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魔王の器  作者: 北崎世道
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転生

 夏の日差しが世界を灼熱の地獄に変える今日この頃。


 年々、春らしい暖かな日が、まるで中年の毛髪のようにすり減っていく。


 秋はとうに失われてしまったが、もしかすると暦からも消え失せて、過去の記憶と記録にしか残らないのだろうか。


 人の命のように。


 嗚呼、辛い。


 こんな世界なんてもう嫌だ。


 ────という訳で初めまして。横断歩道からこんにちは。僕の名前は────、



「うぎゃぁっトラックだぁ────っ!」



 僕の身体が吹っ飛ばされた。


 こうして僕は死んだ。



 ◆



 と、思ったら生きていた。


 いつの間にやら、僕の将来の計画性くらい真っ白な空間にいた。だだっ広いだけで何もない空間。僕の目の前にはこれまで見た事もないくらい美しい女性が立っていた。


「私は女神……」


 おぉ。


「私は美しい女神…………」


 …………おぉ、自分で言うのか。


「突然ですが、貴方は死にました。そして今、別の世界で生まれ変わろうとしています」


「い、異世界転生?」


「…………はい、そうです」


 女神様は若干笑みが引き攣っていた。


 ちょっと理解が早過ぎたらしい。


「転生する際、貴方には特別な力を授けましょう」


「転生特典の異世界チートですね。それは、どんな力でしょうか?」


「あ、はい」


 女神様はもう何か悟ったようだった。


 昨今の日本人はどんな価値観育んでるんでしょう……と小さくぼやきながら、


「貴方に授けるのは、転生した魂を受肉させるだけの器。要するに、人よりも多くの魔力を溜められる肉体を授けましょう」


「最初っから魔力がたくさんって事ですか。シンプルで強力な力ですね」


 僕が間違えたのが嬉しかったのか、女神様は口端を僅かに歪ませながら首を横に振る。


「いいえ。あくまで魔力を溜められるだけです。魔力を増やすのは貴方の努力次第になります」


「デカい体格にしてやるけど、筋肉は自分で育てなさい、みたいな感じですか?」


「筋肉に例えるならそうなりますね」


「おっぱいに例えるとどうなりますか?」


「黙れ」


 怒られた。


 反省。


 気を取り直して、


「つまり最初っから最強ではないって事ですか」


「そうですね」


 なら、強くなるなら努力が必要って訳だ。


「解りました。ありがとうございます」


 僕は女神様に頭を下げる。


 女神様はそれを見て、頷き、


「それでは転生者ウギャト・ラックよ。どうぞ、新しい人生をお楽しみください」


 女神様の言葉を最期に、僕の視界と意識が背景よりも真っ白に染まっていく。


 こうして僕は二度目の人生を歩み始めた。



 …………ウギャト・ラック?



 ◆



 温かな感触。


 僕は今、硬さと柔らかさを併せ持った奇妙な布団に包み込まれている。


 目は見えない。だが、瞼越しに薄っすらと光が見える。


 不意に布団が動く。揺れるような動き。


 これで、自分が誰かに抱きかかえられているのだと悟る。


 そして女神様とのやり取りを思い出し、自分が転生したのだと気付く。


「あぁっ、あぁっ」声を出す。


 高い声。


 赤ん坊の声だ。


 これで自分が本当に転生したのだと判る。 


「■■■■■■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」


 話し声が聞こえてくる。


 おそらく自分を産んだ両親たちの声だろう。


 内容は分からない。


 異世界だから言語が違うのか。


 日本語じゃないし、スワヒリ語でもないし、英語でも…………たぶんない。


 言葉が違くとも、両親が嬉しそうなのは判る。


 どうやら望まれて生まれた子のようだ。


 手足を動かそうとすると、こちらの動きに合わせて両親の声が弾む。


 赤ん坊の一挙一動が喜ばしくて仕方がないようだ。


 とりあえず、温かい家庭に生まれたようで一安心。


 僕はこれから、この温かい家族に囲まれながらどう生きていこうかと考える。



 ◆



 今やってる事。


 まず、身体を動かす訓練。


 赤ん坊は身体が重くて、動かない。だが、それは単純に筋力が発達してないせいだ。


 とりあえず手足の方なら動く。


 ただ、手足は軽いが、異様に短く、本来届くべきところに届かない。


 かゆいところが出ても届かない。


 と思ったが、どうもかゆいところが出てこない。


 神経が発達してないせいだろうか。


 よく分からないが、今のところ助かる事なので気にしない。


 ひとまず僕は身体を精いっぱい動かし続ける。疲れたら休み、それからまたすぐに動かし続ける。


 赤ん坊の身体は回復が早い。少し動かしただけですぐに疲れるが、回復もすぐだ。だからある意味ずっと動かし続けているようなもんだ。


 とりあえず手足を動かす事で、筋力と神経の発達が早くなるんじゃないかと思っての行為だ。


 今のところ成果は不明。


 何もしないよりはきっとマシだろう。


 それと、身体だけではなく、魔力を扱う事もしている。


 魔力の訓練。


 魔力は身体の延長線上にある不思議な存在だ。


 空気と自分の身体が混ざり合ってるような感じ。


 漫画とかでいうオーラとかそんなイメージで、今のところ認識している。


 今は、オーラみたいな魔力をぼんやり動かそうとしたり、あるいは感じ取ったりしている。


 それが訓練。


 完全自己流。流派はなし。


 他人よりも魔力が多いんじゃなくて、他人よりも魔力を多く持てるだけなので、魔力の訓練は必須である。


 訓練し続けたらいずれチート能力みたいな力に育つだろう。


 あと、言葉。


 言葉をできるだけ聞く様にしている。


 大人が何を話しているか。今はまださっぱり分からないけど、そのうち分かるようになるだろうと信じて聞き続ける。


 今のところスピードラーニング状態。


 効果のほどは未知数。


 ネットの口コミならぼろくそに叩かれるだろう。


 でもまぁ、きっと分かるようになるのだろう。


 じゃないと困るし。


 ◆



 たぶん一か月くらいが過ぎた。


 家猫よりも寝てばっかりの一か月。


 乳を吸うのは抵抗があるし、意識的に泣くのはもっと抵抗がある。


 ただ、抵抗があるからといってやらないと両親が心配してくるので、できるだけ吸ったり泣いたりしている。


 大人しくし過ぎてたらいかんみたい。


 それと訓練について。


 まずは身体。


 意識的に身体を動かす事で、だいぶ身体が自由に動く様になってきた。


 筋肉はそれほど成長していないが、神経が発達してきたのを感じる。


 関節を曲げるのも、曲げる伸ばすの二極化ではなく、少し曲げる、もう少し曲げるなどの細かい動きができるようになってきた。


 指の方はまだそこまで自由に動かない。握る、掴む、離すくらいはできるけど、人差し指だけ曲げる、みたいな動きができない。いや、できない事はないが、神経を使う。元の世界の時みたいには動かせない。


 次に言葉。


 言葉に関してはまだほとんど分からない。だが、自分の名前はおそらくアルというのが分かった。アルじゃなくて、アルカかもしれない。愛称で名前を縮めて呼ぶ事もあり得るので、おそらくはアルカなんだと思う。確信は持てないが。


 少なくともウギャト・ラックでないのは確実だ。


 流石にね。


 それと言葉はまだほとんど分からないままだが、音というべきか、日本語とは違う発音に慣れたというのはある。


 意味がサッパリ分からなくても、同じ言葉なら、あ、今の単語はさっきも言ったな、ぐらいの判別がつくようになってきた。


 おそらくだが、言語というのは知識じゃなくて感覚なのだろう。


 まずは感覚を得てから、知識を持つ必要があるのだと思う。


 でもってその感覚は、子供の時の方が培えやすい。だから、元の世界での外国人は片言の日本語を喋るのだ。


 逆に外国人からしてみれば片言の英語だったりなんだったりを喋ってるのだろう。


 勝手な憶測だけど。


 一割くらいは当たってるんじゃないかなって勝手に思っておく。


 そして魔力。


 これはすごい成長してるって感じる。


 元々、魔力に関しては元の世界での感覚を持ってないからか、少しの成長がものすごい大きな成長に感じてるだけかもしれない。


 もしくは転生前に女神様から魔力の器がどうのこうのって言ってたから、もしかしたら、それがあるのもしれない。


 ただ、個人的には、成長が早い赤ん坊の時期に、意識的に魔力の存在を感じようとしたり、それを操ろうとしたりしているのが一番大きな理由だと思う。


 異世界転生もので読んだ事がある。


 とにかく成長率が半端ない。


 身体と言葉は元の世界で完成形を経験してるから、まだこんなもんか、みたいな感覚だけど、魔力は完成形が見えないせいで、成長に関して奇妙な興奮がある。


 ふぉおおおおおっ、と思わず鼻息を荒くしてしまう。


 それを両親が見て、面白おかしく笑われてしまうのだが、まぁ、赤ん坊だから仕方あるまい。


 あ、あと目が見えるようになった。まだまだ視界は狭いが、両親の顔くらいなら見分けられる。


 見たところ、そこそこ美形だが、特別お金持ちって感じではない。


 普通の一般階級くらいだと思う。


 この世界の文明がどんなものかはまだよく分からないが、雰囲気からしてそんな感じに見える。


 優しくて温かいから何の問題もないけど。


 ホント愛されてるって感じる。



 ◆



 半年が経過した。 


 さすがにもう乳を吸う事には抵抗がなくなったが、意図的に泣く事にはまだ抵抗がある。


 オムツに排便排尿するのはもう大丈夫だけど、それを母親に知らせるのは、まだ時々「ぁぅぁぅ」みたいな声と視線で伝えてしまう。叫ぶのはともかく、泣き叫ぶってのは案外難しい。


 あと、自由に寝返りを打てるようになった。それとハイハイもできるようになった。


 両親は成長が早いみたいな事を言ってるようだが、まだ言葉は分からない。


 でもなんとなくニュアンスくらいは判るので、おそらく成長が早いと言ってるのは合ってると思う。


 身体と言葉はこんなものだが、魔力はすごい。


 実際に手で触らずに、物を動かせるようになった。


 念動力。サイコキネシスだ。


 おそらく今やってる事は、魔法というよりは魔力を扱う為の下準備で、歩く前にまず二本足で立つ練習をしているようなものだと、自分は勝手に解釈している。


 魔法はまだ呪文とかも分からないし、魔力をどんな風に魔法へと昇華させていくのかも分からない。


 そもそもこの世界における魔法がどんなものかも、まだはっきりとは判っていない。


 一応、両親が時々魔法を唱えてるので、どんな風に発動させるかはなんとなく判っているが、それでもあくまでなんとなく。外側のイメージだけ。自転車に乗る人を見ても、自分が自転車に乗れる訳ではないのと同じ。


 でも日に日にサイコキネシスで動かせる物の大きさなどが増えていってるし、魔力を扱える時間も長くなっていってる。


 きっと魔力そのものが増えているのだろう。


 訓練の成果が出てるのを肌で感じるので、今のところ楽しい。魔力に限らず、身体を動かすのも、言葉を覚えるのも。



 ◆



 そこからまた一か月。


 ハイハイで動ける範囲が拡がり、いよいよもって別の部屋に行けるようになった。


 サイコキネシスでドアノブを捻り、母親の目を盗んで別の部屋に行く。


 そこでいよいよ本を見つけた。


 本。つまりは文字だ。


 勿論、ページを開いても何が書いてあるかはさっぱりだが、それでもこの世界の文字がどういうモノかをきちんと見る良い機会となった。


 だが、残念ながら慌ててこちらを探しに来た母親に抱きかかえられ、すぐに自室へ連れ戻されてしまった。


 ただそれでも僕は諦めずに、またも同じように母親の目を盗んで先程の部屋に入り、本を読むことに挑戦した。


 勿論、またしても同じように慌てて探しに来た母親に連れ戻されてしまうのだけど。


 これらの流れを何度か繰り返し、ようやく母が、こちらが本に興味を持っている事に気付いてくれた。


 そうなると、母はこちらに本を買ってくれた。


 子供用の絵本である。


 この世界の文明レベルでは元の世界ほど本が出版されてないのは察しがつくから、これは本当にありがたかった。高かっただろうに。


 絵本は絵がついていて、中身も分かりやすいものだから、文字と言葉の判別がつきやすかった。


 それでいくつか簡単な言葉と文法を覚え、それをとっかかりに色々な言葉を覚えた。


 母が絵本を買ってから約一か月ほどで、僕はたどたどしくありながらも、なんとか言葉を話せるようになった。


 勿論、これまでずっと両親の言葉を聞き続けた積み重ねもある。というかその積み重ねがあったからこそ、言葉の解読ができたのだ。


 とはいえ、話せるのはほんの少しだけ。


 観光客が海外旅行で使う外国語と同レベルか、それ以下か。


 だけどそれでも、これはものすごく大きな成果である。


 というのも、こちらが言葉を話すだけで両親が大喜び、もっと言葉を覚えさせようという事で、ドンドン教えてくれる。こちらも分からない言葉は素直に訊ける。


 解読ではなく、伝達、教育である。


 赤ん坊の脳はスポンジの如くガンガン吸収してくれるので、更に一か月経てば、言葉に関してはほとんど喋れるようになった。


 本だって大人の本でさえ、ある程度は読めるようになった。


 身体も成長し、生後九か月でハイハイから自立、伝え歩きをすっ飛ばして、自立二足歩行もできるようになり、魔力はサイコキネシスで自分の身体を持ち上げられるようになった。


 更に今後は本を読めるようになったので、魔力の扱い方ではなく、魔法の使い方を覚えたいと思う。


 人生なかなか順調な滑り出し。


 成長を実感すると、訓練も楽しいものだ。


 元の世界じゃあまり経験できなかった事だ。



 ◆



 母に本をねだり、魔法に関する本を読むようになった。


 魔法は基本的に五つのレベルに分けられるらしい。


 初級中級上級、達人級、英雄級、との事。


 実はその上に魔王級やら伝説級、中には神級みたいなものもあるらしいが、あくまで伝説で、しかも順番もきっちり決まってないらしい。


 だから基本は五つだ。プラス規格外。


 それと、魔法には属性がある。これもさっきと同じでいくつか例外規格外もあるが、基本は六つ。


 火水土風雷、それから聖。木を土に含めず七つと数える人もいたり、氷を水に含めず七つか八つに数える人もいたりで、これまたややこしいところもあるが、基本は六つ。


 おそらくこれに光や闇などの隠し属性が増えたりするのだろう。


 それから魔力を体内に流して、身体能力や肉体強度を上げたりすることもできるそうだ。


 魔力っていうよりオーラとか闘気とかそっちで読んだ方がいいような気もするけど、今のところ全部魔力で統一されてるみたいだ。


 少なくともこの本ではそうだ。


 魔法に関しての基礎知識はこんなところか。


 レベルは五つ、属性は六つに分けられ、魔力で身体を強化できたりする。


 そんな感じ。


 ちなみにサイコキネシスに関しても載ってはいたが、やっぱりあまり効率的な運用ではなかったようだ。


 だけど効率的ではないからこそ、訓練として行うには効率的とも書かれていたので一安心。


 魔法は呪文詠唱が必要とされ、本には基本的な初級魔法と中級魔法の一部が書かれていた。


 ひとまず僕は初級魔法の呪文から唱え始めた。

 

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