山小屋
道なき道を二人は進む。木の隙間をくぐり、岩を足掛かりによじ登り登っていく。
枝に顔を擦ってひりひりと痛んだ。
雨で岩が濡れていたせいで何度か足を滑らせそうになった。
ようやく明るい場所が前方に見えた。
樹にしがみつきながらよじ登り横を見たら一メートルぐらい下がった場所に道があった。そして向こうから登ってくる登山客も見える。
「やっと着いたあ」
身軽な順子がまず下に降りた。そして、雅弓の手を引いて登山道に下した。
「まあ、何とかなったけど、なんで山で迷ったら登るの?」
「お兄ちゃんがそう言ってたんだけど、なんでなんだろうな」
雅弓が首をかしげる。
「そういえば、山って円錐形だよね、だから上に登ればその分狭くなるから道が見つかりやすいのかな」
そう言って大きく伸びをした。
「どうしたの?」
いきなり変な場所から出てきた二人の少女を見て登ってきた登山客が仰天していた。
かなり年配の中年女性は大変こなれた登山ファッションで決めていた。
麦わら帽子と長そでのジャケット、デニムのズボンに登山用ブーツ。
荷物も雅弓より少なく順子より多めという具合。おそらくこの登山コースにきちんと合わせた道具類を用意してると見受けられた。
「すいません、実は途中で道を間違えてやっと元の道に戻れたんです」
やっと元に戻れたと安堵で腰が抜けそうになった。
「それで、もう一人いたんですけど途中ではぐれて」
麦わら帽子を被った女性はそれを聞くと前方を指さした。
「あちらに山小屋があるから、そこに電話があるわ、それに管理さんがいるからそちらに相談して」
親切な言葉に二人はそのままその山小屋に向かう。
バンガロータイプのそこに行って管理人に泣きついた。
管理人はバーコード頭の初老のおじさんだったが。とにかく二人を落ち着かせて警察に電話した。
「いなくなった状況を」
「そういえば、水音が聞こえるって言ってからそのままいなくなっちゃって」
「まさか、沢筋に行っちゃったのか」
管理人さんの顔が歪む。
「ここならアンテナが立つから家族に連絡して」
二人はリュックからスマホを取り出すと、アンテナが立っていた。
雅弓が恵美の番号をタップする。
「だめだつながらない」
電波が届かない場所にいます。という音声だけが響く。