再会
そんなこんなで五十八層を逆走で突破し、今度は五十七層。
これも難なく突破、それから五十六、五十五層も突破して、五十四層。
ここでようやく師匠二人を発見する。
流石にここまでぶっ通しで飛んで来たから疲労困憊だが、それでもなんとか師匠二人に再会する。
「じ、じじょぉおおっ。やっとで会えたぁぁあっ」
「…………あ、あんた、なんでここに?」
「じんぱいかけて、ごべんなざぁぁいぃぃ」
泣きながら謝罪。
だけどマジュ師匠はそれに構わず、
「あんたがダンジョンを脱出したのは、あの小娘からの連絡で分かってるわ。だけど、それじゃあ計算が合わないの。ねぇ、なんであんたがここにいるの?」
よく分からないけど、僕はここまでの経緯を洗いざらい説明する。
それを聞いてマジュ師匠は、
「……………………色々言いたい事はあるけど、とりあえず、あんたの魔法が今までよりもずっと進化してる事が分かったわ」
「え? そう?」
「じゃないと六十層から五十四層までの道のりをたった一日半で来れる訳ないでしょ。計算が合わないわ」
「それは…………体調が戻って、尚且つ熱さを避ける事ができたから……」
「熱気を見極める目も進化の一端だし、あんた、魔法に関してはものすごい成長してるわよ」
「え、そう? えへへ」
「だけどね」
マジュ師匠はそう笑ってから、思い切り僕に拳骨を落とした。
「ぐぎゃぁっ?」
「私達がどれだけ心配したか分かってる?」
マジュ師匠の目が潤んでるのを見て、僕はもう一度謝罪をする。
今度は泣きながらではなく、誠心誠意、真心を込めての謝罪だ。
「ごめんなさい」
「無事だったからいいさ」
と、これまで黙っていたラキ師匠が疲れた様子で返答する。
茹だるような熱気のせいで、声も枯れている。
「だいぶお疲れですね……」
「ああ。たった二人で五十層を突破するのは流石に骨が折れるよ。それをまさか一人で突破するとはね」
「死にかけましたけどね」と僕は言う。「四肢も三本失って、顔も半分溶けましたし」
「普通は死にかけるじゃ済まないと思うが…………しかし、そこまで瀕死の状態からよくもまぁ、回復したものだよ」
「お医者さんも驚いてました。両親には泣かれましたけど」
「っていうか、あの小娘。話を聞く限り、あんたがダンジョンを脱出したのを見逃したって事よね。マジで何やってるのかしら。使えないわね」
「ああ…………それに関しては、少し私に心当たりがあるから、あまり彼女を責めないでくれ」
マジュ師匠が文句を言うと、ラキ師匠がフォローに入る。
心当たりとはなんだろう、と思うが、ラキ師匠は説明しない。
それよりも一度どこかで休憩しようと提案する。
確かに僕もここまでノンストップで来たから、お腹もペコペコだし、疲れもピークにきている。
二人に会えて、ドーパミン全開で一時的に疲れを忘れてるけど、それが切れたら、意識も一緒に切れそうだと思う。
それぐらい後先考えずにここまでぶっ飛んで来たから仕方ないと言えば仕方ないけれど。
ともあれ僕もかなり疲れているので、ラキ師匠の意見に同意する。
マジュ師匠も、僕に会えて一時的に元気を出したみたいだけど、よく見たら一番疲れてそうだ。
学者肌であまり運動してないし、体力がないのだから当然といえば当然である。
僕は辺りを見渡し、熱くもないマグマを見つけてそれにダイブする。
「ちょ、あんた……っ!」
躊躇なくダイビングする僕にマジュ師匠が驚きの声を上げるが、僕はそれに構わず、
「ほら。ここに潜って、一度休憩しよっ」
「…………ああ。それはそうなんだけど、きちんと確かめもせずに、いきなりドボンと飛び込むのは心臓に悪いから、できればやめてくれないかな」
「あ、はい」
確かに、第三者から見たらかなり危なっかしい行為だったと反省。
我ながら、ちょっと頭のねじが外れかけてるのかもしれない。
一度、死線を超えたせいかも。
◆
ぬるいマグマを泳いで抜けて、灼熱の場所から海底洞窟の吹き溜まりみたいな場所に到着する。
ここは上部の灼熱地獄とは違って、空気がひんやりとしている。
柔らかいクッションがあって、魔物が襲い掛かって来る危険もなければ、かなり居心地のいい場所かもしれない。
ずっとここで暮らせ、ってのは流石に無理だけど。
「とりあえず二人は休んでくれ。見張りは私がやるよ」
ラキ師匠の言葉に甘えて、僕とマジュ師匠が休憩に入る。
寝る前に、空間魔法で保管した食料を取り出し、それを食べる。
一応、ここまで食べながら飛んで来たけど、やっぱり食事はじっくり腰を下ろしてからの方がいい。
ちなみに冷気魔法を掛けておいたので、食料が腐ってる心配はない。
酒場のおっさんが、熱に強い食料を優先してくれたのもあるけど。
かなり割高に支払いした甲斐があった。
食べた後に、ひと眠り。
先に眠りについてるマジュ師匠の疲れた顔を見て、僕は本当に心配を掛けたのだと、もう一度反省する。
病院に残した両親にもまた心配を掛けてきたのだから、戻ったらきちんと謝っておこう。
特に母は、僕が眠りの魔法で無理やり眠らせてきたから、優先的に謝らないと、後が怖い。
ま、そんな事よりも今は休むことに集中しよう。
休める時に休むのがダンジョンの掟である。
僕は意識を闇の底に沈めた。
◆
熟睡してしまった。
まるで実家のベッドのように、ぐっすりと。
見張りがいてくれると、どうも緊張が抜けてしまう。
安心できるのは良い事だろうが、あまり緊張感がなさ過ぎるのも、我ながらどうかと思う。
「あ、起きたかい?」とラキ師匠がやや寝起きの状態で声を掛けてくる。
先に見張りをしてくれた筈のラキ師匠が寝起きという事は、僕が二人分寝てしまったという事だ。
「ご、ごめんなさい……寝すぎてごめんなさい」
「別にいいんだよ。子供は寝るのも仕事だ」
「ダ、ダンジョン進行は三人分、が、頑張るから」
「子供が変な気の遣い方をしないの」
マジュ師匠が僕の鼻を摘まむ。
休憩に入る前よりもずっと顔色がいい。
マジュ師匠もきちんと休めたようだ。
「それじゃ、上に戻って、さっさとダンジョンを脱出しようか」
ぬるいマグマをマジュ師匠が先に潜り、真ん中に僕、しんがりをラキ師匠が務めた。
マジュ師匠と僕が魔法で泳いで先に出て、それからそこそこ時間を空けてラキ師匠が顔を出す。
「ぷはっ」
「ちょっと遅いわよ。溺れたかと思ったじゃない」
「私が遅いんじゃなくて、二人が速過ぎるんだよ」
「あ、ラキ師匠は飛行魔法使えないんだっけ」
「あ、そっか。ごめん」」
マジュ師匠の謝罪をラキ師匠が「いいよいいよ」と笑って流す。
二人はいつでも仲良しだ。
「よし。それじゃあこんなクソ熱いところをさっさと抜けて、ダンジョンを脱出しようか」
「それ、さっきも言わなかった?」
「こういうのは何回言ってもいいだろう」
得意げにラキ師匠が言うのを見て、僕はもっともだと思った。
「じゃ、編成についてだが」
「あ、それについてなんだけど一つ提案があるんだ」
ラキ師匠が編成について言いだしたタイミングで僕は口を挟むように提案をする。
これは師匠二人と再会する前、灼熱のエリアを飛んでる時に気付いた事だが、アイテムを収納する為の空間魔法は、どうやらその入り口を自由に動かせるようだ。
飛びながら食事をとってる時に、取り出す為の入り口がずっと僕の右側にあったという事は、その入り口は空間に固定されてる訳ではなく、僕を中心に位置しているだけという事で、僕が右に動けば入り口も右に、僕が左に動けばそれに合わせて入り口も左に動いてくれる。
要するに何が言いたいかというと、
「ねぇ、ちょっと師匠二人は抱き合ってくれる?」
「はあっ? ちょっ、いきなり何を言い出すのっ?」
「うん? こうかい?」
「ちょぉっ?」
僕のお願いに、マジュ師匠が慌てふためき、ラキ師匠は特に何事もないかのように要求を聞いてくれる。
これで二人がくっついた、一時的に一体化としてみれる。
よし、これで空間魔法を発動。
二人の足元に空間魔法を発動し、二人を落とし穴の要領で空間魔法内に入れる。
顔だけ出した状態で入り口を狭めて、これで完了。
「おやおや」
「ちょぉぉおっ! いきなり何してんのよ、あんたは!」
怒鳴り散らかすマジュ師匠を無視して僕はラキ師匠に、
「ねぇ。しっかりマジュ師匠を掴んで、離さないでおいてね」
「お、おぉ。分かったよ」
ラキ師匠は戸惑いながらも頷いてくれた。
僕はそれを見て、軽く安堵し、そして空に飛びあがる。
念の為、横を見て、二人の生首が僕の隣にある事を確認。
「ちょ、あんた……まさか…………」
冷や汗を垂らすマジュ師匠に僕は笑顔で頷いてみせ、
「じゃあ行くよ────!」
そう言って、ロケットの如く飛行魔法を行使する。
目を凝らして熱いところを避け、防御魔法を僕と師匠二人の前に貼りつけておき、冷気魔法で三人とも熱さを凌ぐような状態で、空を飛ぶ。
休憩を存分に取ってたので、魔力も体力も気力も満ちている。
思いっきり速度を出せるのは気持ちがいい。
隣でマジュ師匠が泣きながら絶叫しているのがかなり耳障りだが、まぁ、身体もろくに動かせない状態でロケットみたいな速度で飛んでるのだから仕方あるまい。
むしろこの状態でやや笑みをひきつらせているだけのラキ師匠が凄いだけといえよう。
暫く空を飛び続け、五十四層、五十五層、五十六層を難なく突破する。
流石に二人抱えた状態で飛び続けたので、かなり疲れてしまい、一時休憩とする。
地面に降り、収納魔法を展開したままだと中にマグマが入る恐れがあるので、二人を解放する。
小一時間で慣れたラキ師匠はかなり余裕ありそうだが、対してマジュ師匠はフルマラソンを二回繰り返したのかってぐらいに疲労困憊。青色吐息の様態で、真っ青な顔色ながらも僕を必死に睨みつけた。
「泳げる?」
と僕がマジュ師匠に尋ねたところ、返事の代わりに拳が飛んで来た。
「ふんがぁ────ッ!」
師匠と弟子、大人と子供、そういうのを完全に無視した、憤怒、憎悪に囚われた灼熱の鉄拳だった。
僕は吹っ飛ばされ、あやうくガチのマグマに落ちそうになってしまった。
それでも追撃を繰り出そうとするマジュ師匠をラキ師匠が羽交い絞めにして、僕はなんとかぬるいマグマに潜って、休憩所へと非難する。
ラキ師匠達もそのままの態勢で泳いできた。
ひんやりとした休憩所で頭も冷えたのか、マジュ師匠はようやく落ち着きを取り戻して、
「はぁ、ホント死ぬかと思った……」
「でも、おかげでかなり進んだよね」
「ぶち殺すわよ」
殺意の視線を向けられ、僕はおとなしくしておこうと思った。
「それじゃあ二人ともゆっくりお休み。見張りは私がしておこう」
「いや、悪いよ」と僕が言う。
「前回もラキ師匠に見張りを頼み込んでいたわけだし、今度は僕が見張りになるよ」
「いいさ。アルカは移動中、かなり働いたからね。マジュは…………働いてはいないが、かなり疲れているようだし。疲れてないのは私だけだから、私が見張りをやるよ。その方が役割分担として丁度いいだろう?」
確かにラキ師匠の言う通り、今はラキ師匠だけが体力が余っていて、僕とマジュ師匠はかなり疲れている。
役割分担としてみるなら、彼女の方が正しい。
「…………分かった。その代わり、次の移動もさっきみたいな感じでやるからね」
「絶対嫌よ」
と、ここで真っ青な顔色のマジュ師匠が口を挟む。
「さっきみたいな移動は絶対嫌。命がいくつあっても足りないわ」
「それなら、マジュとアルカは二人で飛んで、私はさっきみたいな感じでゆっくり休ませてもらえるかな」
というラキ師匠の言葉で、次からはマジュ師匠も一緒に飛び、ラキ師匠だけが見張りをする役となった。
役割分担。
ラキ師匠は飛行魔法を使えないから、ちょうどいいよね。
「でも一つ気になるんだけど、アレってわざわざ空間魔法で収納する意味あるのかな? 普通に抱えていくのとどれくらい効率が変わるんだい?」
「……………………」
言われてみればその通り。
わざわざ空間魔法で身体を収納しても、それほど効率的ではないかもしれない。
頭部含めて全身を収納すれば、それこそ効率は上がるかもしれないが、それだと呼吸ができないかもしれないし、それに空間魔法による異空間との繋がりを完全に切ってしまうと、生物への影響がどうなるのかが全く読めない。
せめて人間以外の生物で一度試してからやるべきだろう。
現時点でやるには明らかにリスクが高すぎる。
…………もしかしてそのリスクを知ってるからこそ、マジュ師匠はあんなにも怖がってたのだろうか。
「ねぇ、マジュ師匠」と僕は訊ねてみると、
「そんなの知る訳ないじゃない。人間を空間魔法に閉じ込めるなんて、普通の神経してたら思いつく筈ないもの。あんた頭おかしいわよ」
そうだろうか。
そうかもしれない。
前回のダンジョンで顔が半分溶けてしまった時に脳の一部も溶けてしまったのかもしれない。
それがきちんと治療できてなくて、脳に障害ができた可能性もなくはない。
元の世界でも頭をぶつけたせいで脳に損傷を負い、サイコパスになった事例があるとかないとか。創作物ならわんさかあるけど。
とにかく僕も脳に損傷を負い、頭のどっかがイカレてしまった可能性が────、
「あんた、最初っからどっかイカレてたわよ。まともに着地の事も考えずにロケット魔法で吹っ飛んだり、寝言で『僕の右腕をちぎって師匠の股間にくっつけたら師匠は男の子になるのかなぁ』とか言ってたりしたし」
「……………………」
「あと、あんた、ちょいちょい独り言いう癖あるから、直した方がいいわよ」
「あ、はい」
この雰囲気はたぶん、これがきっかけで脳に損傷を負ったみたいな展開はなさそうだ。
メタ的に。
そんな感じで適当に会話をした後、軽い食事をとって、眠りにつく。




