情報活動
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──情報活動
「囮だったか……」
ウィットロックの暗殺作戦の顛末を話す俺たちに、3階層に降りてきた村瀬が呟く。
「ああ。どうする? 敵はがっちり暗殺に警戒しているぜ」
湊がそううんざりしたように言う。
「プランを変えるべきかもしれん。暗殺を敵が警戒しているならば、敵が警戒していないことをやって一度気をそらす」
俺がそこでこのような提案を行った。
「警戒していないこと?」
「連中が通行料を取り立てている4階層に繋がるポータルを襲撃する」
「ふむ。なるほどな……」
俺の考えはこうだ。
敵はウィットロック暗殺を神経質なまでに警戒している。よって、そちらに戦力を集中させているだろう。そうであるならば、逆に他の部分は手薄になっているはずだ。
そこで敵が他に戦力を回さざる得ない状況を作り出す。それがポータル襲撃だ。
「ポータルは当然警備されているだろうが、敵はまだ俺たちがウィットロック暗殺を試みると思っているはずだ。そこでポータルが襲われれば、ちょっとした混乱が生み出せる。どうだ?」
「オーケー。それで行こう。まずはポータルの警備状況の確認だな」
こうして方針は決定し、俺たちはポータルの警備状況を確認することに。
「情報部がこれからこの階層のポータルにいるブラックカイマンの連中を調査する。やつらを支援してやってくれ、佐世保、湊」
「あいよ」
いつものように俺たちは情報部の支援に回る。公社は人手不足で腕の立つ連中は休む暇もなく次々に任務に追われる。
「しかし、情報部はどうやって偵察を?」
「通信傍受とドローンによる偵察。そんなところだと聞いている」
「まあ、そんなところか。別に変わった手段はないよな」
「どんなことも魔法の弾丸はないってことだ」
湊は情報部の偵察方法と村瀬から聞いて肩をすくめた。
「ブラックカイマンが展開している戦力によっては、俺たちの攻撃は不可能になる。いくら敵が戦力をウィットロックの暗殺の警戒に向けているとしても、敵だってそれなりの戦力を配備しているだろう」
ブラックカイマンの全体としての規模は不明なままだ。この手の民間軍事会社の規模は変動が大きく、事業規模をすぐに探ることはできない。民間軍事会社はコントラクターを増やすのも減らすのも自由自在なのである。
「ダンジョン内での武器密売は未だに取り締まれていないしな。民間軍事会社はダンジョン内でもコントラクターを雇っている。金があれば何でも手に入るとは言ったものだ」
俺はそう言って肩をすくめた。
「ポータルの警備戦力が俺たちに攪乱できる規模であることを祈ろう」
「そうだな」
そう言葉を交わし、俺たちは情報活動へ。
「今回もよろしく頼む」
情報部の人間は2階層でも行動を共にした二宮と相場だった。
「ああ。早速行こうぜ」
湊は装甲車を準備し、それに乗って俺たちは3階層から4階層に続くポータルに向かう。この俺たちの行動と並行して敵のドローンに対するジャミングが行われており、一時的にせよ敵のドローンは無力化されている。
その隙に俺たちはポータルに接近し、可能な限りの情報を集めるのだ。
「湊。敵のドローンについてはどうだ?」
「大丈夫だ。飛んではいない。敵もこのジャミングの中でドローンを飛ばすのはリスクだと判断したんだろうな」
「よし。久しぶりに上手くいっているな」
前回はとんだ罠に飛び込んでしまったが、今回は敵の裏がかけそうだ。
それから俺たちはポータルのある地点まで進出した。途中で装甲車を降り、徒歩で進むとブラックカイマンが陣取っているポータルが見える場所へ。
「わお……。こいつは結構な規模だぜ?」
まず湊がそう言う。
敵の規模は1個中隊程度だろうか。主力戦車こそいないものの装甲戦闘車の類も存在している。1階層のカルテルや2階層のカルトとは装備の質が全く違っているといってよかった。
「詳細な情報を集めて、改めて検討だな」
それから俺たちは敵のポータルの警備状況について詳細な情報を集めた。
ひとつだけ事前の予想で当たっていたのは、敵は今もウィットロック暗殺の方を警戒しているということであった。ドローンは飛行可能になってもすぐには俺たちの潜んでいるポータルの方には飛んでこなかったのがその証拠だ。
俺たちは身を潜め、情報を集め続ける……。
* * * *
「オーケー。情報収集は終わりだ」
二宮がそう言い、俺たちが情報収集を終えたのが1週間後のこと。
「じゃあ、撤収だな」
「ああ。情報を持ち帰ろう」
俺たちは来た道を戻り、3階層の公社の拠点へと帰還する。
俺たちの集めた情報はすぐに村瀬たちに通知され、作戦会議が開かれることに。
「敵の警備の規模は思ったよりデカいな」
村瀬は情報を見ながらそう言う。
「歩兵1個中隊と装甲車4台~6台。これを相手にするのか……」
「だが、敵は攻撃があるとは予想していない。それが唯一の弱点だ」
敵の通信を傍受したが、敵は全く攻撃が起きる可能性について考えていない。それは間違いなく敵の弱点だ。
「オーケー。分かった。公社としても戦力を可能な限り集めて投入する。こいつは暗殺じゃない。もはや戦争だ」
そして、俺たちはポータル襲撃計画を練る。
「こそこそやる必要はない。派手にかまして、敵を動揺させる。それが大事だ。動揺は敵を弱らせるからな。ちまちまとやっていては得られない効果だ」
「なら、一気にヘリボーンと行くか?」
「悪くない。ポータルの防空体制はさほどではなかった。一応ドローンで敵防空網破壊を実行すれば、無理なくヘリボーンで乗り付けられるだろう」
「では、決まりだな」
俺たちはヘリボーンでポータルを強襲することに。パワード・リフト機とドローンが動員されて敵の陣地の内側と外側に降下する。それからは暴れ回って敵を殲滅するという具合だ。
かなり荒っぽい作戦だが、公社側が敵を上回る戦力が動員できるとなったことで、勝算が出てきた。少なくともドローンに関しては敵よりも優れた機体が投入可能だ。
「乗り込んで、暴れて、ポータルの警備をぶち壊す。シンプルな作戦だ。誰かを捕まえて来いとか、誰かを確実に殺せといったオーダーはなし」
「ああ。久しぶりに暴れるだけでよさそうだ」
湊と俺はそう言葉を交わし、作戦開始の合図を待つ。
情報部が今もポータルの警備状況を確認しており、それが最大限手薄になった時点で攻撃を仕掛けるとそう決めているのだ。
作戦開始までの待機時間の間に俺たちは腹を満たし、便所に行き、装備を確認して先頭に備える。
そして──。
「作戦開始だ。ゴーサインが出た!」
ついに俺たちは動き出した。
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