水量
喉が渇いた。恵美は惰性で足を動かしながら呻く。
足元にはさやさやと流れる水。頭上からはポツンポツンとあたる雫。
水はある。しかし飲むことはできない。
地面を流れている水なんて飲むの無理。雨のしずくはちっちゃすぎて口を開けても入ってこない。
持ってきた荷物の中に水筒はない。
なんでそんなに軽装なの。と雅弓や順子に呆れられたけれど、一応整った登山道なんだから、そのあたりに自動販売機ぐらい置いてあると思ったのだ。
だけど、歩いている間一度もそんなものは見なかった。登山道を外れる前でもだ。
「なんで山なんか来ようと思ったんだろう」
雑誌で特集されている山ガールファッションやSMSで山に登っている写真や動画で何となく決まった気がした。
「二人とも何でついてこないんだろう」
背後を振り返る。ついてくる様子は全くない。
「もう知らない、一人で降りて帰ってやる」
雅弓の持っていたリュックに二人の分の飲食物も念のため持ってきていたのだがそんなことは知る由もなかった。
川岸のそばを歩いている。時々張り出した枝に足を取られそうになる。
川の水が削ったらしいやや平らな場所でもあちこちに小石が落ちているし木の枝などが流れ着いたようなものもあった。
せめてスニーカーを履くべきだったが恵美はスニーカーを最初から持っていなかった。
小石を踏んで転びそうになりながらなんとか歩いていく。
「なんで何も見えないのよ」
いつまでたっても景色は変わらない。足元は小石と枝が散らばって雑草が生えている。周囲は木。木の種類は恵美に見分けはつかない。
枝ぶりが前方の景色をふさいでその先を見通すことができない。
恵美はひたすら前方を見て歩いていたが少しずつ川幅が広がっていくのに気が付いた。
「よかった、もうすぐ平地につくかも」
そうして、しばらく歩き続けていく。
川幅は少しづつ広くなりおそらく水深も深くなっていく。
徐々に歩いていくうちに足の甲まで水に沈んでいく。
「もう何なのよ」
ぐぽぐぽと気持ち悪い感触で靴が鳴っていた。
小雨ではあるが、それでも徐々にだが川の水量が増えているのだ。
足元のぬかるみに埋まって歩くスピードが落ちていく。
雨が徐々に激しくなっていく。じっとりと着ている服が濡れていった。
歩ける場所が狭くなっていく。
よろけながらそれでも川のそばを歩いていくしかない。