男に、今度はサイコキネシスで捕まえた蠅を耳の穴に放り込み、先程と同じように塞ぐ。


 口は閉じれないので、耳当てをする必要があったが、当然そんな物は持っておらぬので、代わりに童が着ているシャツを破ってそれを耳当て代わりにした。


 これで蠅は男の耳の中に閉じ込められ、ずっと出る事ができない。男がいくら力を籠めて引き剥がそうとしても無駄じゃ。


 これを両耳にやってやる。


 そうなると、男の耳は蠅の音がブンブン鳴り続ける事なる。


 男は完全に目を覚まし、耳元での蠅の音に苦しみ、もがき続けるが、どうしようもない


「あ、しもうた。そうじゃった」


 童は落ちてた小石をサイコキネシスで掴み、透過魔法で男の頬を通り抜かして口の中に放り込む。


 しかも今度は奥歯にくっつく様に入れ込む事で、男が誤ってゴキブリを噛み潰さぬようにしてやった。


 これで男の耳の穴には蠅が、口の中にはゴキブリが居る事となった。


「さてさて、これからどうしようか」 


 と言いつつも既にやる事は決まっておるがな。


 童はアルカの記憶や考えを読む事ができるので、こういう輩に与えるべき罰のアイディアを豊富に持っておる。童はその中から選ぶだけじゃ。


 苦痛でのたうち回る男の四肢を室内にあった(そういう事をよくやっていたという証拠である)拘束具で縛り、完全に身動きの取れなくなった状態で、本命の魔法を掛けてやる。


 こいつは、男の体感時間が驚くほど速く、長くなる魔法じゃ。


 具体的に言うと、現実での一秒が男にとっては一年に感じる魔法である。


 漫画などでよく見るやつじゃな。


 魔法を使った後で、超高温を放つ棘を用意し、男の両眼に突き刺してやる。


 そいつも魔力で固定した後、どう暴れても抜けないようにしてから、男の腕に点滴を刺す。


 そして棺桶を用意し、男を放り込み、酸素を生み出す魔石と、精神に効く回復魔法を放つ特殊な魔石も一緒に入れる。


 これで男は一か月は強制的に生き続ける。精神だって壊れても復活し、壊れても復活しを繰り返すようになる。


 蓋を閉めて、テープでぐるぐる巻きにして、この建物の一階に降りて、透過魔法で地中に棺桶を埋める。魔法で一秒が一年に感じるから、このまま誰にも掘り出されなければ、男は約二六〇万年地獄に居る事となるじゃろう。


「うむ。これにて任務完了」 


 お疲れ様でした。


 こういうのはやはり悪党に思い切りやるのが楽しいのう。


 なんて、思ってたら頭の中から声が聞こえてきた。


「…………ちょ、おま…………何やってんだよ」


 どうやら予想以上にアルカが目覚めるのが早かったようじゃ。



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