4階層へ向けて
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──4階層へ向けて
翌日から俺たちは4階層の調査作戦に参加することになった。
「知っての通り、4階層には公社の拠点は存在しない」
まず村瀬がそのように述べる。
「公社はしばらくの間、4階層以降から撤退していたからな。そこでまずは調査拠点の設置を行いたい。その拠点が完成し次第、4階層の調査及び5階層への移動経路の確保を行うつもりだ」
やはり必要なのは調査拠点。医療支援などが受けられる体制がなければ、現場もそこまで命ははれない。
「というわけで、まずは拠点の設置を行う工兵とその護衛からなるチームを現地に送り込む。人員の予定はこの通りだ」
俺たちにODIN経由で拠点設置のためのメンバーのリストが送られてくる。工兵を中心に1個中隊規模の戦力を公社は4階層に派遣するつもりのようだ。
「オーケー。装備は?」
「必要なものは何でも持っていけ。この際、予算が云々の話はしない」
「了解だ」
こうして俺たちは4階層に拠点を設置するために3階層から4階層に向かうポータルを抜ける。すでにブラックカイマンの部隊は撤退しており、ポータルを潜ることには何の問題もなかった。
俺たちがポータルを超えて4階層に進むと、そこには緑あふれる光景が広がっていた。岩だらけで全く緑がなかった3階層ととは打って変わっている。
さらに言えば緑にあふれているといっても2階層にようなジャングルではなく、針葉樹の森が広がるヨーロッパのような光景だ。
「さて、拠点はどこに設置する?」
「その判断は工兵に任せよう」
俺たちはあくまで工兵の護衛だ。それ以上のことに首を突っ込まない。
それに工兵はただの土木作業員じゃない。野戦築城のプロであり、どこにどう陣地を設置すれば生き残れるかについては俺たちより詳しい。
餅は餅屋。物事はその道のプロに任せるのが一番だ。
それから工兵が指示し、俺たちは拠点を設置する場所を決定した。それは森が少し開けた場所であり、獣道が存在する場所であった。
「ここに拠点を設置する。警備は任せたぞ、ブギーマン」
「ブギーマンはやめろ」
工兵が軽口を叩くのに俺は睨みつけた。
それから拠点設置の工事が始まり、簡単な拠点が設置された。
プレハブの兵舎が立ち並び、その周囲をコンテナ型の土嚢と有刺鉄線が囲う。そんな本当に簡単な拠点だ。
そこにリモートタレットなどの防衛機材が持ち込まれ、陣地としての機能を持たせれば仮の拠点は完成である。最低限安全に寝泊まりして、食事をとれる場所が完成した。
これからここに通信設備や武器弾薬を持ち込み、4階層の拠点として本格的に機能するようにする。
「さて、拠点もとりあえず完成だな」
「ああ。あとはこの4階層の調査だが、ここでも何かトラブルが起きているのかね」
俺が言うのに湊がそう少しうんざりした様子で返す。
「問題は起きているかもしれないし、起きていないかもしれない。問題がなければそのまま5階層に向かって、6階層を探すという本来の任務を実行するだけだ」
「オーケー。本格的な拠点の設置が完了して、情報部が調査するのを待とう」
俺と湊は引き続き拠点の警備にあたり、拠点がただの休憩所ではなく、軍事拠点として機能するようになるまで警備を続けた。
それから数日後、拠点に機材と村瀬たちを乗せた車列が到着。
「ご苦労だった、佐世保、湊。拠点はこれで完成だ」
「おう。で、次の仕事は何だ?」
「4階層での調査をすぐに始める。軍事的な偵察と篠原が求める自然環境の調査だ。そいつが終われば5階層に向かえる」
「これまでと同じか」
調査をし、問題を把握し、それを解決し、それから次の階層へ。
いつものルーチン。変わることのない仕事。
「そう、同じだ。この階層の問題はまだ把握できていないが、これから情報部が動き出す。だが、その前に簡単な4階層の勢力図を確認しておこう」
そういって村瀬はODIN経由で俺たちと情報を共有する。
「まず4階層に最大勢力は大井だ。まあ、この階層まで潜ってくる連中が少ないということもあるが、そんな中では最大の戦力を保有しているとされている。状況が変わっていなければ今もそうなのだろう」
「そもそも他の勢力はいるのか?」
「いるぞ。まずブラックカイマンのような民間軍事会社が数社。太平洋保安公司とは別の連中で、麻薬カルテルなどの犯罪組織の使い走りをやっている。だが、この階層で注意すべきは別の存在かもしれん」
「というと?」
湊が村瀬に尋ねる。
「クリーチャーだ。この階層では強力なクリーチャーが複数確認されている。1階層に出没したドラゴンのようなクリーチャーだ」
「クリーチャーか……」
それはある意味では企業や犯罪組織、民間軍事会社より厄介な存在だった。企業などには人の理が通じるが、クリーチャーにはそれが通じないのだ。
長年、人間を相手にするべく訓練されてきた俺たちでも、クリーチャーを相手に何度も戸惑ったことがある。それは1階層で生じたドラゴン騒動を見ても分かる通りだ。
クリーチャー相手に斬首戦略は通じないし、心理戦も通じない。
「具体的にどういうクリーチャーが問題になっているんだ?」
「巨大な獣とだけ把握されている。ただし銃撃はおろか戦車砲の砲撃も通じないような化け物だと」
「またクソッタレだな」
ドラゴンと同じタイプのクリーチャーの出現に俺がそう愚痴る。
「しかし、それだけ情報がないということはダンジョン戦役には出てこなかったクリーチャーなのか?」
湊がそう疑問を呈する。
ドラゴンにしろ、他のクリーチャーにせよ、ダンジョン戦役には登場している。日本国防四軍はそのようなクリーチャーをリストし、情報を集めていたはずだ。
しかし、確かに今回この4階層にいるというクリーチャーの情報は少なすぎる。
「ダンジョン戦役には出ていないクリーチャーらしい。4階層に潜って初めて確認されたというクリーチャーだ」
かなり未確認の情報らしく村瀬はあいまいに答えた。
「それについて篠原が調べたがってるんじゃないか?」
「まさにな。篠原も拠点ができたという報告を受けてこっちに向かっている。しばらくは篠原先生のリクエストに応えることになるだろう」
湊が予想するのに村瀬は大当たりだというように頷く。
確かに未確認のクリーチャーがいるとなれば、篠原が興味を示さないはずがない。やつはダンジョンとそこにいるクリーチャーにずっと興味を持っていたのだから。
「それでは情報部がクリーチャーについて調べるまでは待機しておいてくれ。それから篠原が到着するまでな」
「了解だ」
こうして俺たちの第4階層での活動がスタートした。
脅威となっている謎のクリーチャーとやらをどうにかして、俺たちは先に進むのだ。
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