さまよい迷い
恵美はしばらく呆然と立ち尽くした。
ずっとたどってきた小さな川、それはもう少し大きな流れに合流していた。
川の両側は気が密集して生えている場所になっていた。
川に沿って歩こうとすれば狭い場所に身体を突っ込みながら歩いていくしかない。
木の根元は盛り上がった根がごつごつと盛り上がっていた。
後ろを見ても随分と歩いてきてしまった。もう引き返すこともできない。
川は水嵩が増していた。落ちたら溺れるかもしれないと思いつつ木の幹に抱き着きながらそろそろと歩いていく。
「行かなきゃ」
恵美はうつろに呟く。
自分はどこに向かっていたのかをいつの間にか恵美は見失っていた。
とにかく川に沿って進み続ける。それ以外考えられないでいた。
密集した木の隙間に身体を滑り込ませた。
「行かなきゃ」
そろそろと恵美は歩き始めた。
「お兄ちゃん、何で川を下っちゃいけないの?」
何とか電話がつながって雅弓は兄と電話をしていた。
「それはな、画像送るぞ」
兄はメールに画像を添付して送ってきた。
それは蛇行した川。
「山ってのは凸凹してるんだよ、下っていても途中で登ったりするところもあるし。だからまっすぐ下に伸びてるわけじゃない。まっすぐ降りていけばすぐでも川をたどったらものすごく遠回りになるかもしれないし。それにだ、川はどこに伸びているかわかったもんじゃない、もしかしたら森の奥まで続いているかもしれない」
「森の送って、熊が出るような?」
最近は街中にも出るという熊。山に行かずとも住宅街でクマに出くわすことも珍しくないという。そんな熊は山や森の奥ならもっと出るだろう。
「恵美、熊に食べられてないよね」
順子がこわばった顔で言った。
「多分、大丈夫なんじゃないかな」
額に冷や汗を流しつつ雅弓はそう言う。
「大丈夫、だといいなあ」
電話の向こうで兄がそう呟いていた。