第3話 フラグの一つである負けイベで勝つぞ
朝食は焼き魚定食だった。
こいつっ……!
ファンタジー世界のイメージとか全然気にしない、制作者の好みの朝食を設定しやがって……!!
そう言えば異世界NTRパルメディア、明らかに食事は定食屋のご飯みたいなのが多かった気がする。
これからも、口に馴染みのある料理が次々に登場することだろう。
なお、ご飯と魚とお新香と味噌汁のおかわりが自由であり、騎士という肉体労働職にもマッチしている。
「一同、食事をしながら聞いてくれ!」
食事中に、騎士団長が立ち上がった。
デクストン団長は王国最強の男にして、男爵位を持つ貴族だ。
だが、あえて騎士たちと交流を持つべく、朝食や夕食をともにしている好漢である。
金髪碧眼のスラリとした美男子で、ゲームでは男キャラなので声は割り当てられていない。
現実だといい声してるじゃないか。
なお、こいつもNTRする男の一人である。
「ラグーン帝国が昨夜、城塞国家プロマスを攻め落とした。このレイク王国との間に、かの帝国とを隔てる国は存在しなくなったわけだ」
ざわつく食事の場。
だが俺は気にしない。
それは必ず発生するイベントだからだ。
今はそれよりも……。
ダイオンと睨み合う。
奴は焼き魚の骨を上手く取れず、ぐちゃぐちゃにしながら食べている。
わはははは!
見ろ、俺の華麗な食べ方を!
骨しか残さんぞ!
「てめえ……調子に乗ってんじゃねえぞ、たまたま幼馴染だっただけのモヤシ野郎が」
青筋を浮かべながら味噌汁を飲むダイオン。
今日の味噌汁は油揚げとお豆腐の味噌汁であった。
食休みを終え、午前は訓練の時間だ。
俺は木剣を与えられ、これを振ることになる。
「おっ!? 一定回数スイングするとわずかだが経験点が入るな」
『勇者は常に、世界を救うための研究に余念がありませんね』
「そりゃそうだ。次に待っているのは、本来なら負けイベントだからな。なるほど、洗面の場でダイオンに圧倒され、その事をうじうじしていたジョナサンはこの訓練時間で経験点を得られずに負けたのか。では俺は無心で訓練をするのみ!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「おおジョナサン! 凄まじい気迫だな! まるで人が変わったかのようだ!」
デクストン団長が通りすがりに、目を丸くした。
人が! 変わってるんだよ!
だがそんな事を言うわけにはいくまい。
「生まれ変わった気持ちで訓練に励んでいます!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
微々たる経験点であろうと、訓練しまくると入ってくる!
馬鹿にはならない。
俺はこれによって、6レベルになったのだった。
レベルアップするとスキルポイントというものを得られる。
俺は訓練と並行しながら、心の中のShiftボタンとWボタンを押した。
スマホ対応ならばタップ二回で済むのだが、キーボード派の辛いところである。
スキル画面に移動。
2ポイント得られたスキルポイントを使用し、取得するのは格闘術!!
『格闘術ぅーっ!? 勇者よ、あなたは騎士なのではなかったのですかーっ!?』
「このゲームは実は格闘術がかなり強いんだ。それに俺の予想が確かなら……格闘術がフラグ爆砕の重要な役割を果たすぞ」
「何をぶつぶつ言いながら剣を振ってやがる!! 気持ち悪いやつだぜ!!」
俺よりも大振りな剣を振り回しつつ、ダイオンが吐き捨てる。
お前対策をやってるんだぞ!!
かくして、準備を整えるうちに運命の時は来た。
「みんな、励んでいるみたいね!」
よく通る美しい声が聞こえた。
誰もが剣を振る手を止める。
「訓練、止め!! 王女殿下に礼!」
騎士たちがビシッと揃って会釈する。
マリーナ王女がそこにはいた。
相変わらず、恐ろしく可愛いな。
彼女はうっすら笑顔を浮かべつつ、俺達に手を振っている。
俺と目線が合い、彼女の微笑みが少しだけ深くなった。
「デクストン団長。一つだけわがままを言ってもいいかしら」
「もちろんです。なんなりとお申し付けを」
「試合が見てみたいな。誰が強いのかしら」
ちらりと俺を見てウィンクする。
期待の目線だ。
しかし、いちいち仕草がカワイクて色っぽいな。
あれは淫紋を刻まれているせいではないだろうか。
デクストンも、これを見てゴクリと唾を飲んだ。
「俺が! やります!!」
ダイオンが挙手した。
そして俺に、
「勝負だジョナサン! 格の違いってもんを教えてやるぜ!!」
「よく囀る男だ」
「なにぃっ!?」
思わぬ言葉が帰ってきて、驚愕するダイオン。
俺はやつに向かって視線を飛ばした。
「いいだろう、遊んでやる!!」
「てめえええ! ぶっ殺してやる!!」
「落ち着け! 落ち着け二人とも! 殿下、お見苦しいところをお見せしました。では二人とも前に出ろ! 剣を構え!」
俺とダイオンが、姫の午前に出る。
向かい合い、剣を構えた。
王国騎士団の流派は、剣を正眼に置くことを基本の型とする。
その後はまあ、自由だ。
「叩き潰してやるぜジョナサン!!」
「まずは口先で攻撃か!? それがお前の流儀か!! なるほど、罵倒は剣よりも速いものな!! こりゃあ参ったぜ!!」
「てめえええええ!!」
「始め!!」
獣のように咆哮をあげながら襲いかかるダイオン。
この攻撃は、原作のジョナサンでは受けきれない。
そもそものレベルとステータスが違うのだ。
だが、俺は違う。
何度もこの負けイベを経験してきたからな。
逆転の一手を脳裏に浮かべつつ、先程の挑発でダイオンの冷静さを奪った。
ダイオンの放つ一撃は囮!
俺は木剣を片手で掲げて、これを受けた。
ダイオンの振り下ろした木剣とぶつかり合い、俺の武器が弾かれる。
そしてダイオンも片手だ。
こいつは剣を使うと見せかけて、俺を殴り飛ばすつもりだったのだ。
「終わりだなジョナサン!!」
だが!!
俺は剣を飛ばされた瞬間、常時ダッシュに移動を切り替えてダイオンの横方向に軸をずらしているのだ。
空を切るダイオンの拳!
泳いだヤツに向けて俺から放たれるのは、渾身のボディブロー!
「なにっ!? ジョナサンが消え」
「ツアーッ!!」
「ウグワーッ!!」
予想外の攻撃をボディに喰らい、ダイオンがくの字になった。
「て、てめえっ、素手で……!?」
「ツアーッ!!」
「ウグワーッ!!」
戦闘中におしゃべりする馬鹿がどこにいるかーっ!!
同じ場所にもう一発ボディブロー!!
ダイオンが膝をついた。
俺は飛ばされた木剣を拾いに常時ダッシュで後退し、常時ダッシュでスライドするように戻ってきて木剣をダイオンの頭にピタリと当てた。
「しょ……勝負あり!! 騎士の品格としてどうかとは思うが……勝者、ジョナサン!」
俺は無言で、ぐっと拳を天に突き上げた。
ダイオンに腹パンした方の拳である。
「凄い……! ジョナサン、やるじゃない! 強くなったのね!」
マリーナが嬉しそうだ。
俺は彼女にサムズアップしながら応える。
これで、彼女のNTRフラグの一つをへし折った。
一安心だ。
だが、何かするたびにちょっとエッチなオーラを周りに放つ彼女を……。
デクストン団長がじっと「あれ? 姫様いつもよりエッチだぞ?」と見つめているのだった。
フラグが去って、またフラグ……!!
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