ペスアシュ
気付いたら僕の身体が誰か別の奴に取られていた。
目の前には異形の化け物。
全く意味が分からない。
「…………え? なに? どゆこと?」
────お、起きたか? 存外、目覚めるのが早かったな。状況は分かるか?
「え? 何? その声はアウルアラ? なんで勝手に僕の身体、乗っ取ってんの? 意味分かんないんだけど? 返してよ」
────悪いが、今は駄目じゃ。ちとまずい状況じゃから。最期の記憶は思い出せるか? 言ったらそこから説明してやるから。
「え? えっと確か…………ああ、そういえばあのジジイ。ジャントルのジジイにボコすか殴られてたのは思い出せる。馬乗りされて、めっちゃ虐められてた。あれはそんなに強くなかったけど、え? もしかして僕、負けたの?」
────うんにゃ。違う。お主は勝っとったよ。ただ相手は最後に拳銃を使うて、お主の頭を吹っ飛ばしたんじゃ。そんでお主は死んだんじゃ。
「え? 僕、死んだの? もう生き返れないの?」
────いいや。生き返れるぞ。てか、もう生き返っとるよ。脳みそ吹っ飛ばされたが、すぐに再生して何の問題もない。お主は一時的に記憶を失っただけじゃ。強い衝撃を受けたらそういう事があるのは、なんとなく判るじゃろ?
「あぁ…………うん。まぁ、なんとなくは……」
────そういう事じゃ。でもって、事態はそっから童も予想してなかった状況になるんじゃが、まず、お主の中に変な化け物がおったんじゃ。童と同じような奴。ペストマスクの阿修羅像みたいな奴じゃ。なにか心当たりはあるか?
「ペストマスクの阿修羅像……………………あ、なんか思い出した。夢で見た事がある。えっと…………断片的だからほとんど覚えてないけど」
────そうか。なら童もきちんと説明できんわ。ただ、そいつがいきなりお主の身体から出てきて、ジャントルのジジイに乗り移ったんじゃ。出て行く際にお主の脳を再生したのもあやつじゃな。あやつの目的は分からんが、おそらく目的がどうこう語れるような、そこまでの知性はなさそうじゃぞ。現状はおそらく本能だけで動いとるわ。
「え? って事は目の前の化け物って、あのジャントル? 姿、変わってるんだけど?」
────異形化したんじゃ。正直あやつはお主の手に負えんじゃろうから、童がこのまま闘ってやるという訳じゃ。理解したか?
「…………あ、うん。まだきちんと飲み込めてないけど、とりあえずあの化け物は僕じゃ対応できないのは理解した。代わりに闘ってくれてる訳だね」
────そういう事じゃ。と言ってもまだ、何もしとらんがな。あやつがジジイに乗り移って、異形化したところで、お主が起きたところじゃからな。闘いはこれからじゃ。
「分かった。それで、どう? アウルアラはあいつに勝てそう?」
────分からん。正直、あやつは童より格上じゃ。お主の身体の中に住んどったくせに、童はあやつの存在に全く気付かんかったくらいじゃ。…………ただ、勝機がない訳じゃない。あやつは知性がないし、なにより乗り移った器が、あのしょぼくれたジジイじゃからな。いくら格上が乗り移ろうと、あんなジジイに負ける童じゃないわ。
「うん。分かった。頼りにしてるね」
────任せとけ。それじゃ今から童は闘いに集中するから、ちと黙っといてくれ。なんか喋りかけても返事できんからな。
「了解。思い切りやって…………あ、最後に、ひとつ。他の皆が怪我しないよう、できればバリアとか張って…………」
────分かっとる。既に張っとるから安心せい。それじゃ、思い切りやるかのう。
こうしてアウルアラが異形と向き合った。
目の前の異形の元ジャントルは、僕達が話してる間、ずっと何もせずに突っ立っていた。
全体的に細長く、骨ばった体型に、頭蓋骨がそのままペストマスク化したような顔面。
皮膚は黒く、人間の肌よりは爬虫類の鱗っぽい感じ。
阿修羅像が原型にあるせいか、眼窩が六つ横並びにあり、そのどれもが中身の空洞化を印象付けている。
元人間とは思えない風貌。
確かに知性はなさそうだ。
アウルアラが戦闘態勢に入ると同時に異形化ジャントルも戦闘態勢に入る。
人間時は格闘経験ありそうな構えだった気がするが、異形化した後ではその名残がない。
四つん這いの獣みたいな態勢だ。
四肢が異様に長いせいでどことなく蜘蛛のようにも見える。
ペストマスクの口ばし部分が開くと、中は女性器みたいなグロい形状が拡がっている。
うねうねと植物の蔦みたいなのが無数に蠢き、不気味さを演出している。
「行くぞぃ」
アウルアラが呟くと同時、規格外の戦闘が始まった。
◆
アウルアラが地面を駆け出した様な低空飛行で前進し、異形化ジャントルを上に蹴り飛ばす。
光線のような速度で蹴り飛ばされた異形化ジャントルは軽々廃工場の無駄に高い天井を突き破り、地面よりは雲の方が近い大空へと踊りだす。
アウルアラも同じ速度で続き、異形化ジャントルと同じ高さに飛び上がったかと思えば、右手から衝撃波を出し、敵を吹き飛ばす。
衝撃波で雲が槍みたいに細長く変形。
かと思えば、異形化ジャントルが手を伸ばして、それをまるで本物の槍のようにこちらへ投げ飛ばす。
アウルアラはその場でローリングして回避。
雲の槍はブレの無い直線軌道で廃工場横の地面へと突き刺さる。
地面に突き刺さった途端、槍が霧散すると、その場に大穴が開いているのが見える。
元は雲なのに、明らかに具現化している。
色々とおかしい。異常だ。
異形化ジャントルが「キャキャキャ」と笑い声をあげる。
それは人間の声というよりも、窓ガラスを拭いた時の音質に近い。
アウルアラが手からシャボン玉のようなモノをポコポコ生み出す。
クリムゾンドラゴン戦で見せた時の魔法の球体だ。
あの時とは違い、今回はそれから光線が放たれる。
光線は不規則な間隔で放たれている。
しかも球体が高速で自転しているのか、向きもランダム。
三十個程の球体があちこちに七色のレーザーが放ち、それらはまるでお昼の花火のようにも見える。
その輝かしい花火みたいなレーザーの隙間をアウルアラと異形化ジャントルが自由に飛び回り、アウルアラは闘気で創った光の大剣を、異形化ジャントルは骨みたいな剣を振り回す。
ギィンギィンと剣同士が七色レーザー花火の中で単色の火花を巻き散らす。
ふと、剣の動きが止まった。
よく見ると異形化ジャントルの骨剣は、振り回している時に変形して、葉の無い盆栽みたいな形状となって、アウルアラの大剣を絡みついている。
しかしアウルアラは何事もないかのように、冷静に対処。
闘気の剣を一瞬だけ消し、刃の向きを変え、異形化ジャントルの骨剣の枝を斬り落とす。
斬り落とされた骨剣の枝がぱらぱら零れ落ちたかと思えば、それらは小さな異形化ジャントルの姿に変形し、ロケットみたいにアウルアラに突っ込んでくる。
だが、アウルアラはその場で瞬間移動して、敵の背後に回り、剥き出しの背骨を掴んで、雲の槍でできた大穴目掛けて放り投げる。
それと同時に大穴から尖った岩が生え、異形化ジャントルの腹に大穴を開ける。
勢いよく放り投げたせいで、ジャントルの腹の大穴は拡がって拡がって、ついには上半身と下半身を分断。
死んだかと思ったが、何事もなかったかのように上半身と下半身がそれぞれ別に空を飛んで、こちらに向かってくる。
千切れた部位から中身がぼろぼろ零れていくが、まるで意に介していない。
アウルアラがこちらに向かってくる上半身と下半身にファイヤーボールを放つ。
上半身には見事命中。一瞬で炭化して、落下。
一方、下半身が何もない空を走って方向転換、ファイヤーボールを避け、こちらの顔面にサッカーボールキックを決める。
「あいだぁっ!」とやや緊張感のない悲鳴をあげるアウルアラ。「むむむ、仕返しじゃ」と言って、顔を蹴った下半身の股間に向けてゴールデンボールキック。
下半身から悲痛な叫び声。
どこから声を上げてるのか疑問だが、聞こえてきたのだから仕方ない。
「下の口は正直じゃな」
どこの口だよ。
「乙女の顔を蹴り飛ばしおってからに、ちっちゃい頃、親から女の子には優しく蹴られなさいと習わんかったんか」
なんか違うし。それにその顔は僕のだ。
あと乙女は全裸で平然と街中を歩かない。
歩くのは犬と豚くらいだ。
「うぉらぁっ!」
内股で一時的に女の子化しているおっさんの下半身に、アウルアラは大剣を振り下ろす。
だが、女の子化したおっさんの下半身はコミカルな動きでアウルアラの振り下ろしを回避。
フィギュアスケート選手みたいなアクセル回転を決めながらの廻し蹴り。
を、アウルアラは同じような回転で受け流しつつ、右手で足首を掴んで、またしても地面に叩きつける。
ぐるぐる縦回転しながら下半身は落下し、ドガンと犬○家みたいな着地を決める。
違うのは上半身が水面もしくは地面に埋まってない事。
<>みたいな足の曲がり方をしている事。(作品によっては曲がってる)
それと尻の穴から頭がひり出てくる事。
肛門からひり出たペストマスク頭蓋はきょろきょろと辺りを見渡し、そこから腕、肩と順番にケツの穴を突き破って出てきて、最後はプールから上がるように全身を出す。
完全に裂け切った下半身は今は踏み潰したセミの抜け殻みたいになっていて、中身はおろか、殻までびりびりのゴミクズと成り果てている。
「キッショく悪いのぉ。クソだらけではないか」
アウルアラが水魔法で消防車のホースの何倍も太い放水でジャントルを洗い飛ばすと、肛門から羽化した異形化ジャントルは背中から肋骨型の羽を生やして、空を飛び、襲い掛かる。
「羽を生やさぬでも空を飛べたではないか!」
それはそう。
アウルアラは逃げるように上空へと飛び、雲を突き抜ける。
追いかける異形化ジャントルも雲を突き抜け、同じ高度まで飛んだら、そこで口ばしを大きく開いて、女性器みたいな口から野太いエネルギーレーザーを水平に放射する。
バチバチと大気中に火花を散らせながら圧倒的エネルギーの奔流が渦を巻きながらこちらに向かって直進する。
こんなのが街に直撃したら、街は壊滅、辺り一帯は焦土と化すのは一目瞭然。
とんでもなくヤバい攻撃に、僕は思考を止めてたら、アウルアラはなにやら空中に扉を作り、そこにレーザーが奔るよう設置する。
極太レーザーは空中の扉を通過し、消滅。
かと思ったら雲の下から上空へと飛び、吐き出した本人へと直撃する。
ワープ二つでレーザーの軌道を変えて、本人にぶつけるという定番のカタチである。
自分で出したレーザーに撃たれて異形化ジャントルが墜落していく。
「脳なしの割にはまぁまぁかの」とアウルアラが呟いた瞬間、彼女の隣で空間が裂け、直径三十メートル程の巨大な口が現れる。
巨大口がアウルアラを咥え、歯を立て噛み砕き、バリボリ飲み込んでいく。
あまりにあっという間の出来事に、僕は言葉が出ない。
…………え? 食われた? アウルアラ……僕の身体が?
は?




