仮眠
修正して秘書のキャラを変えました。
一度投稿した後なのに、すいません。
できないと正直に言ったら、ナイルが鬼の形相でこちらを見た。
「こ、こいつ……」
僕は慌てて言い訳する。
「あ、いや、今はできないだけで、魔力が回復すればできるから。明日……いや、ちょっとひと眠りすれば回復するから、その後でよければ……ね?」
「ほ、本当にできるのかい?」とハーバー氏が疑わしそうに尋ねる。
「はい。お昼寝した後でなら」
絶句。
どうやら証明できるとは思ってなかったらしい。
そりゃあ、あの爆発を個人で起こせたら絶句するのも無理はないかもしれない。
僕も悪者が起こせると考えたら、頭を抱えたくなる。
だからさっきナイルが僕の尻を蹴って、僕が温厚な性格である事を予め見せていたのかと理解する。
「それじゃあ、一旦あんたは昼寝しといて、他の人達はそのコの母親を探す為に動きましょうか」
街の責任者であるハーバー氏を無視して、ナイルがこれからについて指示を出す。
「ナイルちゃん。そういうのは僕の仕事だから」と案の定、ハーバー氏がツッコみ、「まぁ、そうだね。今、ナイルちゃんが言った通り、そのコには一旦休んでもらって、他の人達はそのコの母親を探す為に動いてもらうとするか」
そう言ってハーバー氏が机の上にあるボタンを押す。するとすぐに扉をノックする音がして、意識と背の高そうな男性が入室してくる。秘書だろうか。
一瞬僕をチラ見したがそれだけで、こちらを見下してんな、と直感するような視線だった。
厳密には値踏みした瞬間に、見下すのを決定した感じ。判断が早過ぎる。
「はい。なんでしょう」
と、意識と背の高そうな秘書さんが、きちっとした態度でハーバー氏に伺う。
それに応えるよう、ハーバー氏がテキパキと指示を出す。
ここら辺はさすが責任者と思える手腕だ。
正直、僕は人に指示を出すのが苦手だから、こういう人の上に立つ人を凄いと思う反面、妬ましいとも思う。
たぶん僕がやったら具体性のない指示しか出せず、無能上司の烙印を捺される事だろう。
この意識の高そうな秘書なら、陰口どころじゃなくて真正面からため息吐いて、使えませんねとか無能なのもいい加減にしてくださいとか言ってきそうだ。
視線一つでここまで、そう印象付けられる秘書さんもなかなか凄まじいが。
ともあれ。
一通り指示を出し終えたところで、おそらく秘書さんであろう人が一礼して退室する。
秘書さん(仮)の足音が遠ざかるのを確認したところでハーバー氏が、
「それじゃ、あなた達には今から、今朝あなた達が脱走した奴隷商について色々訊こうと思うんだけど、いいかな?」
有無を言わせぬハーバー氏の態度に、ハラリのおっさんと少女が首肯を繰り返す。
「それじゃ、あたしはこのコを休憩室に連れて行きますが、いいですか?」
「場所は分かる?」
「昔、あたしがよく遊んだ場所ですよね?」
「うんそこ。それじゃよろしくね」
ナイルが首肯し、僕の首根っこを掴んで部屋を出る。
抱え方が男前っていうか、猫だ。
そこはせめて抱っこかおんぶがよかったのだけど。っていうか普通に歩けるのだけど。
僕がそれを主張すると、「うるさい」と一蹴される。
なんだか不機嫌だ。
ナイルが廊下を歩く。
途中、二回道を間違えて引き返しはしたものの(その際、八つ当たりとしてこちらの乳首をつねる、尻を叩く等の事をした)すぐに目的地の仮眠室だか休憩室だかに到着する。
扉を開き、狭い部屋内にあるベッドに僕を放り投げる。
少し硬めのベッドに放り投げられた僕は「ぐぇっ」と呻き声をあげ、なにをするんだとナイルを睨む。
が、ナイルの鬼の形相には勝てず、すぐに目を逸らす。
「あたしが何を言いたいか分かる?」
「あたしの前で面倒ごとを起こすな、生きる価値のないこの屑がァ……とか?」
「アルカの中のあたしってどういうイメージなのよ…………そうじゃなくて、どうしてここに来たの? よ」
「そりゃあ、ナイルに言いたい事があって…………えっと…………」
虐められてるのに学校に戻ると決めたナイルに言いたい事…………なんだっけ?
ナイル父から虐められてるのを聞いて居ても立っても居られなくなって、後先考えずに動き出しただけなんだよな。
どうして行かないといけないの、は違うし。頑張れ、もなんか違う。いつ戻ってきてもいいよ、というのもなんかナイルの覚悟を無下にしている気がするし、どうなんだろう。
ナイルの事が心配だけど、ナイルの応援もしたい。
頑張ってほしいけど、無理はしてほしくない。
「何を言いたいの?」とナイルが問う。
「よく分かんない。ナイルが虐められてるって聞いて、居ても立っても居られなくなって、勢いで来ただけだから…………そしたら色々トラブルに遭って、あんな風になっちゃったけど」
「トラブルに関しては、まぁ、仕方ないとしておくわ。アルカが困ってる人を助けようとするのは解ってるから。でも、あたしに会いに来たのはどうして? あたしは何も困ってないわよ?」
「そうだけど…………これはただの自己満足なのかな……?」
ナイルがため息を吐く。
「別にあたしはアルカの、応援と心配を否定するほど狭量じゃないし、追い詰められてもないわよ。そこは素直にどちらか、あるいはどっちも言ってくれればいいわよ。それを聞いてあたしは元気づけられるんだから」
「頑張って! でも無理はしないで…………!」
「うん」とナイルが笑顔で頷く。
「ただまあ、いきなり別の女の子と一緒なのには少し驚いたけれども……」
「いや、事情は説明したじゃん!」
「分かってる。それにあんたとあたしは別に付き合ってる訳じゃないから、あんたが誰と交際しようと自由だし…………でも、別れた翌日はちょっと早すぎるわよねぇ……」
あからさまなため息に僕はどうしていいか分からず、狼狽えてしまう。
それを見てナイルの口元がにやけるのに気付いて、彼女が僕に意地悪を言ってるのだと悟る。
「…………なんだ、そういう事か」
「あ、バレたか」
勘の鋭いナイルはこちらの一言で、僕が気付いた事に気付く。
「そんなに怒ってなかったのか……」
「まぁ、あんたがロリコンとは思ってな…………いや、ネアちゃんの件もあるから疑わしいわね」
「いや、全然同年代なんだけど? むしろ角アリの娘に至っては、年上かもしれないんだけど?」
前世を含めたらまた話は違うのだけども。
「そ、そういやそうだったわね……」とナイルが若干口元をひきつらせて言う。「その件があるから振ったんだって忘れてたわ」
「忘れるような事かなぁ」
一息。
「それじゃあ、あたしはハーバーさんのところに戻るから、あんたはゆっくり休んで、ちゃんと魔力を回復させなさいよ」
「あ、うん。自分でも意外と疲れてるって思うからぐっすり寝られると思う」
「あんだけの規模の爆発を起こせばね…………それはそうと」
と、ここでナイルが密室なのに辺りをキョロキョロ見回して、そっと囁くように僕に言う。
「あんたと一緒にいたあの男……ハラリさんって言ったっけ? あの人って一体何者なの?」
「最初に説明した通りだよ。奴隷商に捕まった時に一緒の牢屋に居たおっさんだって。それ以外の事は何も知らないよ?」
「ふぅむ……」と唸るナイル。
「何か気になる事が?」
少年課の刑事になった気分で僕が尋ねると、ナイルは言うかどうか迷ったように口を開けたり閉じたりしながら、
「あのおじさん、腕にタトゥーを入れてたのよね……。なんか怖いお仕事に就いてるのかなぁって思ったりして…………まぁ、アルカならやくざの一人や二人、相手にしたところで何も怖
くないわよね」
「怖いよ」と僕は言う。
やくざの暴力は、個人の衝動ではなくお仕事だ。
一人手を出したら、十人二十人とゴキブリみたいに増えて、それが僕だけに集まるならまだしも、僕の関係者に群がるのだからタチが悪い。
こちらがいくら強くても、それはあくまで個の戦闘力で、集団でのお仕事とはまた別物だ。
だからやくざには安易に手を出さない方が…………って、なんか僕、これまでずっと見落としてたものがある気がしてきたんだけど………………どうだろう。気のせいかな。
ともあれ、僕はナイルからの情報に頷き、そのまま硬めのベッドに寝ころぶ。
ベッドはシングルだが、子供の僕にとってはキングサイズだ。
悠々と大の字で寝そべる事ができる。
「それじゃ、あたしは行くわね」
ナイルがそう言って、休憩室から出て行く。
僕は寝転がりながらそれを見送り、そのまま何もせずにぼぉっとしていたら、いつの間にか眠っていた。
◆
昼寝特有の気怠い微睡に包まれながら目を覚まし、再び微睡から深い眠りに落ちようとしたところで無粋な扉の音がした。
「起きたぁ?」とナイルの声。
二度寝の誘惑に屈しようとしたところなのに、なんとも腹立たしい。
そのまま無視して寝ようとしたら「ぐえっ」「起きなさい」踏まれた。
わざわざ靴を脱いでの、踏みつけ。
踏まれた場所と力加減が絶妙だったので、思わず新世界への扉が開かれそうになった。
「…………大丈夫? 具合悪いの?」
……心配されてしまった。
僕が新世界への扉を開く反応は、泣いて土下座する子供の尻を平然と蹴り飛ばす鬼畜外道ナイルでさえも心配してしまうものだったらしい。
ともあれそんなこんなで目を覚ます。
「無理しないでいいのよ?」
まだ心配してくるナイル。
そのリアクション引っ張らないで。
「大丈夫だって。元気いっぱいだから」
どこが元気いっぱいかまでは言わないでおく。
「本当? それならいいんだけど……」
ここまでやってようやくナイルが態度を普通に戻す。
「状況はどう? あのコの母親は見つかった?」
「まだ。だけどどの船に居るかはほとんど確定したっぽい」
「見つかってないのに、確定できるんだ……」
「なんか、判るんだって」
探知魔法とかの類だろうか。
ともあれ、ほとんど見つかりそうなのでよかった。
「それじゃ、僕はあの爆発をまた起こせばいいんだよね?」
「そうね。詳しい事はハーバーさんに訊いて。勝手にやったら、また変な混乱が起きるから」
「そのハーバー氏はどこに? さっきの部屋?」
「一緒に行きましょ。ほい」
ナイルが手を差し出すのでそれを握ると、引っ張られて、またしても首根っこを掴まれた。
「じゃ、行くわよ」
「えぇ……」
ちょっとペースが間に合わなくなってきたので、今後、更新速度落ちるかもです。すいません。できるだけ早めに投稿できるよう頑張ります。




