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魔王の器  作者: 北崎世道
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古代都市

 そこは朽ち果てた都市だった。


 土色をした石の建物が隣同士の建物と一体化し、得体の知れない植物に寄生されている。


 乾燥しているせいか建物も空気も砂っぽく、呼吸をする度に肺に砂が入り混じるような感覚がある。


 全体的にはアンコールワットみたいな雰囲気。


 荘厳だが古代的で、死の印象が幽霊の如く付き纏う。


 ただ文明はこの世界よりもずっと発達している。


 あくまで文化が古代的な雰囲気を持ってるという感じ。


 ところどころ置いてある物や壁に遺されてある魔法科学等の痕跡を注視すると、明らかに今の世界の文明を超えているのが判る。


「古い建物だね」と歩きながらラキ師匠が呟く。


「そうだね」と僕。


「見た感じ、おそらくは古代文明の残りだと思うが、どうやら文明は話に聞いてたよりもずっと発展してなかったようだね」


「は?」


 思わずチンピラみたいに聞き返す。


 ラキ師匠は僕のガラの悪い返事に対して気分を損ねた様子もなく、というか気付いた様子もなく、


「古代文明の噂については聞いた事あるかな?」


「ないですけど」


「私も都市伝説に詳しい奴から又聞きした程度だけどね。どうも私たちが生まれるずっとずっと昔、私たちのお爺さんのお爺さんのお爺さんのお爺さんが生まれるよりも昔、今とは体系が全く異なる文明が発展していたそうなんだ。知ってる人はそれを古代文明って呼んでるらしい」


「へぇ」


 漫画とかでよく見るタイプのやつか。


 今よりもずっと技術が進歩しているやつ。


「外観とか全体的な雰囲気とか見た感じ、どうもその古代文明だと思うんだが、まさか実在したとはね。それもダンジョンの最下層の隠し空間に」


「どうしてこんなところがあるんだろう」


「案外、ダンジョン自体が古代文明が生み出したものだったりしてね」


 ラキ師匠があっけらかんと、わりかしありそうな事を呟く。


「まぁでも、見た感じ文明はそんなに発達してなさそうだから、おそらくは違うだろうけどね」


「…………はぁ」 


 どうやらラキ師匠には古代文明がどれくらい凄いのかが解らないようだ。


 一般人がピカソの絵の凄さが解らないようなものか。


 僕達が暮らしてる世界の文明技術は、基本的に魔法と科学が合わさった魔法科学で培われているが、この古代文明はその魔法の部分がとてつもなく発達している。


 だから、あんまり魔法に詳しくないラキ師匠の目には、この凄さが解らないのも無理はないかもしれない。


 教えてやろうかな、と思ったが、なんとなく僕はやめる事にした。


 教えない方が面白そうだと思ったからだ。


 ドッキリを仕掛ける時のような軽い意地悪な気持ちで、黙っておくことにした。


 おそらくマジュ師匠なら一目で看破するだろうけど。


 マジュ師匠は戦いは専門じゃないから、ここに来る事はなさそうだ。


「それよりもこれからどうするんだい? このままこの遺跡を探索してみるかい?」


「うーん……まぁ、そうだなぁ……」


 正直、かなり興味はそそられるけど、今は孤児院を助ける事に集中したいので、遺跡探索は後回しにしよう。


「とりあえず帰ろう。今度、来た時に色々調べてみようと思う」


「またあのドラゴンを倒さないと駄目だったりしてね」


「別に大して強くもなかったし、それでもいいけど」


「……………………」


 ラキ師匠の茶化しに僕が普通に答えると、何故かラキ師匠は黙ってしまった。


「…………あれが大して強くもなかった……ね…………アハハ」


「どうしたの? 僕、変なこと言ったかな?」


「いいや。我ながら恐ろしい弟子を持ったもんだな、と思っただけさ」


「ふうん? まぁいいや。それよりも出口ってどこかな? ダンジョンの出口」


「ふむ?」


 僕の疑問に、ラキ師匠も考えるそぶりを見せる。


「確かにどこだろうね。一度、上に戻ってみるかい? ボスのドラゴンと戦ったところに」


「それもいいけど、個人的に気になるところがあるから、まずはそっちを確かめてみたいかも」


「気になるところ?」


「上から覗いてる時に、光の柱みたいなのが見えたんだ。もしかするとそれだけは機能してるかもしれないし。なんとなく光が魔法陣の光っぽくもあったんだ」


「それがダンジョンから脱出する為の魔法陣ってことかい?」


「見てみないと分かんないけど」


 いや、見ても分かんないと思うけど。


 たぶん確かめてみない事には分かんないだろう。


「まぁいいか。とりあえずその光の柱に行ってみようか」


 ラキ師匠の許可も得たので、僕はそっちの方へと行ってみる。



 ◆



 移動は飛行ではなく徒歩にした。


 折角、未知の場所を見つけたのだから、飛行魔法で一気に移動するのではなく、ちょっと色々見ながらでもいいかな、って思ったのだ。


 探索はしないとは言ったけど、少しくらいならいいかなと、つい魔が差してしまった。


 誘惑というのは乗れば、新たな誘惑を生み出すもので、アンコールワットみたいな、朽ち果てた古代都市の中を歩いていると、様々な魔法科学の痕跡が見て取れた。


 それがまぁ、とてもとても魅力的なこと。


 思わず痕跡の前で小一時間、調査してみたいと思ったが、そうするといつまで経っても目的地には辿り着けそうにないので、泣く泣く後回しにして、光の柱の方へ向かう事にした。


 光の柱自体に興味がそそられなければ、きっと僕は誘惑に負けて探索し続けていただろう。


 時々、方角が分からなくなる度に空を飛んで現在位置を確認しつつ、目的に向かう。


 一時間ほど歩いてようやく目的に到着した。


 アンコールワットみたいな古代遺跡が立ち並ぶ中、少し開けた場所の中心に青く発光するモノがあった。


 光の柱の正体は、第一印象通り、魔法陣の光だった。


「魔法陣だったね」とラキ師匠が呟く。


「そうだね。って事はこれがダンジョン脱出の為の魔法陣って事かな」


「問題はその魔法陣の先に、次の層への入り口がある事だな」


 次の層。


 ここは百層だから、百一層目への入り口になる。


 そう。百一層目への入り口。


 ラキ師匠の言葉には何もおかしなところはない。


 だが、僕達はこれまで百層がダンジョンの最奥、最下層だと思っていた。


 それなのに、更なる深層への入り口を見つけてしまったというのはどういう事か。


「…………隠された秘密の入り口か…………これはとんでもない歴史的発見をしてしまったみたいだな」


 ラキ師匠の呟きに僕は思わず笑みを浮かべる。


「ちょっとだけ見てもいい?」


 僕が尋ねると、ラキ師匠も、


「ちょっとだけだよ」と好奇心を抑えきれず、嬉しそうに許可を出す。


 ま、この状況で好奇心が働かない人がダンジョンに潜ったりしないだろう。


 それにこれまで見てきた次の層への入り口となんら変わらない、ただの階段なので、危なそうだったらすぐに戻れる事も分かっている。


 見ない訳がない。


 パンチラと一緒だ。


「危なそうだったらすぐに戻るからね」


 という注意を数回繰り返すラキ師匠を流して、僕は次層への階段を降りる。


 じゃり、じゃり、とやや砂を踏む音をさせつつ階段を降り、百一層に到着する。


 降りた感想としては、特になんて事のないただの階段だった。何か劇的な事が起きる訳でもなく、ゲートをくぐった時のような奇妙な感覚を得る事もない。家の二階から一階に降りた時と然程変わらなかった。


 そんな感じで降り立った百一層目は、ピラミッドの中にいるかのような、石レンガの壁に囲まれた狭い通路だった。ウィザードリィのダンジョン内みたい…………というより、この場合はこのダンジョンの一層目と何ら変わらなかった。 


 写真を撮って、はいどっちでしょ、と訊かれても絶対に分からない自信があるくらいに同一だった。


 しかしながら、ステージはともかく、そこに居る魔物は明らかに違った。


 いや、階段を降りたばっかのここからでは、まだ肝心の魔物は一歳見えてないのだが、それでもやや離れた位置から、その気配は伝わってくる。


 そこそこ強い。


 劇的に強くなった訳ではないし、ランダムエンカウントするようなザコ敵の枠組み内で見れば、確かにこれまでで一番強いが、あくまでそれなりに。ゲームバランスが急に崩れてる感じはなさそうだ。


「……………………一応、倒してみよっか」 


 念の為、一番近くにいる魔物に接近し、戦闘をしかけてみる。


 外見は一層で見た奴の色違い。細かいところを見たら、それなりに差異はありそうだが、一層目のザコをそこまで詳しく覚えてはないので、もしかすると気のせいかもしれない。


 とまぁ、外見はともかく、いざ戦ってるみると、特に何のトラブルやら異変が起きる事もなく、普通に倒せてしまった。


 これなら少しくらい油断してても負ける事はなさそうだ。


 ただまぁ、やはりこれまで戦ってきたザコ敵内では一番強い。


 一層目の魔物とは雲泥の差だ。


 おそらく七十層、八十層をクリアしていれば、順当に強くなっていると感じるのだろう。そこら辺はラキ師匠の協力のおかげで無視できたから知らないが、なんとなく予想はできる。


 だからなんというか、百一層は、これまでのダンジョンの地続きという感じだ。


 ステージ的には一層目の使い回しっぽいから、ステージは変わらず、魔物だけ強くなったパターン。


 ゲームでありそうなやつ。データ容量と作業量の節約が目的で行われる使い回し。


 …………まさか、この世界のダンジョンって本当にゲームなのだろうか、なんて思ってしまう。


 ま、今、考えても仕方のない事だけど。


 それはともかく、百一層目の魔物はそこそこだった。


 一言でまとめるとそんな感じ。


「これならまだまだイケそうだね」


「まさかこのまま進むつもりかい?」ラキ師匠がやや眉をひそめながら言う。


「いやいや。そんな訳ないよ。今はやるべきことがあるから」


「分かってるならいいさ」


 そう言ってラキ師匠が先程の階段を上がっていく。


 降りた時のようなワクワク感が消えてしまっている。


 僕もそうだから判る。


 やや期待外れな内容だった。


 今はどうでもいいのだけど。


 僕もラキ師匠に続いて階段を上がり、百層目の隠しステージ、謎の古代都市に戻る。


 アンコールワットみたいな壮大な光景を見ながら、僕はこう呟く。


「そういえば、今までこの階段って見つからなかったのかな?」


「もしかすると、見つからなかったのではなく、壊れてしまっていたのかもしれないね」とラキ師匠が答える。


「どういう意味?」


「私達はこの上で、ドラゴンと戦った。それは覚えているかい?」


「そりゃあ、ついさっき戦ったばかりだからね。当然覚えてるよ。それが何?」


 ラキ師匠は言う。


「本来ならあのドラゴンとの戦いは、上の部屋だけではなく、その下、つまりここ、古代都市全体を使って、戦うよう設計されていたんじゃないかと思ったんだ。だけど私達は上の部屋だけで倒してしまった。だからこの古代都市が壊されることはなかった。これまでの冒険者たちは、古代都市を壊しながら、なんとかあのドラゴンと討伐したんだ。その際、出入口自体も壊され、冒険者たちには知られる事がなかった」


「…………つまり僕がドラゴンを簡単に倒し過ぎたって事?」


「そう捉えられても仕方ないね」


 つまりアレか。


 また僕なんかやっちゃいましたか……。


「そういや、この古代都市とか、隠された百一層目とか、そういうのってギルドとかに教えるべきかなぁ」


「別に教えなくていいだろう」


 ラキ師匠はさも当然のように言う。


「言ったところで信じてもらえるとは思えない」


「それもそっか」


「教えても手間がかかるだけだから、基本的には知らぬ存ぜぬを突き通すつもりだ。この人になら教えてもいいって思える人にだけ教えたらいいさ」


「個人の趣味と一緒だね」


 魔法陣の前に行き、ラキ師匠が言う。


「これはおそらくダンジョン脱出の魔法陣だろう。これでダンジョン一層目に戻れると思う」


「それじゃ帰ろっか」


 ラキ師匠は頷き、魔法陣に乗る。


 姿が消えたのを確認し、僕もそれに続く。


「…………?」


 続く。


「…………おや?」


 続く……。


「……………………おやおや?」


 続く…………?


「……………………なんかワープしないんだけど?」


 続かなかった。


 どうしてだか、魔法陣に乗ってもワープしなかった。


 移動用の魔法陣なのは、たった今、ラキ師匠がワープしたから間違いない。


 まさか、ラキ師匠の身に何か起きたとか…………?


 みたいな事が脳裏を過ぎった瞬間、ラキ師匠が戻ってきた。


「どうしたんだ? さっさと戻って来ないか」


「あ、いや、なんか乗っても、ワープされないんだけど?」


「むむ?」


 ラキ師匠が怪訝な反応を示すので、実際に乗って、見せてみる。


「本当だな…………あぁ、そういえば」


 と、ここでラキ師匠が何かを思い出したように言う。


「偶に、ダンジョンを順番通りに攻略しなかった人の中に、ワープが起動しなかったって奴がいたって話を聞いた事がある」


「え? 本当?」


「ああ、本当だ」


 ラキ師匠が頷く。


「今回のアルカみたいに、誰かのワープに付いてきて、いくつかの層を通過せずにダンジョンを進んだ奴が偶に遭遇してしまうって話だ。けどまぁ、そこまで心配しなくていいさ。というのも、ある程度時間が経って再挑戦すれば、特に何もせずともきちんとワープできるからだ」


「なぁんだ。でもどうしてそんな事が起きるの?」


「なんでもワープ装置のエラーみたいなもので、こればかりはどうしようもないとの事。ワープ装置自体が、私たちにとっては未知の技術だからね。直せる人がいればいいんだけど、今のところ無理そうだ」


「とりあえずどれくらい待てばいいの?」


「さあ? どれくらい待てばいいかは、今のところ分かってない。レアケースだからね。ただ、話を聞いた感じ、平均一日とかそれぐらいだそうだ」


「一日ィ?」


「大丈夫。ボス部屋は敵が出ないし、食料なども私が運んでやるから、危険は特にないさ」


「ここってボス部屋扱いなの?」


 途端、ラキ師匠が黙った。


「…………」


 辺りを見渡し、それから夜空の星を眺めるかのように、上を見る。


 ここはたった今、見つけたばかりの謎の古代都市。


 何もかもが未知の場所なので、答えが判る筈もない。


「…………ボス部屋扱いかどうか分からないが、周囲に魔物の気配はないし、落ちてからは一度も遭遇してないから、大丈夫だよ。何も心配はいらないさ」


 こちらを安心させるようにラキ師匠が笑う。


 ま、今は孤児院の件があるから、一日中ここで待ちぼうけを喰らうつもりはないんだけど。


 勿論これは口には出さない。


「と、とりあえず私は食料を持ってくるにしよう。不安かもしれないが、大丈夫。食料を持ってきたら私もずっとここに居るから安心してほしい。何も心配はいらないから。だから勝手に一人で歩き回らないように。約束だよ」


「…………」


 僕はあえて頷かずに、ラキ師匠を黙って見つめる。


「返事は?」


「…………」


 ほっぺをつねられる。


「返事は?」


「みゃぁぁぁぁぁ」


 これは悲鳴なので返事ではない。  


 ラキ師匠がため息を吐く。


「まぁ、仕方ないか。いきなりこんなところを見つけたんだ。探求心が沸き上がるのも無理はない。少しくらいは歩き回るのを認めよう。だが、あんまり無理はしないでくれよ?」


 これならばと僕は頷く。


「それじゃあ待っててくれ。すぐに戻るから。まかり間違っても絶対にドラゴンのところには行かないでくれ」


「あ、待って。すぐに戻らなくていいから、それよりも孤児院の件を優先させて。あとできればマジュ師匠にこの件を伝えてほしい」


「…………そうだな。先にマジュには伝えておいたがいいな」


 ラキ師匠は頷き、魔法陣に乗ろうとする。が、その前に、


「いいかい? 絶対にドラゴンに挑もうとしないでくれよ」


 ラキ師匠の念押しに、僕は微笑を返す。それを見てラキ師匠が安堵したように首肯し、ワープする。


 僕は笑顔でそれを見送ったあと、


「…………さて、と。僕も帰るために、とりあえずドラゴンに挑みましょうかね」


 上を見ながら呟く。


 ちなみに挑むのは、ドラゴンがいるボス部屋の先(前というべきか)にワープ用の魔法陣があるからだ。


 そっちならすぐにワープできるだろう。


 僕が意気込んで腕を回していると、不意にどこからか声が聞こえてきた。


 それは助けを求める声だった。


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