ヘリボーン
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──ヘリボーン
俺たちは民間軍事会社ブラックカイマンとの交戦を覚悟して前進している。ゆっくりと進む装甲車の中から湊が生体電気センサーで索敵を行い、先回りしたであろう敵のヘリボーン部隊に警戒する。
「湊。掴めたか?」
「ああ。ここから1キロ先。武装した連中が待ち構えている」
「オーケー。ここから1キロというと……」
俺はODINで地図を参照する。
「クソ。隘路か。待ち伏せにはうってつけだな」
「どうする?」
「今さら交戦を回避しようにもバックするしか道はない。それだと永遠に追いかけまわされてこっちはガス欠になる。そうなったら迂回もクソも選択肢からなくなる。なら、正面突破だ」
「楽しくなってきたな、ええ?」
俺が言うのに湊たちがやけくそ気味に笑う。
「各員、装甲車は途中で降りるぞ。敵が対戦車ミサイルの類を持っていないとは考えられないからな」
「了解」
俺たちは途中で下車し、徒歩で先に進む。
「あそこか」
山岳地帯がほとんどを占める3階層において、谷と言うのは珍しくない。その緩やかに形成された谷から湊は敵の反応を得ていた。
「谷までは開けすぎてるな。狙い撃ちにされるぞ……」
「湊。敵の位置は分かるか?」
公社のオペレーターが愚痴るのに俺は湊に尋ねる。
「ODINに位置を示した。確認してくれ」
「オーケー。この位置か……。谷に近づくまでに狙撃の可能性はあるな……」
「どうする?」
「正面から牽制しつつ、側面に向けて迂回というところだな。それか全員で突撃して突破を図るかだ」
「前者の方がはるかにマシだな」
「なら決定だ」
迂回して側面を突くのは俺と湊となり、公社のオペレーターたちには正面で敵を牽制してもらうことになった。
俺たちは可能な限り谷まで接近し、敵の狙撃の射程に入るギリギリで俺と湊が迂回を始める。敵の狙撃手がこちらを狙おうとすれば正面の味方が援護してくれる。
「可能な限り、ぐるりと迂回するぞ。敵のドローンは?」
「まだ飛んでいる。あたしたちも恐らくは捕捉されているだろう」
「厄介だな……」
俺たちはそう言葉を交わしながらも3階層特有の岩ばかりで歩きづらい道を越えていき、遮蔽物を利用しながら着実に敵の方に向かう。
今のところ敵から狙われてはいないが、敵も側面を突かれないように対処はするだろう。それが問題だ。
そう思っていたとき、俺が遮蔽物として飛び込んだ岩が僅かに爆ぜた。狙撃だ。
「仕掛けてきたか」
「正面に展開している連中に牽制させよう」
「ああ」
俺たちはODIN経由で指示を出し、正面に展開している公社のオペレーターたちに敵を牽制させる。正面から敵に圧力を加えたことで、敵は迂回している俺たちの相手を本格的には行えなくなるはずだ。
「今のうちだ。急げ、急げ」
俺たちは熱光学迷彩などを駆使しながら敵に察知されないように進み、敵の側面へと回り込む。
ただ敵は既に俺たちが側面から接近していることそのものには気づいている。となれば、完全な奇襲を実現するのは難しいだろう。
それでも敵の対応能力にも限界はある。複数方向からの攻撃にはどうしても脆弱性が生じるはずだ。
「もう少しだ。敵の歓迎も予想されるぜ」
「ああ。歓迎をありがたく受け取って礼をしてやろう」
俺と湊は駆け敵が待ち伏せる谷に向けて進んだ。
「敵を視認。交戦」
そして、俺たちは敵を視認し、射撃を開始した。
岩だらけの渓谷にて敵はその岩を遮蔽物に俺たちを攻撃し、俺たちも遮蔽物を利用して敵と交戦する。交戦距離はかなりの近距離であり、敵の攻撃は正確だ。
だが、こちらも負けてはいない。
「湊。ODINに敵の位置をリアルタイムでアップロードしてくれ。スモークと熱光学迷彩で一気に近接して殲滅する」
「了解だ。アップロード開始!」
湊が探知した敵の位置情報がODINにアップロードされ、俺と共有される。
それを確認した俺は赤外線探知も通さないスモークを展開し、敵の視野を塞ぎながら熱光学迷彩を起動。一気に敵に向けて肉薄していく。
敵は俺の姿を見失ったらしく、混乱した様子だ。
そこに俺が殴り込む。
「そら」
サプレッサーを装着したショットガンで武装した敵の頭を吹き飛ばし、すぐさま次の獲物を狙う。敵も肉薄されたと気づいたようだが、こうなっては既に遅い。
俺は機械化された四肢を使って加速し、次々に得物を仕留めていく。
「クソ! 敵は熱光学迷彩を使っているぞ!」
「撤退だ! 一度下がれ! このままじゃ皆殺しだ!」
スモークと熱光学迷彩を前に敵は何もできず、撤退を始めた。だが、ここで逃がすほど俺はお人よしじゃない。
追撃してさらに殺す。敵は防弾装備を身に着けているが、ショットガンに装填されたスラグ弾ならば何の問題もなく防弾装備を貫通する。
ODINに表示されていた敵の数が徐々に減っていき、残る敵も撤退していった。
「よし。正面の部隊を前進させて一気に殲滅するぞ」
「オーケー。連絡する」
ここで俺たちは正面に展開している公社のオペレーターたちを前進させ、側面と正面からの圧力で敵の殲滅を図る。
しかしながら、俺が役に立つのはここまでだ。熱光学迷彩のバッテリーが切れ、スモークグレネードも使い果たした。この状況ではさっきのようなことはできない。
俺は戦況の確認と偵察で友軍を支援することに。
「敵は逃げ散っているな……。このままならば……」
俺は敵が撤退を始めたのを確認していた。
また秩序ある撤退を可能な限り維持しているようだが、崩れているのは間違いない。正面からの圧力が加わったことで押され続け、谷の外に追い出されようとしている。
「佐世保、敵のヘリが来るぞ!」
「不味いな」
しかし、ここで一度は撤退したはずの敵のヘリが飛来した。数は2機。俺たちはそのヘリの詳細を調べるが、それは攻撃ヘリの類ではなく、輸送用のヘリであった。それでもウェポンベイにはガンポッドなどが装備されているようだ。
「伏せろ。攻撃される可能性があるぞ」
俺たちは遮蔽物に飛び込んで伏せる。MANPADSもない今、できるのは相手が飛び去ってくれるのを祈ることだけだ。
敵のヘリはぐるりと周囲を一周すると1機ずつ高度を落として着陸していった。
「連中、ヘリに乗り込んで撤退するつもりらしい。どうする?」
「追いかける必要はない。敵が撤退するなら、こっちも家に帰るだけだ」
「了解だ」
俺たちの任務は敵の殲滅ではない。失敗したが、ウィットロック暗殺こそが俺たちの仕事だったのだ。
「敵が撤退していく。残った敵はいない」
「結構だ。俺たちも撤退しよう」
ヘリは飛び去っていき、俺たちは安堵の息を吐いた。
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