表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の器  作者: 北崎世道
52/86

OL

 言葉とは、意味を表すため声などに出したりしたものであり、声とは口から出した音で、音とは空気の振動である。


 だから、空気の振動を使わずに脳内に直接声以外の方法で、言葉ではなく意味そのものを届かせるこれは一体なんなのか。


 とても不思議な感覚。


 五感以外から情報が入るってのはこういうものなのか。


 でも、アウルアラと話してる時も案外これに近いところがあるので、そこまで珍しくはない。


 強いて言うならアウルアラは言葉をそのまま頭の中に響かせてくるが、今回の≪私は美しい……≫とかいうナルシズムの極致は、言葉ではなく意味そのものを頭にぶち込んできている。


 とりあえず僕は、うわぁ……、とドン引きしておく。


 それから一息入れた後で、「ああ、転生時に会った女神様じゃん!」と驚いてしまう。


≪そう……私は美しい女神……≫


「いや、そういうのはよいから」とアウルアラが女神様相手に雑な対応する。


「ひとまず覚えておいたようじゃが、一応説明しとくと、こやつは、お主が元の世界で死んだ直後、こっちの世界に来る前に会った女神じゃよ」


 僕の記憶を元にアウルアラが、僕と会った女神様の紹介をする。


 前に会った女神じゃよ、は別にいいけど、アウルアラ自身は前に会ってないのに紹介する側だから、なんだか妙な事になっている。


 アウルアラは続ける。


「基本的には、転生トラックと同カテゴリの存在で、童的には、この田舎者が、と主人公を絡んでくるお貴族様や、お前役立たずじゃから追放な、とあっさり有能主人公を手放すパーティーリーダー様よりも無能な感じがするぞい。だってお貴族様やパーティーリーダー様は、頑張って読者のヘイトを稼ぐ役割があるが、女神様はいてもいなくてもさほど変わらぬからな。せめて乳首やま○こを曝け出して、読者の期待と欲望を集めるくらいはせんと、存在意義なんて甘くない砂糖くらい虚無じゃろうて」


「流石、常に全てを曝け出してる女の言う事は違うな」


 っていうかお前は何視点なんだよ。


≪…………あのぉ、それより、折角私が来たんだから、私に注目してほしいんですけど≫


 アウルアラがおバカな事を言ってたら、オタクに優しい女神様はやや悲し気な声で、かまってちゃんアピールをしてきた。


 ちなみに姿は見えない。


 乳首も性器も当然不可視。


 あくまでASMRにもならない声だけ。


≪一応アウルアラさんに呼ばれて来たんだから、アウルアラさんはもう少し責任を持って説明してほしんですけど。いきなり私が出てきて、ウギャト・ラックさんも困惑してるじゃないですか≫


「いや、ウギャト・ラックじゃないから。アルカ・フェインだから」


≪あ、すいません。ウギャト・フェインさん≫


 どうやら(たしか)皺の無いつるつる肌(だったと思う)の美人女神様は頭の中もつるつるしているようだ。


「それで、美しい女神様はアウルアラに呼ばれたって言ったけど、これは一体どういう事? 説明してくれる? なあ、アウルアラ?」


「うむ。これは単純に、お主が転生体である事にリスクについて女神様から説明してもらおうって考えたのじゃ。ついでに言うと、この女神は本物の神様ではなく、童にとってみればただの上位存在じゃ。童ではなく、この女神と同じ世界、同じステージにいる奴からしてみれば、ただのしがないOLの一匹じゃろう」


≪せめて一匹じゃなくて一人と言ってよぉ……≫


 涙声で女神様が言う。


「ほら、もう仮面が剥げかけておるぞ」


「既に剥げかけてるけどね」


≪うぅ……≫


 なんか可哀そうになってきた。


 でも、ここでぐずられても面倒なので、適当に褒めてさっさと話を進めてもらおう。


「女神様は美人なんだから、仮面なんてなくても魅力的だよ。いやホント」


≪うぅ……でも、同期で結婚できてないの私だけだし……売れ残り街道まっしぐらだし…………うぅ…………≫


「同期って、本当にOLみたいな感じなんだ……」


 神様っていうのも、なんか抵抗出てきた気がする。


 とりあえず宗教的な神様とは全く違う事はもう解った。


 上位存在といっても知能が高い訳じゃないし、かなりポンコツみたいだし、あくまで住んでる世界が上位って事なのだろうか。


 僕達が漫画の中のキャラなら、女神様が作者や読者みたいな。


≪あ、うん。ウギャト君達が漫画のキャラで私が読者って表現はそこそこ近いかな。私的にはキミ達が水槽の中の魚で私がそれを飼ってる人って感じだけど。足して二で割ると丁度いいかも≫ 


「うわっ、今、当たり前のように心の中を読んだよ。やっぱこんなにポンコツなのに、上位存在なのは間違いないのか」


≪うわぁん! 今、私、下位存在から馬鹿にされたぁ?≫


「あ、ごめん。っていうか第一印象の時と大分違うね?」


「おそらく酒でも飲んどるのじゃろう。ちょいといきなり呼んでしもうたからの」


「酒て」


「男に振られて独り酒ってところかのぅ。童の予想通りなら」


≪うわぁん。当たってるよぉ。誰か助けてぇ。ふぇえぇぇえんっ≫


「ちょっ、こんな酔っ払いの言う事、信じていいの?」


≪あ、うん。それは大丈夫だよ。本気で酔ってはないから。まだ≫


「まだ、ね」


 もう少ししたら本気で酔うって事だろうか。


 さっさと本題に入ろうっていうか、何が本題なのか。


「とりあえず、どうしてアウルアラは女神様を呼んだの? 今回の件について何か関係あるの?」


「おぉ、そうじゃった。えぇっと、どうしてお主が転生体である事を他の者に知らせてはいけないかじゃったな。理由はさっき言った通りじゃが…………それについて、女神様も教えてくれぬか?」


≪え? 別に説明はさっきので全然大丈夫だけど? 異世界転生って事がバレたら、聞いた方が消えてしまうって事でしょ? あれ以上説明する事ってある?≫


 アウルアラがものすごく渋い顔をした。


「…………それじゃあ、童が言った事が間違いではない事は証明してくれるか?」


≪うん。証明はできないけど、保証はできるよ≫


「証明はできないのか……」


≪実際、誰かに話してみればすぐに証明できるけどね。あと、証明できないのは下位存在の貴方達でちで、私と同じ世界に居られる人、貴女達的には上位存在同士って事になるかな。そっちには簡単に証明できるよ。受け手の貴方達が■■■■■■≫


「ぐああっ…………ってえ? 待って。今、なんて言った?」


≪あ、ごめん≫


 突然、激しい頭痛が襲ったかと思えば、あっさり女神様が謝罪する。


≪■■■■■■は≫「ぐああっ!」


≪…………アレはそっちの世界にはない概念だった。安易に喋ったり使ったりしたら、低位存在の脳が破裂するんだった≫


「おい、お前」


≪ごめんて≫


 ごめんで脳破裂危機はなかなか許せないと思うが、女神様はあっさり話を進める。


≪とりあえず、キミ達には転生体を他人に教えたらその人が消えるって証明はできないの。ごめんね≫


「ああいや、うん。かなりヤバい事は脳が破裂しそうなくらい分かったから、別にいいよ」


≪あはは。そりゃよかった≫


 嫌味が通じないな、この女神。


≪ああ、でも≫と女神は話を続ける。≪少し思ったのが、私がダメだって言ってるのはあくまで別世界からの転生の件だけ。それ以外の事、貴方が五歳児である事については別に全然構わないし、なんなら同じ世界の転生だって事にしてもいいよ。そうしておけば、自分は転生である事を隠さなくていいかな≫


 同じ世界への転生、か。


 確かにその可能性は考えてなかった。


「…………まぁ、だとしても、やっぱり他の人に話すのはやめといた方がいいかな。秘密がバレて困るのが僕だけならともかく、その人が消えてしまうってのは、ちょっとね。できる限り転生の事自体バレないようやっていくよ」


≪ふうん。別に私はそれでいいと思うよ≫


 他人事の女神様だった。確かに他人事だけど。


≪それじゃあ私はこの辺でいいかな?≫


「あ、うん」


≪実を言うと、上位存在の私が転生者を送る以外のカタチでそっちの世界に干渉するのはかなりマズいんだよね。こっちの世界のルール的に≫


「そうなんだ? ならどうして答えてくれたの?」


≪そりゃあ…………キミがそっちの世界の人達を消してしまいそうだったからね。その危険性を排除する為に、ほんの少しリスク負ってみました。感謝してよね≫


「あ、うん。分かった。ありがとう。でも、それなら最初から言ってくれればよかったのに」


≪…………まぁ、そうだね。その通りだよ≫


「もしかして、うっかりしてた?」


≪そっ…………そんな事≫


「あるんだね?」


≪そろそろ私は消えるね。と、とにかく私がウギャト君に話し掛けるのは今回で最後だから。また同じように話し掛けても、私は答えないから。それじゃあ!≫


 その言葉を最後に、女神様の声は聞こえなくなった。


 声っていうかテレパシーだけど、そこら辺はどうでもいいや。


 ────んで、消えてから気付いたけど、これは女神様じゃなくて、アウルアラに訊いた方がよさそうだから、訊いてみる。


「…………ところで、なんでアウルアラは女神様と交流できると知ってたの? それと、僕が転生体である事を他の人に知られちゃいけない事も知ってたの?」


「うむ?」


 アウルアラは少し不思議そうな顔をしてから、


「とりあえず今から身体を返そうと思っとったからちょいと待て」


「え? あ、戻った」


 僕は両手をグーパーして、感覚を確かめる。


 うん。身体が元に戻った。自由に動かせるように戻った。


「ありがとう」


「いえいえ。緊急事態で勝手に奪ってしもうたままじゃったからな」


「それで、話を戻すけどアウルアラはどうして女神様と交流できた事と、僕が転生者である事を他の人に知られちゃいけないって事を知ってたの?」


「うーむ」


 アウルアラは少し迷うようなそぶりをみせ、


「…………交流できるかについては、昔、童が生きてる時の記憶が断片的にあって、その中になんか神様と喋ってね? って感じのがあったからじゃな。童も半信半疑じゃったが。そんで、お主らが誘拐犯の後処理を行っとるときに、童が心の中で、お主に聞こえないよう空に向かって尋ねてみたんじゃ。そしたらできてのぉ」


「話したらマズいって言ってたのに?」


「おそらく、お主と童じゃ立場が違うんじゃろ? ほら、お主は生きとるが、童は死んどる。そこら辺が関係しとるんじゃないか?」


「ふうん?」


 なんか釈然としないが、まぁいいか。


 追及したところで答えが返ってくるわけでもなさそうだし。


 それに、異形化ジャントルとの戦闘でアウルアラには恩がある。


 何か隠していたとしても、とりあえず今回は気付かない振りをしておこう。


 それよりも今は、もっと重要な事がある。


 結果的に、僕がナイルを振ってしまった事について。


 それについて考えよう。


 うーん。



 ◆



 ふう。危なかった。気付くのが思ったよりも早かったから、ちょっとビビッてしもうたわ。


 でもまぁ、追及してこんかったからいいわ。それよりも今は、あのアホ女神に話す事があるから、もう一度話しておこうかの。


 おい、聞こえとるか、アホ女神。


≪…………もう、アホって言うのやめてよ≫


 念の為に訊くが、これはアルカには聞こえとらんのじゃろ?


≪うん。聞こえてないよ。アウルアラちゃんが声を出さない限りね≫


 うむ。それなら問題ない。憑りついた状態での意識の伝達については色々試しておるからの。


 それじゃあ女神様に訊くが、アルカに紹介する前に話したあの件についてはどうじゃ? 童の願いは叶えてくれるか?


≪アレについて黙っていてくれるなら、アウルアラちゃんのお願いは頑張って叶えようと思うよ。でも正直、かなり規模の大きな願いだから、叶えるのにかなり時間がかかるかな。今すぐはちょっと無理≫


 うむ。それは仕方ないと判っとる。じゃからある程度、覚悟しとる。


 それで、どれくらい掛かりそうじゃ?


≪年内は無理かな。少なくとも三年以上は見てもらっとかないとキツいと思う≫


 もっと短くはできぬか?


≪やったらお互いマズい事になりそうだから、やめた方がいいかな≫


 ぬぅ。仕方ないか。


≪あ、ところで話は変わるんだけど、そっちの世界ってダンジョンあるじゃない?≫ 


 あるの。


≪ダンジョンって、どうもアレと一緒でこちらの世界の力で創られてるみたい≫


 ペストマスク阿修羅と一緒でか?


≪ああっ! だから言わないでってばぁ!≫


 おお、すまぬすまぬ。アレのおかげでお主の弱みを握れたと思うたら、ちょいと嬉しくなってのぉ。


≪もぉ≫


 んで、先程なんて言ったか? ダンジョンが上位世界の力によって創られた、と?


≪うん。しかも驚いた事に、あなた達の世界の住人が私達の世界の力を勝手に使って創ったみたいなんだよね≫


 こちらの世界の者が、じゃと……?


≪今も生きてるかは分かんないけど、っていうか、分かってても言えないけど。私達上位世界の力を使える下位世界の住人がいるって事は覚えててね。それじゃあ、バイバイ。お願いが叶えそうになったぐらいでまたお告げするね。またね。バーイ≫


 ……………………むぅ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ