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魔王の器  作者: 北崎世道
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銃声

 馬乗りされた状態から無理やり起き上がり、相手が態勢を崩したところを思い切り殴ってやった。


「────ごめんって言ってんだろうがぁッ! このやろぉぅッ!」


 若干声が裏返りながら放った僕の拳は、ジャントルの顔面に直撃し、誘拐クソ老害の針金みたいな身体を、廃工場の硬い床の上で跳ね飛ばしてやった。


 水切りの如く二回ほど浅く跳ね、ギャウンと壁へと激突し、近くの鉄骨がしなると同時に木箱が崩れ落ちる。


「ああもう、痛かったぁ……」


 僕は泣きそうになりながら頬を擦る。


 いやもう、確かに酷い事を言ったのは認める。


 内容がどうあれ、本人が大切にしている事を馬鹿にするのはあんまりよくない事だ。


 なので殴られながらも必死にごめんさいごめんさいと謝ってたのだけど、全然これっぽちも、耳の穴と尻の穴が入れ替わってんじゃないかってくらい届いてなさそうだったので、ついつい思いきりぶん殴ってしまった。


 立ち上がってからの即パンチだったから、あまり踏み込みとかなってなかったけど、まぁ、吹っ飛んだから良し。


 年でもないのに立ち眩みしそうになりながら僕は、「ふうむ」と辺りを見渡す。


 なにやら観客の皆は、口をポカンと開けて呆然としていた。


 馬乗りされてから反撃したのが予想外だったのか、それとも僕はやられてしまったと思ってたのか、ナイルとキラレキなんて涙を流しながら大口を開けてたので、滑稽さよりもなんとなく不気味さが勝る。


 とりあえず僕は、大丈夫だよと軽く手を振って見せる。


 正直、ナイルみたいな少女はともかく、キラレキみたいな大の男から泣かれても、そんなに嬉しくないどころか、むしろ気持ち悪いから泣かないでほしいのだけど、それを言ったらキラレキから軽蔑されそうなので黙っている。


 それよりも、ついつい思い切り殴ってしまったジャントルのジジイは大丈夫だろうか。


 いくらボコボコにされて頭にきたとはいえ、ちょっと強く殴り過ぎてしまった。


 僕は、不安に駆られて様子をみようとしたら、崩れ落ちた木箱の下から老害ジャントルがふらふらと起き上がった。


 なにやら戦慄の眼差しでこちらを見てくる。

「あ、大丈夫? ちょっとやり過ぎちゃったね。ごめん」


 一応、謝罪しておくと同時、ジャントルが血を吐いた。


「うわっ? ご、ごめん、マジでやり過ぎた! だだ、大丈夫?」


 僕が心配の声を掛けると、ジャントルが奇声を上げながら、こちらに駆け出してきた。


 レスリングタックルみたいな低い態勢で走ってきて、そこから腕だけ上げて半円を描く様な軌跡で僕の顔面に拳をぶちかます。


「むがっ」


 けったいな軌跡で拳が飛んで来たので避ける事もできずに直撃するが、なんとか踏ん張って堪えて、そのまま僕も、低い位置にあるジャントルの顔に拳を入れる。下から半円を描く軌跡でのパンチ。


 ジャントルが上弦の月なら僕は下弦の月。


 僕の拳はジャントルの顔面をぶち抜き、そのままぶっ飛ばす。


「ぐぼらぁっ」


 老体が地面に墜落と同時に汚い悲鳴が上がる。


 ジャントルはほんの少しバウンドして、その場で蹲る。


「もう、こっちが謝ってるっていうのに、いきなり殴りかかってくるそっちが悪いんだからね」


「いやもう、その段階は過ぎとるじゃろ」


 僕がぷんすかしてたら、アウルアラからやや引き気味のツッコミがきた。


「あの老害は本気でお主を倒すつもりじゃぞ。怒っとるのではなく、戦闘の意志でお主に拳を向けとるのじゃ」 


「え? ああ、そういう……」


 だから飽きずに殴りかかってくるのか。


 それじゃ、殴った後にごめんとか言わない方がいいのかな。


「当たり前じゃろ。虚仮にされとると思うだけじゃぞ」


 そんなつもりはないけど…………まぁ、そういう風に取られてもおかしくないか。


 とりあえず、僕も思い切りやった方がいいのだろうか。


 なんて考えてたらジャントルがまたしても殴りかかってきた。


 すごい数の連打だったので、あえて僕はガードしたりせず、そのまま受けながら攻撃モーションに移る。


「うりゃあっ!」


 野球のピッチャーの投球みたいなフォームでジャントルの顔面に拳をぶちかます。 


 気持ちいいくらいにジャントルがぶっ飛ぶ。


「…………なっ、なんなんだあいつ」と、どこからか声が聞こえてくる。


 思ったよりも一方的な展開に、驚きの声が上がってるみたいだ。


 僕は廃工場の床を転がるジャントルの方まで歩き、奴が立ち上がるのを待つ。


 立ち上がったら、拳を振りかぶり、相手の攻撃を受けながらもそのままぶちかます。


 正直、ジャントルの攻撃は無視しても問題ない。


 痛い事は痛いが、それだけだ。


 踏ん張れば吹っ飛ばされないし、痛いのも我慢できる程度。


 フラフラの足でジャントルが立ち上がる。


 僕は「まだやる?」と尋ねる。


 返事の代わりに拳が返って来るので、そのまま殴り返す。


 バンっ…………バンっ…………と床を跳ね転がるジャントル。


 それを、僕は歩いて追い、着いたらまた「まだやる?」と尋ねる。


 床に這い蹲ったまま、ジャントルが血を吐いたので、


「そろそろやめよっか?」と提案すると、今度はジャントルが僕のお腹に剣を突き刺してくる。


「…………あれ?」


 痛みというよりも熱の感覚。


 見れば、半透明の剣が僕の腹部を貫いている。


「ふふ……っ…………くははははははははははっ!」


 ジャントルが笑うが、僕は無視してその剣の柄を掴み、笑う相手の意志を無視して引き抜いてやる。


「な……っ?」 


 引き抜いた後は、何事もなかったかのようにジャントルの胸倉を掴む。


 口から血を吐いてしまったので、そのままの態勢で自分に回復魔法を放ち、ため息を吐く。


 これでもう大丈夫。傷ついた臓器も治ったので問題はない。


 少し血が減った程度だ。


「…………ば、化け物か貴様は…………っ」


 顔が物理的にへこんできたジャントルは、泣きそうな顔で睨んでくる。


「別にただの人間だよ」と僕は言い、ジャントルをぶん殴る。


 カランカランと闘気で創った剣が転がり、すぅっと消える。


 これで決着だろうか。


 一応、ジャントルはまだ意識があるが、表情からは戦意を感じない。


「ひぃぃっ」


 って悲鳴を上げてるし、完全に怯えている。


 どこからどう見ても負け犬の顔だ。


 これ以上はただの弱い者いじめにしかならないと判断し、僕はジャントルに背を向ける。


「あぁ、疲れた」


 背伸びをして、ナイルの方に歩こうとする。


 と、後ろから怒鳴り声が聞こえた。


「アルカァぁあああっ!」


 振り向くとそこにはさっきまで完全にビビってたジャントルが銃をこちらに向けているところだった。


「え?」


 唐突な銃声と同時に、僕の意識は────、


 

 ◆



 ────この場合は窮鼠猫を嚙むと言っていいんじゃろうか。


 追い詰められた老害が最後に選んだ行動は、先程、ブーザマが落とした拳銃を拾って、小僧に向けて発砲する事じゃった。


 命中したのが腹や四肢じゃったら、アルカの小僧もさっさと回復魔法で治癒して、老害にトドメを刺した事じゃろう。


 しかし不運な事に当たったのは頭部じゃった。


 さすがに脳を損傷すればアルカも治療はできぬ。


 意識の無い状態で自動的に治療する術を、アルカは持ち合わせておらぬ。


 なので代わりに超絶天才美女魔王ことアウルアラ様が出てきてやった訳じゃ。


 アルカは死んでしまいはしたが、すぐに身体を治療、再生してやれば、三秒ルールで三途の川も出戻りができる。


 心臓マッサージで息を吹き返すのと一緒じゃ。


 意識はすぐには戻らんじゃろうが、それでも甦りはするから、そのうち意識は戻るじゃろう。


 それまで童がアルカの振りをしておけばよい。


 ────ただ、ここで問題が起きた。


 童がアルカの頭部を再生、治療してやろうと思ったが、何故かアルカの頭部は勝手に再生された事じゃ。


 先に言っておくが、アルカにはそんな真似はできぬ。


 絶対。間違いなくじゃ。


 アルカの実力をアルカ本人よりも知っとる童が言うのじゃから間違いない。


 じゃが、実際は童がする前にアルカの頭部は治療された。


 アルカ以外の者の手によって。


「ケケケ」とジャントルとかいう老害が半ば正気を失った状態で笑う。


 たかがケンカで拳銃に手を出した愚か者は、未だアルカの頭が回復した事には気付いておらぬ。


 倒れたままじゃから、見えておらぬのじゃろう。


 実に愚かじゃな。


 そんで、その愚か者に、先程言ったアルカ以外の者が乗り移る。


 童も、これまで全くその存在に気付かなかった、謎の存在が、じゃ。


 驚いた事に、その存在はこれまでずっとアルカの中に居った。


 童と同居しとった事になる。


 おそらくはアルカ本人も気付いておらんかったじゃろう。


 気付いとったら、あの小僧なら言う筈じゃ。


 じゃから気付いておらんかったと思う。


 アルカの身体からすぅっと抜け出して、くっそしょうもない老害の身体に乗り移った謎の存在。


 おそらく童よりも上位の存在じゃろう。


 アルカの知識を用いて呼ぶなら、ペストマスクの阿修羅像となるか。


 そやつがジャントルの老害に乗り移ってしもうた。


 乗り移られた方の老害の意識はあっさり消えてしまい、行動権はペストマスク阿修羅が持つ。


「キィィァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ────────────────ッ!」 


 途端、甲高い絶叫が廃工場内に響き、周囲の観客が一斉に気を失う。


 辛うじて腹筋のエロい女だけが意識を保っとるが、それでもかなり朦朧としておる。


 ただの絶叫で観客の意識を奪うとは、やはりこのペストマスク阿修羅、略してペスアシュはただモノではない。


 そもそもこれまで童に気付かれずにアルカの中で潜んどったのじゃから、当然と言えば当然か。


 そんで、ペスアシュが梟みたいな首の動きでこちらを向く。


 明らかに正気ではないが、明らかに狂気は持っとるし、戦意も殺意も持ち合わせておる。


 顔がペストマスクみたいなカタチに変化し、体つきも変わる。


 四肢が細く伸び、肉質も獣に近くなる。


 まぎれもない異形化。


 どうやら童と闘うつもりらしい。


 そんな訳で、最終戦アルカ対ジャントルの次は、エクストラ戦、童ことアウルアラ対ペスアシュとなった。


 ううむ。困った。


 童は自分以上に強い奴と闘うのはあまり気が進まんのじゃがのう。


 しかし他に闘える奴がおらんから仕方ない。


 やれやれじゃ。

 


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