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魔王の器  作者: 北崎世道
6/21

無謀

 師匠の家で二度目の朝ごはんを食べ、その後、いつものように魔法の訓練を行った。


 瞑想から始め、魔法学の勉強、魔力トレーニング、新しい魔法の習得、などここ毎日やってる定番メニューをこなすと、あっという間に昼になる。


 お昼は師匠の家で食事か、自宅に戻って食事の二パターンあるが、今日は自宅に戻っての食事にする。


 というのも、


「今日はパパがお仕事お休みだから、一度お家に帰るね」


「そう。そしたら今日はもうお休みにする?」


「えー、まだ訓練したーい」


「別にいいわよ。なら食べ終わったら、戻ってきなさい」


「やったーっ」


 我ながら子供の振りが上手くなったものだと思う。


 振りというより、結構自然にこういうリアクションをとってしまうから、演技でもなんでもないのだけど。


 精神が身体に引っ張られてるのかもしれない。


 ともあれ、そんな感じで師匠宅を出て、一度帰宅する。特に両親には何も言ってないけど、子供が家に帰るのに、理由なんていらないだろう。


 飛行魔法であっという間に帰宅し、自宅の扉を開ける。


 …………居間が妙に静かだった。


 あまりに静かだったので、ただいま、と言うのを忘れてしまった。


 あれ? 何処にいったのだろう?


 そう思って、僕は二階に上がると、二階から両親の声が聞こえてきた。


「…………ちょっ、もう少しで……っ……アルが帰って…………っ…………くるからっ…………んんっ」


「大丈夫だって。それよりもそろそろ二人目を…………」


 僕はすぐさま一階に降りた。


「…………」 


 さて、どうしよう。


 居間で両親の営みが終わるのを待つか。


 自分でご飯を用意できなくもないけど、そしたら僕が帰って来てる事がバレてしまう。


 声を掛けないと、僕が気を遣っているのがバレてしまうし、かといってあの状況で無邪気に声を掛ける程、僕は神経が太くない。


 僕は一度、外に出た。


「…………ふぅ」 


 とりあえず師匠の家に戻る事にする。


 戻ってきた理由については…………まぁ、師匠なら何も言わずとも察してくれるだろうから、大丈夫だろう。


 僕は飛行魔法を発動し、さっき来たばっかりの道を戻る。


 到着。


 師匠の家にまた戻ってきた。


 まさかこんなに早く戻るとは思わなかった。


 師匠の家の扉に手を掛け…………ふと、ここで僕は奇妙な感覚を得た。


 先程と、似たような感覚。


 自宅で覚えた、あの感覚。


 僕は、魔法を使ってみた。


 探知魔法。


 僕が覚えてる探知魔法には大きく分けて二種類のモノがある。


 一つは、何処にいるかを探知する為のレーダーみたいな魔法。


 これは誰が何処にいるか、みたいな情報を調べるのではなく、もっとシンプルに、原始的に、何処に生物の反応があるかを調べる為のモノ。


 情報が少ない分、その効果範囲はかなり広い。


 魔物を探す時に使う為のモノだ。


 もう一種が、それとは逆の、効果範囲は狭いが、対象の細かい情報を手に入れる為のモノ。


 対象のデータを手に入れたり、あるいは何を話しているかと盗聴したり、とにかく目的に合った詳細な情報を手に入れる為のモノだ。


 広く浅くか狭く深くかの二択だ。


 今回僕は後者を選んだ。


 そして後者のうちの、盗聴ができる魔法を選んだ。


 と言っても、自分の耳がよくなるだけの魔法だ。


 聴力強化。


 効果範囲を師匠の部屋に限定なんかしたら、あの二人の察知能力に引っ掛かるかもしれない。


 僕が飛行魔法で家の前まで飛んできたので、既にギリだ。


 二人の意識がどこか別のところに行ってない限り、気付かれる恐れがある。


 …………気付かれたら気付かれたで、別にいい気もするけど。


 まぁ、細かい事は気にしない。 


 とりあえず今は、聴力強化の魔法を使って、師匠たちの様子を探ろう。


 僕は魔法を使い、耳を澄ませてみる。


「ちょっ、アルが帰って来るって…………んんっ」


「大丈夫さ。いくらなんでもこんな早くに帰って来る筈ないさ。それよりも、キミが誘ってきたんだから…………」


 僕は慌てて魔法を解いた。


 どうやら師匠たちも大人の営みに励んでるらしい。


 朝の時点で、二人がそういう関係になったのは薄々感じてはいたが、やはりそういう事だったか、と納得する。


 それよりもだ。


 …………これからどうしようか。


 これで、自宅も師匠宅も帰れなくなった。


 勿論、ある程度時間が経過すれば、普通に帰れるのだけど、それはちょっと退屈だ。


 一応、両親からある程度のお小遣いは貰っているので、街でお昼ご飯を買う事はできなくもない。


 三歳児が一人でご飯を食べる光景は少し闇が深そうなので、変装魔法を使って、ご飯を食べる事にしようか。


 いや、それよりも、以前からずっとやってみたい事があったので、それに挑戦してみようか考える。


 …………うーん。


 折角だし、挑戦してみようか。


 朝、二食だったので、お腹はそこまで減っていないし、お昼抜きで挑戦するのも悪くない。


 うっし。


 そうと決まれば、行ってみよう。


 飛行魔法発動。いざ行かん、目的地へ。


 目的地は街の中にある、とある施設。


 その施設内には、僕が行きたいと思ってるところへの入り口がある。


 ダンジョンだ。


 異世界にありがちなダンジョン迷宮だ。


 それの入り口である。


 この世界におけるダンジョンは、僕の探知魔法と同様、大きく分けて二種類ある。


 一つは其処自体がダンジョンであるモノ。


 遺跡とかがこれに該当する。


 元の世界基準で考えるなら、廃墟巡りや洞窟内探検みたいな感じだろうか。


 そんでもう一つ、これはダンジョン自体はそこにはなく、ダンジョンの出入り口だけがそこにあるパターン。


 この世界にあるのは、異空間へ繋がるワープ装置だけで、それを通ると異世界からの異世界、ダンジョン迷宮に潜ることになる。


 このダンジョン迷宮は、元の世界基準で考えるなら、ウィザードリィの世界に入り込んだみたいな感じだろうか。


 意訳するなら、前者が現実世界で後者がゲーム世界みたいなものだ。


 どっちも魔物いるから、ある意味どちらもゲーム的ではあるかもだけど。


 んで、今から僕が向かうのは後者のダンジョン。


 街の中にダンジョンに繋がる異空間への入り口があるから、そこに向かおうって感じ。


 ただまぁ、問題はあって、三歳児が一人でそこに向かおうとすると、当然ながら止められる。


 そりゃそうだ。


 いくらこの世界の治安が悪くて、他人に無関心な世界観でも、幼児が危険な場所に潜るのを止める大人が一人もいない訳ではない。


 確かに幼児が一人で出歩いていたら、誘拐して、奴隷屋に売り渡す悪い大人はたくさんいるけれども。


 だからといって、良心的な人がいない事にはならない。


 そういう訳だから、僕は変装の魔法を使う。


 三歳児の見た目から、十五歳くらいの見た目に変化する魔法だ。


 二年前は何故か八歳児くらいにしかなれなかったけど、今はある程度年齢操作ができて、十五歳になる事ができる。


 もっと年上になれない事もないけど、あんまり意味がないのでやらない。


 十五歳くらいが一番やりやすいし、動きやすい。


 僕は飛行魔法を止め、こっそり地面に降り、路地裏に隠れて変装魔法を発動させる。


 テロリロテロリロみたいな音楽が流れて、一度全裸になってからコスチュームチェンジ、みたいな演出が入る訳もなく、普通に見た目が変わる。


 とはいえ、そのまま変化じゃちょっとグロいので演出効果として変身中は身体が光に包まれるようにしている。


 発光して周りが明るくならない程度の光。


 暗い路地裏でいきなり発光したら、目立っちゃうから。


 とにかく変装完了。


 っていうかむしろ変身完了。


 これで、僕の見た目は十五歳になった。


 ちなみに外見だけじゃなく、実際の手足の長さや、視線の高さ、それから触った感触も十五歳。外見通りのものになっている。


 だから変装ではなく変身。


 ただ、筋力などの能力面が変化している訳じゃないので、強化とは言わない。あくまで変身。


 ちなみにちなみに、服装も見た目に合わせて変化させているけど、これは僕の手から離れたら、元に戻ってしまう。


 僕が意識を集中させれば、元に戻らない事もないけど、結構大変だからあんまりやりたくない。


 っていうか、僕の手から離れたらって、要は服を脱ぐ事だから、脱がないけど。


 三歳児の全裸は微笑ましいけど、十五歳の全裸はただのストーリーキング。性犯罪者だ


 見た目十五歳になった僕はその足で、目的地のダンジョン入り口へ向かう。


 ダンジョン入り口は街の中に複数あり、そのうちのいくつかは入り口前に兵隊さんが立ってて、入場料を取ってくる。


 でもまぁ、周りに様々な施設があったり、入り口をしっかり固めてあったりで、色々と便利が良さそうだ


 対する無料のところは、なんか壁に穴が開いてるだけみたいなショボいもの。出入口というより、次元の隙間って感じか。


 目の前で転んだらうっかり入り込んでしまいそうだが、すぐに出られるから問題ない。


「…………よし」


 入る。



 ◆



 穴を通りダンジョンに入る。


 ダンジョン内は狭くて深い。


 ピラミッドの中みたいな通路が迷路のように複雑に絡み合って続いている。


「迷うわぁ」


 おやつとおかずを買う時以外でこの台詞を言う機会があるとは思わなかった。 


 とはいえ、本当に迷う事はなさそうだと、僕はしばらくして気が付いた。というより思い出した。


 というのもこの複雑な迷路には、順路が張り出してあったからだ。


 この先、右、とか。ここを左、とか。矢印付きで判りやすく壁に貼られている。観光地の駐車場よりも判りやすいくらいだ。


「初心者救済用ってところか」


 勿論、この壁紙がずっと張り出されている訳じゃない。確か、五層の小ボス前までは張り出されているんだっけか。


 それに三層までなら魔物の数も少なく、強さもへっぽこだ。たまに子供連れの親子がレジャー施設で遊ぶような感覚で来ている時もある。


 さすがにそういうのは一層か、精々二層、もしくは三層くらいまでだが。


 それでも緊張感はだいぶ薄い。


 ちなみに僕はまだ連れて来られたことはない。ま、父の仕事が忙しいから仕方ない事ではある(だからこそたまの休みに母と盛り上がってしまったんだろうけど)。


 ともあれ、そういう状況だから、三層まではほとんど迷わず、というか魔物と戦わずに来た。


 一応、遭遇自体はしたのだけど、たまたまそこに子供連れのお父さんが来ていて、できれば譲ってほしいみたいな目で見られたので、譲ってあげたのだ。


 ここからはようやく魔物の危険度が上がって、レジャー施設ではなくダンジョンとしての本来の姿が現れてくる。


 とはいえ、まだまだ序盤である事には変わりないので、たとえ魔物が出てきたとしても、僕の敵ではないのだけど。


 精々、家族連れから駆け出し冒険者レベルに上がったくらい。


 一応、魔法の訓練をしている僕にとっては、あくびをしながらでも勝てる相手だ。


 そんなこんなでこれまたほとんどノンストップで五層の小ボス前まで来ることができた。


 五層の小ボス戦。


 一応、ボス扱いなのでそれ専用の部屋が用意されているのだが、まぁ、ぶっちゃけここまでの雑魚敵とさほど変わらない。


 駆け出し冒険者にとってはそれなりに変わるのかもしれないけど、僕にとっては全然。レベル1のスライムがレベル2のスライムになった程度。


 専用の部屋がなければ、ボスとさえ気づかない程度のモノ。余裕余裕。


 なので楽々突破し、今度は十層までを目指す。


 ここからようやく本番開始といったところか。


 …………なんて思っていたのだが、実際にいってみるとそうでもなかった。


 時々、出てくる魔物が一匹ではなく二匹になったりすることもあったが、その程度では僕は苦戦しない。する方が難しい。


 なのでここも余裕で突破。


 あっという間に十層まで到着。


 と言いたいところだが、残念ながらそうとはいかずに、道に迷ってしまった。


 五層以降は 順路の書かれた紙が貼られておらず、頭の中できちんとマッピングしないといけないので、大変だった。


 しかし、見方を変えれば、マッピングすれば余裕だし、魔物も敵じゃないので、それほど困る事もなかった。


 最初に余裕ぶっこき過ぎなければ、道に迷う事もなかっただろう。


 そんな訳で十層に到着。


 誰もボス戦待ちもしていないので、そのまま突撃。


 余裕で突破。


 一応、今回はボス扉がなくても、ボス戦だと判るくらいの強さではあった。


 一撃が二撃になった程度。


 こっちがもう少し強い攻撃をすれば一撃で片付けられただろう。


 さて。


 ここまできて、いよいよワープゾーンが解放。


 次に来るときはここまでの道のりを全部カットする事ができる。帰りもここに来れば一層まで一瞬で戻る事ができるし、なんとも便利な場所である。


 このワープゾーンは十層ごとに設置されており、全ての冒険者はこのワープゾーンを目的地としてダンジョンに潜ることが多い。


 だから十層進んで、最後にボスみたいなのが基本パターンである。


 ま、僕はまだまだ行けるので、このまま進むけど。


 二十層までのダンジョンはこれまでと雰囲気がガラリと変わり、レンガで固められた狭い通路から、広い洞窟みたいな空間になる。


 通路から空間の変化。


 一般的にはかなり道に迷いやすくもなってるのだが、天井が高くなったので、空を飛ぶことができ、僕個人の視点で言えば、むしろ判りやすくなったぐらいだ。


 楽。


 エンカウントする魔物もまだまだ敵じゃないので、余裕綽々。探索に支障はでない。



 ────しかしながら、この時の僕は気付いてなかった。



 十層を越えた辺りから、時々、明らかに強すぎて、逃げる事が前提のレアな魔物が出てくるようになる事など、考えもしなかった。


 ここまで余裕だったからこその油断である。


 そしてダンジョンではその油断こそが往々にして命の危険をもたらすものである事を。



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