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謎のクリーチャー

……………………


 ──謎のクリーチャー



 俺たちが第4階層に設置された拠点で待つこと半日。


「やあやあ、佐世保君、湊君! 拠点はできたようだね!」


 ハイテンションな様子で篠原がやってきた。マオを連れて。


「マオを連れてきたのか?」


 俺たちは連れてこられたマオを見て驚く。


 ここはまだ一応拠点ができただけの未知の危険地帯だ。そんな場所に非戦闘員であるマオを連れてきたのはどうにも驚かざるを得ない。


「そうだよ。忘れてはいないだろうね? 彼女はひとりで1階まで這い上がってきたということを。ダンジョンに関しては我々より彼女の方が見識があるのだよ」


「それはそうだが……」


 しかし、マオの知識が必要なら安全な場所から答えてもらうだけでいいのではと俺は思っていた。ここにきて守らなければならないお荷物が増えるのは、正直なところ好ましくなかった。


「さて、それでは4階層の調査方針についてだがね。マオが言うのはここには恐ろしい猛獣が生息しているらしいのだよ。それが恐らく我々が5階層に向かうにあたっての脅威になっている」


「具体的な情報はあんたも持っていないのか、篠原?」


「ないよ。私とてダンジョンの全てを把握しているわけじゃない。ましてダンジョン戦役にも出没しなかったという未知のクリーチャーだ。興味深いじゃないか!」


「はあ」


 篠原がハイテンションなのに湊はがっくりした様子。


「そのクリーチャーとやらの情報収集からだな。ここでの仕事は」


 俺は仕方ないというようにそう言い、篠原の方を向く。


「で、具体的な調査方法はあるのか?」


「まずは情報部がこの4階層にいる大井や民間軍事会社(PMSC)の通信を傍受するそうだよ。なんでもクリーチャーが脅威になっているならば、それについて通信しているだろうからってね」


「なるほどな。ここから手がかりもなく歩き回るよりマシか」


 俺は一応公社本部に考えがあることに安堵した。


「それでは俺たちは報告を待つか。情報部の仕事が終わるまで」


「情報部の作戦に駆り出されないといいんだが」


 俺と湊はそう言って公社拠点の中で待機した。しかし、俺たちという有力な駒を放置していられるほど公社も暇ではなかったようだ。


「佐世保、湊。情報部の護衛を頼む」


 村瀬から呼び出しを受けた俺たちはそう言われた。


「了解だ。危険地帯に忍び込むのか?」


「ああ。複数の民間軍事会社(PMSC)が交戦しているエリアだ。どうにもドラッグの原料になる植物の群生地を巡って争っているらしい」


「それはまた」


 随分とクソッタレな理由で戦争をしているらしい。


「例のクリーチャーが目撃されたエリアだという情報もある。危険性が高いが、お前たちがついていってくれるなら安心できる」


「行くのは俺たちだけか?」


「ああ。簡単な航空支援があるが、それだけだ。交戦は可能な限り避けてくれ。大騒ぎになるとこちらにはできることがない」


「了解だ」


 俺たちの今回の作戦はあくまで偵察だ。静かに盗み聞き、盗み見て、それから静かに撤収すればトラブルを避けられるだろう。


「作戦開始はいつ?」


「明日からを予定している。現地の状況によっては延期される場合もある」


「現地の状況、か。ある程度分かってはいるんだな」


「ああ。ドローンを飛ばしているからな。すぐに撃墜されるものの」


 一応現地の上空にドローンは飛ばせているらしい。とはいえ交戦地帯の空にドローンを飛ばせば撃墜されても文句は言えない。


「では、明日に備えておく。そうだ。例のクリーチャーの姿はドローンに捉えられてはいないのか?」


 俺は少し疑問に思ってそう尋ねる。


「まだクリーチャーそのものは捉えられていない。ただ暴れた痕跡は残されている。この映像がそうだ」


 そういって村瀬は俺たちにドローンが捉えた映像を送ってくる。


「こいつは……」


 ひっくり返って破壊された戦車。無数の死体。炎上している装甲車。人間同士の戦闘で破壊されたものより派手に破壊されたそれらが映像には写されており、さらには近くに巨大な足跡があった。


「どんな怪獣の仕業だ、こいつは」


 思わず湊がそう言って唸る。


「分からん。まだどんなクリーチャーなのかは」


 湊の疑問に村瀬はそう答えるのみであった。



 * * * *



 そして翌日。


 俺たちは情報部の護衛をし、謎のクリーチャーについての情報を入手するために出撃することになった。


「今回もよろしく頼む」


 情報部の人間はいつもと同じ二宮と相場だ。


「どこも人手が足りないみたいだな」


「ああ。特に専門技術を持った人間が不足している。盗み聞きやらにも技術は必要だからな。そのせいであちこち派遣されまわっているよ」


 二宮はそう愚痴りながらも準備を済ませていた。


「さて、今回俺たちが向かうのは危険地帯だ。そして俺も相場もそこまで戦闘能力はない。あんたらが頼りだ。よろしく頼むぞ?」


「任せておけ」


 二宮が改めて頼むのに俺たちは頷く。


 それから装甲車で公社の拠点を出て、俺たちは問題の場所に向かう。


民間軍事会社(PMSC)がドラッグの原料を巡って殺し合っているらしいな」


「ああ。4階層でもドラッグの原料になる植物は存在するらしい。ただ、1階層と違って4階層から地上までそれを運ぶのは大変だ。だから、今はそこまで数が出回っていないという話だと」


 二宮は俺の問いにそう答える。


「こんなところまできてジャンキーがぶっ飛ぶための原材料探しとはな。あたしはときどき人類ってやつにほとほと愛想が尽きそうになるよ」


「違いないな。人間はどれだけドラッグに執着しているんだか」


 湊と俺はそう言いあい、装甲車を進ませて情報部が情報収集活動を行う地点への進出を目指した。


「湊。索敵を頼むぞ。ここは戦闘地帯だ」


「ああ。任せとけ」


 湊はいつものように索敵を担当し、俺は戦闘に備えながら装甲車を走らせる。


 装甲車は4階層で伸びる大井が整備した道路を抜け、そこから荒れた獣に道に移る。大井はジャンキーの世話をするつもりはないので、俺たちが向かう場所まで道路を整備しなければならない義理はない。


「今のところは静かだな」


「そろそろ車を降りて徒歩で進もう。この装甲車は目立つ」


「了解だ」


 二宮が言うのに俺は頷き、装甲車を近くの茂みに隠した。


 ここからは徒歩で情報部が求める地点まで進むことになる。


「ここではいくつかの民間軍事会社(PMSC)が争っている。狙撃に注意しろ。連中自分たちの利権を守るためならば、平気で警告なしに撃ってくるって話だからな」


「クソ野郎どもめ」


 二宮の言葉に湊がそう悪態をつく。


 それから俺たちは通信傍受や監視に適した高所を目指した。


……………………

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