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魔王の器  作者: 北崎世道
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任務

 換金所で昨日のアイテムを売り払った後、僕は掲示板の方に向かい、自分が受けられる任務を探す。


「うーんと」


 色々選んでいたら不意に後ろから肩を叩かれた。


「よぉ。よかったら俺たちの任務を手伝わないか?」


 見知らぬおっさんだ。三人いる。


「えっと……?」


「初めてなんだろう? 勉強がてら、俺たちの任務を手伝ってみるといい。授業料として報酬は出せないんだが」


「ん?」


 報酬なしという言葉で、ようやく目の前の汚らわしいおっさん達の視線が、こちらを見下しているモノだと気付いた。


「あ、いや。いいです」


 僕は断る。すると、おっさんたちが声を荒らげる。


「んだとぉ? いいから来いって言ってるのが分からねぇのかよっ!」


 おっさんの、こちらの肩を掴む力が強くなり、こちらを脅そうとしてくる。


 こちらとしては無視するべきなんだろうけど、このまま放っておくと、周りに迷惑が掛かる。


 どうしたもんかと考えてたら、僕とおっさん三匹との間に第三者が突如として現れた。


「────ねぇ、じじぃども。煩いんだけど」


 少女だ。


 変身中の僕よりも年下の幼い少女が、僕とおっさんの間に割り込んできた。


「迷惑だからどっか行ってくんない? 周りに迷惑かけてるのが、分かんないの? 消えた方がいいよ、マジで」


 だいぶ辛辣な口調である。


 年齢的にはメスガキ扱いされてもおかしくないんだけど、言ってること自体は辛辣ながらも真っ当だ。そもそもおっさん三匹が害悪過ぎるんだよな。


「んだぁ、このガキャァ」


 リーダー格のおっさんがまたしても声を荒らげ、少女を恫喝しようとするが、仲間の内の一人が、


「おい、こいつはやめとけ。例のアイツだぞ」


 と呟き、リーダー格のおっさんも、顔をしかめて、


「…………チッ」と舌打ち。


 それ以上何も言う事なく、この場から立ち去って行った。


「…………えっと」


 どうにも消化不良だが、とりあえず迷惑なおっさん達が消えたので一安心。


 僕は助けてくれた少女に礼を言う。


「ありがとう。助けてくれて。困ってたんだ」


「別にいいわ。こっちも単にあのクソどもが腹立たしかったから、動いただけだし。助けたつもりなんてないわ」


「だとしてもありがとう。お礼くらいは言わせて」


「ふんっ」


 少女は軽く鼻を鳴らしてから、そのままこの場から去ってしまった。


 うっすらと口元が笑っていたから、不快になった感じではなさそうだった。


 僕は少女を見送った後、また掲示板の確認に戻った。



 ◆



 僕は任務を受けた。


 初めての任務は荷物運びにした。薬草採取とどちらにしようか考えたが、なんとなくこっちにしてみた。僕が左利きだったら薬草採取になってただろう。


 所定の位置に向かうと、そこは大きな工場だった。


 工場の前にはたくさんの人が動き回って、たくさんの荷物があちこちに置かれていた。


 僕は工場前で一番偉そうな人の近くに行った。


「なんだぁ、てめぇ。邪魔だからどっか行ってな」


 僕は任務の書かれた紙を偉そうなおっさんに見せてみた。


「あぁん? …………あぁ、そうか。手伝いにきたのか。なんだ感心だな」


 偉そうなおっさんは途端に笑顔になって、


「おっし。仕事は大変だが単純だ。そこの荷物を工場内にある機械のところに運んでくれ。荷物に数字が振ってあるから、その数字通りのところにやってくれ。三十個運べば任務完了だ」


「はぁい」


 僕は手を上げ了解を示し、早速仕事に取り掛かる。


 まずはたくさんの荷物が置かれているところ。


 そこには係員みたいな人がいて、その人に話し掛けると、


「あ、それじゃキミはこの区画の荷物をお願いします」


 そう言われたので、その指示に従う。


 木箱に積まれた荷物の前に立ち、空間魔法を発動させて、木箱ごと一気に収納する。


「…………ぁんがっ」 


 なんか係員の驚く声が聞こえた気がしたが、気にせず工場内に向かい、それぞれ指定された機械のところに荷物を置く。


 十分後。


「ふぅ。これで任務完了かな」


 僕は早速、さっきのおっさんのところに戻って、任務が終わった事を告げようとする。と、


「おっ、さっきの坊主か。話は聞いたぜ。悪いが、さっきの任務をまたやってくれねぇだろうか? 勿論、報酬はその分追加する」


「いいですよ。できれば報酬よりも受けた任務の数をきちんとカウントしてほしいです。できるだけ早く、冒険者ランクを上げたいですから」


「おう。勿論だ。いやぁ助かるぜ。実は人手が足りなくて、ちょいと困ってたところだったからな」


 よく見たら、偉そうなおっさんの腕には三角の布が吊り下げられている。どうやら腕を怪我しているようだ。


「うっし、それじゃあ頼むぜ。細かい事は、あの兄ちゃんから聞いてくれ」


 おっさんが指さす方には、さっきの係員の人が立っている。あの人から色々聞けばいいのか。


「どうもぉ」


 歩み寄って、声を掛ける。


「あぁ、さっきの。ごめんね。勝手にキミのこと報告して」


「別にいいですよ。むしろ好都合でした。さっさと任務数をこなしたいんで、助かります」


「そう言ってくれてよかった。それじゃ、悪いけど、ここの荷物と、あっちの荷物、それから向こう側にあるやつを頼めるかい?」


「分かりました」


 早速、仕事に取り掛かる。



 ◆



 んで。


 二時間ぐらいして、ようやく全ての荷物が片付いた。


 いくら空間魔法を使ったとしても、これだけの荷物を動かしたので、流石に疲れた。


「ふぃぃーっ。つかれたぁ」


「おぉぅ。お疲れさん。いやぁ、ホント助かったよ」


「どうもーっす」


 僕はねぎらってくるおっさんに、軽く手を上げ、返事をする。


「いつもこんなに荷物あるんですか?」


「あるにはあるが、一日でこんなに片付けられた事はねぇよ。まさか空間魔法を習得してる奴が手伝いに来てくれるとは思わんかったわ。いやぁ、マジで助かったわ」


「喜んでくれてなによりです」


「ほら。任務完了を証明する用紙だ。ちゃんとこなした分を数に入れてるから、確認してくれ」


 僕はそれを受け取り、中身を確認する。


 うん。確かに。間違いない。


「ありがとうございます」


「礼を言うのはこっちの方さ。それよりも、お前さん、よければウチに雇われないかい? お前さんなら大歓迎さ」


「すいませんが……」


 僕はおっさんからの誘いをやんわりと断る。


「ま、そりゃそうだな」


 おっさんは特に気にしてなさそうだった。


「お前さんくらい優秀なら、もっといい仕事が山のようにあるさ。ま、頑張ってくれ。何かあったら、いつでもウチに来てくれて構わねぇぜ」


 がっはっはっ、とおっさんは豪快な笑いを見せてから、僕の背中をバシンと叩く。


 荒っぽい扱いだったが、全く不快ではなく、僕にはむしろ心地よかった。



 ◆



 工場を出て、受け取った任務完了証明用紙を握りしめて、ギルドの方に戻る。


 ギルド内は相変わらず薄汚い喧騒に満ちていた。


 僕は辺りを見渡して、とりあえずさっきギルド登録をした眼鏡のお姉さんのところの窓口に向かい、用紙を出す。


「どうも。これってどこに提出すればいいんですか?」


「あら、お疲れ様です。えっとこの紙はここでも受付できます…………よ? おぉっ!」


 なんかいきなり驚きの声が上がった。

「あ、そっか。空間魔法を使えるから…………にしても、うわぁ。すごい」 


 なにやら眼鏡を掛けた窓口のお姉さんが納得しつつも、感心している。


 僕が空間魔法を使えることを知っているので、こなした任務の数についても、きちんと理解してくれているようだ。


「はい。それではこれが報酬です。ご確認ください」 


 お姉さんが報酬のお金を出したので、それを受け取る。


「それとフェインさんは今からEランクです。おめでとうございます」


「え、うそ。やったぁ。ありがとうございます」


 思わぬランク昇格に僕は万歳をして、喜びを露わにする。


「いや、まさか初日でランク昇格するとは思いませんでしたよ。ギルド設立以来初ではないでしょうか」


「そうなんですね。あ、じゃあ、まだ時間はあるし、もう一つ依頼をやってみようかな。今度は戦うやつ」


「え? やるんですか?」


「はい。やります」 


 そう言って、僕は掲示板の方に行き、戦う依頼を探してみる。


「お、あった。これにしよう」


 戦う依頼を見つけたので、その用紙を持って、さっきのお姉さんのところに向かう。


「これ受けます」


「あ、はい。受けるのは構いませんが、大丈夫でしょうか?」


「はい。大丈夫です」


 僕が自分の胸を叩いて、大丈夫アピールをすると、お姉さんは少し戸惑った様子で、


「わ、分かりました……」と言って、依頼の紙にハンコを押した。


「あんまり無理はしないでくださいね」


「はぁい。分かってまぁす」


「それと、この依頼には注意事項があって……」



 ◆



 そんな訳で本日二件目の依頼だ。


 今回の依頼は、魔物の討伐依頼。


 厳密には、魔物の素材を採取する依頼だ。


 街の外にいるミドガルスライムを倒して、そいつの粘液を一瓶分集めれば依頼達成となる。


 ミドガルスライム自体は弱く、スライムなのに物理攻撃でも簡単に倒せる、本来ならダンジョンの一層、二層辺り、つまりFランクにしてもいいくらいの雑魚モンスターである。


 だからアイテム自体もそれほど貴重ではないが、話を聞くところによると、依頼人は実験の素材に使う為、恒常的にスライムの粘液を集めてるとの事。


 だから予め依頼人に確認とかもいらないらしい。


 飛行魔法で街の外に拡がる森まで飛んで、ミドガルスライムを乱獲し、粘液を集める。


「…………ふうむ?」 


 ミドガルスライムは繁殖力(増殖力?)が強く、森に行ったら至る所で簡単に見つかるらしいのだが、なんか前に来た時よりも数が少ない気がする。


 前はマジュ師匠と一緒に来て…………ああ、そういえば、たしかこの辺りにはミドガルベアーの巣があるんだっけか。


 熊なのに蜂の巣みたいな巣を作る珍種。


 そいつはそこそこ危険らしいから、その時はあまり森の中を自由に探索できなかったんだけど、今回はマジュ師匠の目もないので、自由に好き勝手探索できる。


 しかしながら、やはりスライムの数が少なすぎる。


 これは気のせいじゃ済まされないだろう。


 …………まさか、これは。


 十分後。


 探知魔法を使って効率的に粘液一瓶分を集めきったところで、嫌な予感が見事的中する。


 見事なまでに立派なミドガルベアーと遭遇した。


「まぁ、予想通りと言えば予想通りか」


 ミドガルベアーは熊でありながら小柄で、単体で見れば、それほど討伐何度は高くない。ダンジョン十層辺り、つまりEランクでも充分通用する強さだ。


 しかしミドガルベアーには困った習性がある。


「おいおいマジかよ」


 群れる習性だ。


 そんな訳で、遭遇したのは一匹ではなくなんと十匹。


 一匹だけならまだしも、十匹以上同時に現れると、一気に難易度が跳ね上がり、ダンジョン三十層、つまりDランク強になる。


 要するに、群れたところで僕の敵じゃないって事だ。


「喰らえっ、ファイヤー」


 獣には炎が効果的。


 ミドガルベアーが次々と焼け死んでいく。


 楽勝楽勝。


 と思ったら、周りに木々に燃え広がってしまったので、慌ててウォーターストーム連発で鎮火。


「ふぇぇ、死ぬかと思った……」 


 冷や汗を拭いながら、ミドガルベアーの死体を収穫する。


 ミドガルベアーのお肉はそこそこ美味だ。


 前に母が街で購入したのを食べて、美味しかった覚えがある。


 ほとんどが焼け焦げてるけど、これなら一応、食べられるし、なんなら売り物にもなる。


 そういえば、なんでもミドガルベアーの中でも、ミドガルベアーキングとかいう奴がいて、そいつのお肉ならなんと通常ベアーのお肉よりも旨味成分が十倍で

強さはなんと百倍との事。


「…………あ」


 なんて思ってたら、案の定、ミドガルベアーキングが登場した。


 伏線回収があまりにも早すぎる。


 もはやただの前振りじゃん。


 ミドガルベアーキングは通常ベアーと比べて身体が大きく、人間は勿論、普通の熊よりも更にデカい。


 全長はなんと五メートル程。


 …………だからまぁ、昨日のダンジョンボスと比べたら、全然小さいし、威圧感もそんなにない。


「昨日のはちょっとデカすぎたもんなぁ」


 三十メートル級と比べたら、流石に可哀そうか。


 …………あれ? でも、マジュ師匠のとこにあった本では確か…………ミドガルベアーキングの強さは、六十層ボスくらいあるんだっけか?


 思い出した瞬間、ミドガルベアーキングが唸り声をあげて、襲い掛かってきた。



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