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魔王の器  作者: 北崎世道
45/86

作戦

「んべ」


 キラレキとムッサイが闘ってる最中。


 顔にかぶせられた紙袋を取ると、縛られていた子供が舌を出した。


 そのやや嫌悪感を覚える舌の上には小さな刃が乗っていた。


 スパイかなにかが隠して持ってそうな薄い抜身の刃。


 取っ手もない。


 何故と疑問に思うが、これがあれば自分を縛ってる縄を切る事ができる。


 今は疑問を棚上げし、その刃を受け取る事にした。


 幸い自分達を拘束した奴らはこちらを見ていない。


 試合観戦の方に集中している。


 ならば今のうちだと、ナイルは子供に背を向け、後ろ手でその刃を受け取る。


 薄いのでなかなか取りにくい。


 子供の舌がびくびく動くのを我慢しながら、なんとかその刃を手に取ると、舌が自由になって喋られるようになった子供が小声で言った。


「俺だ。パパだ。今はあいつの魔法で子供の姿になっている」


「…………っ!」


 驚きの言葉だったが、何故だかすんなり受け入れられた。


 言われてみれば父の面影があるような…………いや、ちょっと分からない。


 これがアレになるのだと思うと、時の流れの残酷さを思い知ってしまって泣きそうになる。


 そんな事よりも、この子供が父だとすると、誰かが魔法を掛けたという事になるが…………そういえば今、あいつの魔法で、と言っていなかったか。


「疑問はひとまずおいときなさい。とりあえずまた俺の頭に紙袋をかぶせて、それからお前は誰にも気付かれないよう縄を切るんだ」


「わ、分かった……」


 ナイルは言われた通り、子供姿の父に紙袋をかぶせ、後ろ手に縛られた状態のまま縄を切ろうと試みる。


 手首から先しか動かせないのでなかなか思うように切る事ができない。


「大丈夫。慌てるな。今、キラレキ君が時間を稼いでいる。その隙に少しずつでいいから、縄を切りなさい。俺のはお前のが切れてから頼む」


 ナイルは小さく首肯して、少しずつ削るように縄を切る。


 ナイルが頑張ってる間に、キラレキが倒され、アルカのお師匠さんが再度闘い始める。


 完全に切れたところで、銃声が響いた。


 

 ◆



 誘拐犯と公園で遭遇し、ナイル父とキラレキと対面した直後。


 いざナイルを助けに廃工場へ行こうとしたところで、ラキ師匠がナイル父にしてもらいたい事があると言い出した。


「ナイルちゃんのお父さんにはアルカの魔法で子供の姿に変身してもらいましょう」


「お、俺が子供の姿にか…………?」


 ラキ師匠の思わぬ提案に、僕もナイル父もが困惑した。


「ええ、子供の姿にです」とラキ師匠が首肯する。


「先程、あちらの話を聞いた時に得た情報ですが、ナイルちゃんは今、縄でぐるぐる巻きにされてるそうです。そして彼らは無駄に他人を殺すのはしたくないそうです。あくまで仕事でナイルちゃんを誘拐しているだけで、彼女を傷つける事は本意ではないとの事です」


「それとキミの提案とどう関係が…………まさか俺が子供の姿になって、あちらの情報を探れという事か…………?」


「いえ。違います。そうじゃなくてお父さんには子供の姿で捕まってもらい、隙を突いて、ナイルちゃんの縄を切ってもらおうという作戦です」


「上手くいくとお思いですか?」とキラレキが口を挟む。


「上手くいかなくても、人質を助ける事には変わりありませんから、状況に大差はありません。上手くいけば万々歳くらいに思ってください」


「…………そ、そんなの」


 躊躇うナイル父にラキ師匠からの一言。


「娘さんの為に命を懸ける覚悟はありませんか?」


 それだけでナイル父は覚悟が決まったようだった。


「分かった。俺の命よりも娘の命の方が大事だ」


 ナイル父の了承にラキ師匠は微笑み、キラレキは観念したように何かを取り出した。


 ラキ師匠に手渡そうとしてくる。


「あ、私じゃなくてアルカの方。アルカの魔法で変身してもらうから」


 ラキ師匠に促され、キラレキが僕に手渡してくる。


 僕はそれを受け取り、眉をしかめた。


「この飴みたいなのは何ですか?」


「丸薬です。それを使えば、ある程度、魔法の効力が高められます。それでマウンティングさんに変身魔法を使ってみてください」


「えっと……こんなのがなくても一応変身させられるんですが……」


「いいからそれを口に含んでやってみてください。やれば分かりますから」


「ふぁい」


 僕は丸薬を口に含みながら、ナイル父に変身魔法を掛けた。すると、


「…………っ!」


「うぉおっ? な、なんだこれは……? お、俺の身体が小さく……?」


 ナイル父が己の変貌に驚くが、僕もまたその効果に舌を巻いた。


 魔法の効果が異様に高い。


 僕の変身魔法は外見そのものが変化するだけものだが、丸薬を口に含んだまま行うと、顔をしかめたくなるような加齢臭と雰囲気までもが変化した。


 おそらく第三者であるラキ師匠にはその違いは判らないだろうが、魔法を掛けた僕自身にはそれが判る。


 これなら目の前の子供の正体がハゲデブのおっさんだと、誰も気付かないだろう。


「どうやら体重までは誤魔化せないみたいですが…………敵がマウンティングさんを担がないか、もしくは二〇キオブラムと九〇キオブラムの違いも判らない鈍感である事を期待しましょう」


「前者はともかく後者に期待するのは無理じゃね……?」


「いや、あのバーベルをダンベル扱いしてそうな筋肉男だったらワンチャンあるかもしれんな」


「どちらにせよ、失敗したところで状況は何も変わらんのだからやってみよう。娘の命が助かる可能性が少しでも上がるなら、俺はなんだってやるさ」


「ナイルのお父さん…………って、あれ?」


 僕が喋ったら、なんか魔法の効果が薄れている事に気付いた。


 うんこみたいなくっさい加齢臭が目の前の汚いコナ○もどきから漂ってくる。


「あ、すいません。丸薬を口に含んだ状態の時は喋らないでください。丸薬の効果が消えてしまいます」


「なんだそれは…………うわっ、くっさ」


 ラキ師匠の『くっさ』という言葉に子供姿のナイル父がにちゃぁと笑う。


「てかもう、飲み込んでしまったんですが……」


 丸薬っていうからそういうもんだと。


「それならまた後で渡しますよ。最後の一個でなので気を付けてください」


 丸薬っていうかのど飴みたいなやつだな、と思いつつ僕は首肯する。


「あ、そういえばナイルちゃんのお父さんにはアレを渡しておきましょうか」


 ラキ師匠が思い出したように言う。


「アレ?」


「縄を切る為の刃物ですね。私の能力で創ったやつですので、万が一飲み込んでも、消す事ができるので安心してください。精々食道と胃が傷だらけになるくらいです」


「全く安心できんのだが……」


「僕と一緒で喋られなさそうだね……」


「というか、アルカ君は闘えないんじゃないですか? いやまぁ、アルカ君が戦力になるとは思ってませんが」


「なんだとー」と僕。


「いや、闘うにしても、おそらくアルカは最後だろう。アルカはあの爺さんを頼む。雰囲気的にあの爺さんが最後になるだろうし、あの爺さんを相手に出来るのはアルカくらいだから」


「お爺さんですか……。そうですね。確かにアルカくん程度の実力なら、現役退いた老人くらいが丁度いいかもしれません」


 敵の姿を遠目でしか見てないキラレキが納得したように首肯を繰り返す。


 どうやらこの男は僕が弱いと思ってるみたいだが…………まぁいいや。


 今は否定する時間も惜しい。


「────そういう訳だから、前の二人は私が相手しよう。キラレキ君にも途中で手伝ってもらうかもしれないが、その時は無理に勝とうとせず、キミ自身の役割を果たしてくれ。正直、私は闘いになるとそっちばかりに集中し過ぎて、私達の目的の方は忘れてしまうだろうからな…………」

 


 ◆



 以上、回想終了。


 ここに来る前にそんな感じの作戦があったのだ。


 ブーザマの金的をけたぐったナイルが勝ち誇ったように手を上げる。


 勝利のポーズ。


「おやおやおや」と最期に残されたジャントルが言う。


「まさか先に捕まえていた子供が、そちらの手先だったとは夢にも思いませんでした。いやぁびっくりです」


「…………それ、絶対気付いてたやつじゃん!」


 僕が指さしてツッコむとジャントルは悪びれずに、「そうですね」と認める。


「ですが私以外の者は気付いてませんでしたし。なかなかの手際ですね。そこのお嬢さんが解放されようと私にはどうでもいい事ですし、むしろそこのソレがお嬢さんにナイフを当ててあなた方を脅し始めたら迷惑なので、あえて放置させてもらいました」


「…………それじゃナイル達を返してもらえる?」


 僕がそう言うと、ジャントルはあっさりナイル達の返却を認めた。


 ナイルが父の縄を切り、そのまま何事もなくこちら側に移動する。


「アルカっ!」


 ナイルが感激して僕に抱き着く。


 その光景にナイル父が鬼の形相を浮かべるが、そんな事よりも。


「…………え? これで終わり? 帰っていい?」


「駄目です」


 ジャントルが却下する。


「あ、やっぱり? でも返してくれたじゃん」


「そちら側に移動しても、私ならまだ逃がさない自信があるという事です」


「そう? すごい自信じゃん」


「ア、アルカ、見てっ!」


 突然ナイルが叫んだので振り返ると、廃工場唯一の出入り口が、いつの間にか生えてきた壁によって塞がれていた。


「…………あぁ、そういう事」


 地属性魔法で壁を生やしたのだろう。


 やろうと思えばあの壁も破壊できそうだけど、ナイルを取り返した今、僕にはそれほど焦る理由はない。


「いいよ。やりたきゃやってやるよ。ここまでずっとお預け喰らって退屈だったんだ。えっと…………お前の…………その…………うん。やってやんよ。おらぁっ、このやろー」


 我ながら決まらない。


 とりあえず、今後こういう時の為に決め台詞でも考えておこうと思った。


「おや、意外と好戦的ですね。いやぁいいですねぇ。これが若いって事ですか」


「や、やめときなさいっ。あのおじいさんはなんかヤバそうよ」


 隣でナイルが止めようとするが、それを優しく振り払う。


「ごめん。皆が身体張ってる中、僕だけ楽するのもどうかと思うし」


「そんなのどうだっていいでしょ、このおバカ!」


「そうだぞ。キミが無理をする必要はない。ここは俺が身体を張って止めるから、アルカ君は娘と────、」


「いや、おじさんも無理しないで。僕は大丈夫だからさ」


「…………や、やめときなさい。あの人は別格です。立ち向かえばただじゃすまない」


 なんかいつの間にかキラレキが目を覚ましていた。


「あ、大丈夫ですか? 回復魔法使っときます?」


「いや、そんな場合じゃないですから!」


「…………アルカ。やるかい? あのおじいちゃん。ホントただモノじゃなさそうだけど?」


 疲労困憊のラキ師匠が尋ねてきた。


 師匠だけは僕の強さを知ってるせいか、止めてこない。あ、いや、ナイルも僕の強さ知ってる筈だけど。でもまぁ、ラキ師匠の方がちゃんと理解してるからか。信用してるからか。とにかく軽い心配の言葉だけで抑えている。


 …………止められないのはそれはそれで寂しかったり。


「いけー。やれーっ。あのすかしたクソジジィを叩きのめすのじゃー!」


 アウルアラにいたっては止めるどころか、促してきてやがる。


 腹が立つので、本当にヤバかったらこいつに任せよう。


「いやじゃーっ!」


 僕は皆(一部を除き)の制止を振り払い、一歩前に進む。


 ジャントルも臨戦態勢となって前に出る。


「これが最終戦ですかね」


「あ、その前にちょっと」


「うん?」


 僕はジャントルの足元で転がっているムッサイに回復魔法を放つ。


「うん。これでよし」


「ああ、これはどうも」


 どうでも良さそうにジャントルが礼を言う。


「仲間なのに、随分ドライだな」


 僕が助けなければ、そのまま放置してそうな感じだった。


 たぶん死んでも構わなかったのだろう。


「そうですね。仲間ですし、これまで楽しくやってきましたが────所詮、他人は他人ですから」


 ジャントルはあっさりとそう言う。


 仲間も敵も味方も全て同価値の他人だと言わんばかりに。


 おそらくだが、彼にとって人間関係とはそういうものなのだろう。


 ある意味ではさっきヒステリーを起こしていたブーザマと一緒だ。


 奴は独りで、周囲に敵意を巻き散らしていたが、ジャントルは独りで、周囲に無関心を貫いてきた。


 目立ちはしないが、それでもかなり冷たい人だと思う。


「哀れな奴だな」と僕は言う。


「そうかもしれません」


 僕の言葉にジャントルは否定しなかった。


「私にとって闘いが全てですから」


 彼はそう言って、遠い目をした。



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