第1話 どんなルートを辿っても寝取られてしまうではないか
「なんたることだ!」
俺は怒っていた。
遊んでいるのは異世界NTRパルメディア。
異世界もののRPGである。
いわゆる大人向け、18禁のゲームであり、ジャンルはNTR……ネトラレである。
おれはこのようなゲームを好んでプレイするのだが、今はちょっと違った。
ゲームを使用し、スッキリし、賢者モードになっていたのだ。
そして、さてNTRルートは遊んだが、他はどうなっているのかな? と気になったところだった。
一日を潰して全てのルートを遊び尽くし……。
そこで、ゲームのヒロイン、マリーナ姫があらゆるルートで絶対に寝取られ、主人公の騎士ジョナサンは大変みじめなことになるのを知ったのだった。
「なんということだ! なんたることだ! 許しがたい暴虐だ!」
賢者モードの俺は、世界で一番正義に敏感になっている。
この展開は正義がないがしろにされている!
賢者モードが続く間は、湧き上がる義憤が収まりそうにない。
うおおお、この正義の怒りをどこにぶつければいいのだ!
それにしてもいいゲームだったなあ!
遊び尽くしてしまった!
怒りと確かな満足感。
思わずダウンロードサイトで☆5を入れ、熱いレビューを書いてしまう。
そんな俺に、囁きかける声があった。
『勇者よ、勇者よ』
「うわっ、なんだ!?」
『まだ怒りに震える闘志があるならば、あなたの力が必要とされる世界があるのです』
「なにいっ!?」
俺は驚愕して立ち上がった。
キョロキョロあたりを見回す。
誰もいない。
『あなたの正義の意志で、巨大な敵を討って欲しいのです……!』
声は……パソコンから聞こえている。
俺は叡智なゲーム(年齢制限があるゲームを俺はこう呼ぶ)を、ヘッドホンではなくスピーカーで遊ぶスタンスだ。
音漏れを恐れるなんて男らしくない。
だから音声をオープンにしていたから、この声に気づけたと言えよう。
α波が出てそうな、癒し系の女性の声だ。
「ゲームのボーナストラックみたいなものかな? オマケ音声かな? だがこの声の声優さんは作品に参加していなかったはず……」
俺は再び腰掛け、ゲームに付属しているread meというテキストを立ち上げた。
声優さんを確認しないと……。
『ええい、しゃらくさいので召喚してしまいますね! 後で謝りますから』
「な、なにぃーっ! ウグワーッ!」
次の瞬間、俺の意識はぐるぐると回転を始め……。
パソコンのディスプレイに飲み込まれて行ったのだった。
ハッと気付く。
そこは、硬いベッドの上だ。
俺は寝ていた。
頭上には、質素な木製の天井がある。
「……どういうことだ……?」
俺は起き上がった。
声もいつもとは違う気がする。
なんというか、いい声だ。
さっき何度も聞いていたような……。
ベッドから降りて立ち上がると、背が高い。
明らかにいつもの俺より、見えている高さが違う気がする。
それにメガネが必要ない。
「待て。ちょっと待てよ……!」
俺は部屋を見回す。
そこは寝室だった。
机と椅子、衣類を掛けるハンガーラックのようなもの。
そして……鎧と、壁に掛けられた剣。
「ファンタジー世界だ」
俺はすぐに理解した。
鎧が置いてあり、剣が壁に掛かっているなどファンタジー世界でしかありえない。
そして、壁面に鏡があるのに気づいた。
磨き上げる技術が地球よりも低いのか、常にちょっと曇ったような鏡だ。
安物だからなのか?
それでも、自分の顔を写し出すことはできる。
俺は己の顔面を確認し、「ゲゲエーッ!!」と叫んだ。
「ジョ、ジョ、ジョナサン!! 異世界NTRの主人公、ジョナサンじゃないか!! あらゆるルートでヒロインたる王女マリーナを寝取られ、絶望に打ちひしがれたり、悪落ちしたマリーナにいたぶられたりするジョナサンではないか!!」
俺はここに至り、全てを理解した。
俺は今、異世界NTRパルメディアの世界に転生しているのだ。
さては、さっき聞こえてきた謎の声が、俺を転生させる何者かだったのだな。
『はい、その通りです』
するとだ。
机の上に光るものが現れた。
そこから、俺を転生させた声がする。
相変わらずα波が出てそうだ。
「あんた、何者だ?」
まずは1つ目の質問からしてみる。
『私は豊穣神セレス。超越者たちの侵略によって、神々が力を失いつつあるこのウエステリア大陸を司る女神の一柱です』
「情報量多かったな!? だが分かった。この世界はパルメディアだな?」
『はい、そうです。理解が早くて助かります!』
「あんたは豊穣神セレス。あんたの存在はゲーム中では語られていなかったはずだが、見落としたか? そして超越者。こいつはゲームの隠しボスだったはずだ。なるほど、それが世界を支配しようとしており、その過程で神々が力を失っていると」
『凄い! 理解度100%です!』
「さっき遊んでたからな。そしてこの世界を救うため、俺を主人公ジョナサンへ転生させたわけか。だがゲーム中では、最後のルートでもマリーナは超越者に寝取られてしまい、ジョナサンは絶望してしまうわけだが? いや、超越者を倒すルートはあるがやはりそこに至るまでの過程で寝取られが」
『超越者を倒した経験があるのですか!? ああ……あなたをこの世界に召喚して良かった。私はもう、この光としてあなたに言葉を届けるくらいの力しか残っていません。異世界より召喚された勇者よ……! どうか、この世界を救って下さい!』
「ふむ……。言わんとすることは分かった。そして恐らくその口ぶりだと……俺を元の世界に戻す力はない」
『凄い! 理解度100点満点です!』
「理解したくなかったなあ!! 仕方ない。超越者を倒さないと、俺はこの世界から脱出できない。そこまでは分かった。では、一つだけ重要な情報を聞くぞ」
『はい……! なんでしょうか……!』
セレスがゴクリと唾を飲む気配がした。
「今、ゲームだとどれくらいの進捗? オープニング終わったところ?」
『ああ、それは……。悪しき魔道士ボナペテーが送り込んだサキュバスによって、王女マリーナに呪いが掛かった翌朝です』
「くそっ、淫紋がついた直後じゃねえか!! やばいぞこれは……!! あの女、ここからこの世全てのNTRを集めるブラックホールみたいになるんだ……!!」
俺は決意した。
不甲斐ない主人公ジョナサンに代わり、俺がマリーナを寝取る全てのフラグを爆砕。
超越者を倒してからこの肉体、ジョナサンにハッピーエンドの道を残し、現実世界に帰還することを。
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