第2話 ステータスを確認した後、王女登場だ
「ステータスを確認したい」
『……ステータスとは……?』
「この世界には概念そのものがないか。ええい、ゲームと同じ世界ならがステータスがあるはずだ! 俺の心のShift+Wボタンをプッシュ!!」
脳内でShiftボタンとWボタンを同時押しすると、眼の前にステータス画面が出現した。
「よし!!」
『こ……これは一体なんですか……!?』
驚いていてもα波が出るようないい声してるなあ、セレス!
画面には……。
→ アイテム
装備
スキル
ステータス
オプション
の五つがあった。
やはり、SAVEとLOADはないか。
人生、そう簡単にセーブしたりロードしたりはできないものだ。
なお、オプション画面で相手が喋っている内容をテキスト表示したり、スキップしたり、常時ダッシュ移動が可能になるようだ。
『な、なんという無法でしょうか……』
震え上がるセレス。
俺はこの世界の全てを知り尽くすまで遊び抜いた男だぞ?
そんなやつをこの世界に召喚したということは、セレスも知らない世界のシステムを活用されてしまうということに他ならない。
氷山にぶつかっても跳ね返すタイタニック号に乗った気持ちでいてもらいたい。
「レベルは5か。実質、スタート時点と同じだな。アイテムはポーションが三つ。そして思い出の指輪だ。この指輪は王女マリーナからかつて贈られたもので、彼女の今の姿を見ることができるぞ」
『詳しすぎません? 私よりも詳しいんですけど』
「装備はショートソードとブレストアーマー。初期装備だな。ジョナサンは王女マリーナの幼馴染だが、気が優しくて要領が悪く、騎士団ではあまり芽が出ていない……つまりは周囲に舐められる主人公になっている。言動や価値観がナヨナヨしているのだ。だが、俺がジョナサンになったからにはもう安心だ」
『何も喋る事がありません!!』
「セレスは俺が知らない、世界の細部について教えてくれると助かる。あと寝るときに耳元で囁いてくれると、入眠ASMRみたいで助かる……」
『勇者はとても難しいことを言うのですねえ。よいしょっと』
セレスが飛び上がり、俺の肩に乗った。
ジャキーン!! と音がした。
装備欄のその他に、女神セレスと記されている。
ほう、全てのステータスがちょっと上がった!
これは嬉しい。
「では部屋の外に出ようか。この世界での次のルーチンはなんだ?」
『水場で顔を洗うことになります』
「ありがとう! こういう世界の細かい描写は、ゲームからは読み取れないからな……」
俺が外に出ると……。
そこは石畳の廊下だった。
城にある、騎士たちの部屋ということになるのだろう。
出てすぐに声を掛けられた。
「ようジョナサン! 王女殿下の幼馴染様は、朝がゆっくりでいいなあ!」
振り返ると、ガタイのいい騎士がいる。
ツーブロックの頭で、シャツの上からも分かるムキムキだ。
ジョナサンもまあまあ鍛えられてはいるが、明らかに線が細い。
相手の剣士と比べると、頼りなく見えるものな。
なるほど、これが寝取り男との対比か。
「マリーナを寝取ってくる男の一人、騎士ダイオンだな」
「ああ? なんだって?」
「こいつのイベントはこの後だな。ダイオン、お前も洗顔しにいくのか? よし、行くぞ」
「えっ!?」
ダイオンがポカーンとした。
『この肉体の持ち主とはあまりにも異なった物言いをしたからですね。顔もキリッとしてますし』
「ああ。俺はこんなところで立ち止まってはいられないからな……」
「お、おいジョナサン! てめえ、なんだ? 調子に乗ってるのか? それとも俺のことを舐めてるのか!?」
ダイオンが肩を掴んでこようとする。
ここで俺は、オプション画面を開いて常時ダッシュになった。
しゅっと前方にずれる。
ダイオンの手が空を切った。
「きっ、消えた……!!」
「顔を洗いに行くぞダイオン!! ついてこい!」
「お、おう……!」
俺に気圧されたのか、ダイオンは頷くと渋々ついてきたのだった。
二人で並んで顔を洗う。
ここでダイオンが、ジョナサンに嫌味を言うイベントがある。
だが、面白くもないセリフなのでスキップだ。
キュルキュルキュルッとダイオンが喋った後、きょとんとした。
「なんかさっきからおかしいな……?」
「気のせいだろう」
「それにさっきからお前もおかしいな……?」
「気のせいじゃないか」
NTRフラグになるイベントまでは話を適当に合わせておけばいいだろう。
そしてここで……。
「あら、ジョナサンと……それにダイオンだったかしら?」
声がした。
叡智なゲームではおなじみの、北条あゅかさんが担当している声である。
この声に、何度お世話になったことか……。
「マリーナ姫様! おはようございます!」
ダイオンが大声で挨拶する。
俺もまた、彼女に顔を向けた。
「なにぃーっ!!」
そして衝撃を受ける。
艷やかな長い黒髪に、輝く紫の瞳。
淡雪のごとき白い肌と、普段着の上からでも分かるムチムチ度合い。
「CGよりもずっと可愛いのだが?」
『勇者よ、挨拶、挨拶! 王女様ぽかんとしてますよ!』
「そうだった。おはようございます、マリーナ姫」
俺は直角に腰を折って挨拶した。
びっくりした。
あんなに可愛いとは思わなかった。
賢者モードの俺の精神をぶち抜いてくるとは。
作品のヒロインは恐ろしいな。
「何よ、突然可愛いなんて……。褒めても何も出ないんだからね?」
ちょっと赤くなりながら、マリーナは唇を尖らせた。
ウワーッ!!
かわいいーっ!!
「二人とも、今日も訓練に励みなさいよ! 私、見に行くんだから」
「ははーっ!」
「はっ!」
ダイオンが大仰に返事をし、俺は直立不動で敬礼した。
去っていくマリーナ。
ダイオンは、
「くっそー、姫様本当にいいぜ……。絶対……絶対に抱いてやる……」
とか呟いているのだった。
いいだろう!
貴様を叩き潰す!!
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