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魔王の器  作者: 北崎世道
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集団脱出

「ここから出る方法、教えてやろうか?」という発言を、ハラリは一切しなかった。


 なんだか意味ありげに出てきた奴だし、得体の知れない雰囲気も醸し出しているが、近くにいるとどうもこの男はただのおっさんではないかと思えてくる。


 もしかするとこのおっさんは秋葉原や小学校近く、冷蔵庫の裏など、どこにでもいる普遍的なロリコンで、僕が女児服を着ているせいで、おっさんのロリコンセンサーが反応してしまっただけかもしれない。


 余裕ありそうにみえるのも、僕にいいところを見せようとしている一環なのかもしれない。


 そうなると、この男が一瞬で哀れな存在に見えてくる。


 髪も心なしか薄く感じられてくる。


 気のせいだといいけど。


 暫く、下心ありそうなハラリの戯言を聞き流していたら、不意に物置みたいな部屋の扉が開いた。


 扉から背と意識の高そうなビジネスマンみたいな男が入ってきた。


「なんだこいつは」


「奴隷商だろう」とハラリが僕の疑問に答えた。「違法のな」と付け加えて。


「違法?」僕が訊くと、ハラリは意外そうな目でこちらを見て、


「なんだ? お前さんは無理やり連れて来られた訳じゃないのか?」


「無理やりっつうか公園で寝てたら、いつの間にかここってだけだよ」


「なら違法だよ。本来、奴隷っつうのはそう扱うのが認められた奴にしか与えられない属性なんだ。まぁほとんどが金で売られた奴なんだけどな。中には犯罪者もいるけど、それも国に金で売られたと捉える事ができる。勝手にその辺を奴を捕まえて、今からお前は奴隷な、と言われて納得できる奴がどこにいる?」


「……まぁいないよね。とりあえず状況は解かった。あの男が犯罪者で、僕達は皆被害者って事だね」


「そうなるな」


 ハラリが自虐するように笑う。


「だが現状、俺らはあいつに歯向かう術は持ち合わせていない。このままここでじっと待って、時期がくれば売られていくだけさ」


「ふうん。でもまぁ、一応確認してみるよ」


 僕はそう言って、手を上げる。


「おーい。すいませーん。そこのおにーさん。すいませんけど、出してくれませんかー? なんか起きたらこんなところで、困ってるんでーす」


「おい馬鹿、お前……っ!」


 ハラリが詰め寄るのを無視して、僕はそいつに声を掛け続ける。


 しかし予想に反して、奴隷商の男はこちらを無視し続けた。


 まるでこちらの声が聞こえてないかのように。


 いや、もしかしたら本当に聞こえてないかもしれない。


 周りにはたくさんの奴隷が居て、その人達が各々悲痛な叫びをあげているからだ。


 それでも僕は声を上げ続けた。


「助けてくださーい。これは何かの誤解なんでーす。お願いしまーす!」 


 ビジネスマンみたいな男は複数ある檻を一つ一つ不機嫌そうな目で確認し続け、暫くしてからこちらの檻の前までやって来た。


 なので僕は、その男に話し掛ける。


「すいません。これは何かの誤解なんです。出してください。お願いします!」


 男はそれでもこちらを無視し続けた。


 その目は、こちらを見下してるとかそういう次元じゃなく、物とかそういうのを見る目つきだった。


 完全にこちらを人間扱いしていない。


 そんな感じの目だ。


 男がそのまま別の檻に行ったので、僕は魔法でこっそり氷の粒を作って、そいつを男に投げつけた。


 粒は男のこめかみに当たり、それでようやく男はこちらに反応を示した。


「おい。今、投げたのはてめぇか」


「うん。出してください」


 僕は臆せず言った。


「僕は公園で寝てただけです。だからこれは何かの間違いなんです。お願いですから出してください」


「出す訳ねぇだろ、バァアアァカ!」


 男が嘲るように言った。


「てめぇは捕まったんだよ。てめぇの人生はもう終わりなんだよ。状況見て、さっさと理解しろよ。知能ねぇのか。このバカガキが!」


 男はそう言ってこちらに唾を吐き掛ける。


 思わぬ行為に僕が怯むと、ハラリが己の身を持って男の唾から庇ってくれた。


「え、あ、ありがとう……」


「すいません。このコには俺からしっかり言い聞かせておきますんで、どうか許してやってください」


 ハラリは僕を無視して、奴隷商の男にぺこぺこ頭を下げる。


 奴隷商の男はハラリの態度に気勢を削がれたか、それ以上何もいう事なく、他の檻の確認に戻った。


「ご、ごめんなさい……」 


「別にいいさ。それよりも解かっただろう? ここはもう、お嬢ちゃんの知るところじゃないんだよ」


「…………」


 僕は何か言おうと思ったが、近くに奴隷商の男がいるので、あえて口をつぐんだ。


 そのまま奴隷商が部屋から出るまで、ずっと黙り続けた。



 ◆



 奴隷商の男がいなくなってから、僕は再度ハラリに謝罪した。


「ごめんなさい」 


「だから別にいいってば。それよりアルカちゃんは大丈夫かい? どこも怪我してない?」


「うん。大丈夫……です。特に暴力を振るわれてないというか、振るわれるようなスペースはありませんし」


「分かんないよ。俺らのこの首輪には仕掛けがあるからね。あの男が持ってる機材を使うと、首輪に電流が流れる仕組みなんだ。だから彼にはあまり反抗的な態度を取らない方がいい。機嫌を損ねたら、首輪から電流が…………いや、お嬢ちゃんなら大丈夫かな。あの男が商人なら、わざわざ商品価値を下げるような真似はしないだろうし。だから唾で済ませようとしたんだよ」


「商品価値……」


 怪我をするとまずいって事か。


 あくまで、男にとって僕達は商品って事なのだろう。


 しかしまぁ、あの男の態度からして、こちらが挑発し続けたら、そのうちあっさり暴力を振るうだろう。


 恰好が意識高そうなせいか、こちらを見下しきってるからか、ものすごく気が短い。


 そのくせやり口が幼稚だから、あの男の程度はたかがしれている。


 これからどうしようかな、と思っていたら、意外と早く男が戻ってきた。


 手には何かスイッチのようなモノが握られてある。


「おい」


 男はこちらまできて、下卑た笑いを見せつけ言った。


「あんまり調子に乗ると、こうだからな」


 その言葉と同時に、同じ檻に居た老人が悲鳴を上げた。


 首輪から電気が流れているのが見て判る。


「ぐあぁあああああっ!」


「なっ?」


 すぐに悲鳴は鳴りやんだ。


「解かったか? てめぇにはもう反抗する権利はねぇんだよ。解ったらそのまま大人しくしてろ。このクソガキがッ!」


 そう言って男がさっさと立ち去っていく。


 わざわざこちらに嫌がらせをする為に返って来るなんて、ものすごく器が小さい奴だ。


 たかが知れていると思ったが、それ以上に小者だったようだ。


 部屋を出る際、男が「ったく、タトゥーが連れてきた上モノかと思ったら、とんだクソガキだったぜ」と文句を言っていたのが聞こえてきた。


 …………いろいろ言いたい事はあるが、今はいいか。


 それよりもだ。


 僕は急いで電撃を浴びせられた老人に謝罪する。


「ご、ごめんなさい。僕のせいで……」


「…………いや、いいんだよ。ここに来たばかりじゃと、何も分からんだろうからね」


 お爺さんは許してくれた。


 優しいのもあるが、既にこちらへ怒りをぶつける程の気力が失われているからのような感じがした。


 …………くそが、と僕は内心毒気づく。


 このままここには居られない。


 どうにかして、早くここから出ないと…………。 


 僕は辺りを見渡すが、解決できそうなものは何も見当たらない。


 ここには奴隷を拘束する為の道具しかない。


 どうしようかと悩んで、ひとまず両腕に魔力を籠めて、腕輪を壊そうと試みた。


 ぱきゃっ。


 そしたら意外とあっさり、腕輪が壊れた。


「あれっ?」「はっ?」「え?」


 僕とハラリとお爺さん、三人が同時に声を上げた。


 どうして壊れたのか、と分からない反応。


 力を籠めた僕自身、ここまで簡単に壊れるとは思っても見なかった。


「お、おい。それどうして……」


 ハラリが問い詰めようとするのを無視し、ひとまず僕は自分の首にもついてる電気が流れる首輪を力いっぱい引っ張ってみた。


 ぱきゃり。


 これまたあっさり首輪が壊れてしまった。


 全力を出す前に、簡単に引き千切る事が出来た。


「…………意外と脆いみたいですよ。腕輪と首輪」


「は、はぁ? そんな訳ねぇだろ……」


 ハラリが困惑しながら腕輪を引っ張るが、ビクともしない。


 首輪も試してみるが、腕輪と同様、全然壊れそうにない。


 隣でおじいさんと同じ檻の青年、おばさんも試していたが、ハラリと一緒で駄目そうだった。


「ちょっと貸してみ」


 そう言って僕がハラリの腕を左右に引っ張ると、腕輪は簡単に壊れた。


 首輪も、同じく簡単にぱきゃり。


「おじさんって、思ったよりも力弱いんですね……」


「…………っ!」


 僕の言葉にハラリが一瞬鼻の穴を拡げたが、特に何も言い返せず黙っていた。


 僕は続けて、同じ檻の人達の腕輪と首輪を引っ張って壊してあげた。


「…………っ!」


 全員が驚愕というか、呆然としてしまった。


 僕は、どうやら自分の方が異常なんだと気付き、ひとまず肩を竦めて誤魔化してみた。


 そのまま、僕は何も言わず檻の鉄格子を引っ張り、ひん曲げてみせた。


 案の定、鉄格子は粘土みたいに簡単に曲がった。


 これなら隙間から簡単に抜け出せる。


「お嬢ちゃん、キミは一体何者……」


「いや、そんな事はどうでもいい。今のうちに脱出し────、」


「待って。どうせならここにいる全員を脱出させたいから、もう少し待ってて」


 お爺さんの言葉にハラリが被せて、ハラリの言葉を僕が被せて言った。


 僕の意見にハラリも、他の三人も反対はせず、黙って首肯した。


 五人の意思が一つになったので、僕は小声で他の四人に指示を出した。


「…………ひとまず皆さんは、他の檻の人達にこの事を伝えてください。そして静かでいるようお願いしてください。全員で一気に脱出した方が、逃げられる可能性が高いと言って」


「分かった。後は、腕輪首輪も壊しやすいよう、予め言っておいた方がいいだろう。その方が効率的に壊す事ができる」


「あ、はい。助かります」


 手短に作戦会議は終了する。


 そのまま僕達は行動開始。それぞれが静かに動き出す。


 僕はまず一番近くの檻に近付き、小声で静かにするよう頼み込んでから、鉄格子をひん曲げて、檻の中に入る。


 檻の中の人達は最初こそ、声を上げそうになったが、それでも全員逃げたい気持ちは一緒なので、黙ってこちらの指示に従い、腕と首を出してくれた。


 そして拘束具を壊した後は、すぐに逃げ出さずに、そのままそこで待機してくれた。


 僕は次に、さっきの四人が予め説明してくれた檻に向かい、これまでと同様、鉄格子をひん曲げ、腕輪と首輪を引っ張って壊した。


 行動はスムーズに行われた。


 全員、ここから逃げ出したい気持ちは一緒だったし、中には一人で先に逃げようとする奴もいたけど、そいつは他の人達に取り押さえられていた。


 僕がどんどん檻と拘束具を壊して、いよいよ全員分のを壊し終えた後、ハラリがギリギリ皆に聞こえるだけの声で言った。


「よぉし。全員壊し終えたようだから、今すぐにでも脱出するぞ。カウント、3,2,1…………GOッ!」


 扉を開け、全員が一気に部屋の外へとなだれ込む。


 とはいえ意外にも意思疎通は完璧で、誰かを押し合いへし合い、踏み潰したりするような惨事は起こらなかった。


 どうやら最初に行った作戦会議以外にも、こういう状況で起こりえる惨事を回避する為の説明も予め行われていたようだった。


「…………ふう」 


 全員が効率よく扉の外に出て行くのを眺めながら、僕は軽く息を吐く。


 どうやら僕はしんがりのようだ。


 別に誰かが止めに来ても、僕なら簡単に突破できるから問題ないのだけど。


 そのままゆっくりしていたら、ハラリから声を掛けられた。


「おい。何してるんだ。ゴリラちゃん。俺たちもさっさと動くぞ」 


「あ、うん。先導してたんじゃないんだね」


 ゴリラちゃんという呼び方は流しとくとして。


「他にそういうのが得意そうな奴がいたから、そいつに任せた。それよりもゴリラちゃんはまだいけるかい? 体力には余裕ある?」


「あ、うん。全然余裕」


「なら、頼みがあるんだが、どうやらここ以外にも、捕まった奴がいる部屋があるらしいから、そこも頼んでいいか? おそらくそこは希少な奴を捕まえてる部屋らしいんだが」



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