見つかった弱点
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──見つかった弱点
ドラゴン退治は本格化したのは、公社に対してとある接触があってからだ。
他でもないドラゴンにもっとも悩まされてる連中が、俺たちに共同戦線を持ち掛けてきたのである。そう、大井コンツェルンが共闘を提案してきた。
大井コンツェルン側は早急なドラゴン排除を求めており、公社を通じて日本政府に協力を要請しようとしたらしい。
しかしながら、公社は限定的な協力に限るとした。
それはそうだろう。これ以上政府が企業のいいなりになるのは、公社として望むところではない。
しかしながら、公社としてもドラゴンは排除したい。そこで大井と部分的に協力することで、ドラゴン排除を目指そうと言うのだ。
「しかし、問題はどうやってドラゴンを殺すか、だ」
俺は事務所で皆を前にそう言う。
「あのデフレクターシールドを相手にしては、多少の火力があったところで意味がない。徹底した火力で叩きのめさない限り、あっさりと返り討ちだ」
「徹底した火力、か。篠原がダンジョン戦役での対ドラゴン戦の戦いを調べたが、動員されたのは2個師団規模の戦力だったらしい」
「1体のドラゴンに2個師団?」
「ああ。2個師団だ」
「やってられん」
湊が言うのに村瀬がそう吐き捨てた。
「戦術核を使うってのはまともなオプションに思えるな。それ以外に他に方法があるのか? ダンジョンに2個師団を展開させるなんて無謀だぞ」
「篠原が今、戦術核を使わずにドラゴンを片付ける方法を探っている。考えてみろ。デフレクターシールドさえなければ殺せるんだ。あれはただの獣だ。血を流さない幽霊じゃないんだ」
「血が流せるなら殺せる、か?」
「そういうことだ」
村瀬が投げやりになるのに俺はそう説得した。
戦術核を使うと言うのは、俺の知る世界がさらに遠ざかることを意味する。それにどうせ核を使うぐらいならば、本当にどうしようもなくなり、メガトン級の戦略核を叩き込んでもらいたい。
その方が俺にとっては理想的だ。ダンジョンの全てが灰になるのだから。
「確かにデフレクターシールドさえなければ対物ライフルでも効果があるんだから。戦術核はオーバーキルかもしれん」
「デフレクターシールドが問題だな。最大の問題だ」
村瀬と湊がそう言って考え込む。
そこで俺のARデバイスにメッセージが入った。
「篠原からだ。研究室に来てくれ、と」
「行くとするか」
俺と湊は篠原からの呼び出しに、やつの研究室向かった。
エレベーターで下に降り、俺たちは研究室に入る。
「やあやあ、諸君! 今日から私のことはドラゴン殺しの篠原と呼んでくれたまえ!」
「ドラゴンを始末する方法を見つけたのか?」
「その通りだ!」
篠原はふんぞり返ってそう宣言。
「教えてくれ。どうやればドラゴンを始末できる?」
「まずは君たちが撮影したこの映像を見てくれ」
そう言って篠原は俺たちが先のフサール作戦で撮影した映像を再生。
「ここだ、ここ」
ドラゴンがただ死んだドラゴンの傍にいる映像が流れる中で、一度篠原が映像を止める。そして、彼女は映像をズームしていく。が、ドラゴンがただ座っているだけで、これと言った新しい情報はないようだが。
「ふん? この映像の何が特別なんだ?」
俺たちにはさっぱり理解できない。
「よーく見るんだ。ここ、ここ!」
篠原が限界まで映像を拡大した部位には──。
「鳥?」
鳥が映っていた。ドラゴンの周りを鳥が飛んでいるのが見えた。
「そう、ドラゴンのすぐ近くを飛んでいる。これは通常デフレクターシールドの内側に当たる場所だ。つまり!」
「そうか。どうにかしてドラゴンの懐に潜り込むか、あるいはドラゴンが無警戒のときに罠を仕掛ければ……」
「ドラゴンを殺せる」
大きな収穫だ。ドラゴンの弱点と呼べるものが判明したのだから。
「これを元に作戦を立ててみてくれ。きっと現状を打開できる。戦術核なしでね」
「ああ。このことは村瀬たちに報告しておく。理事会には?」
「私から報告済みだ」
仕事が早いこった。
「じゃあ、行くか」
俺たちはいよいよドラゴン討伐作戦の立案に掛かった。
* * * *
「現状、このドラゴンについて分かっていることはいくつかある」
村瀬が事務所のホワイトボードを使って作戦を示す。
「ひとつ、デフレクターシールドを使用する大型ドラゴンであること。そして、この死んだドラゴンを中心に周囲に破壊を振りまいているということ」
ドローンが撮影した映像には、ドラゴンを中心に破壊された車両や航空機の残骸が転がっていた。黒く焦げた車両の中には同じように黒焦げになった人間がいる。
「そして、篠原の調査で分かったがドラゴンが警戒態勢になければデフレクターシールドの内側に潜り込める。やつがドラゴンの死体の傍にいるときが、まさにその瞬間だ」
それぞれのARデバイスに流される篠原が捉えたドラゴンの弱点の様子。
「つまり、だ。そのドラゴンの死体に爆弾でも仕込むのか?」
村瀬の部下のひとりがそう尋ねる。
「まさにそれを考えている。デフレクターシールドを正面から相手にすれば死人の山ができる。俺たちは敵の隙を突く以外に方法はない」
村瀬はそう断言した。
「オーケー。それじゃあ、シンプルだ。ドラゴンをどこかに釣り上げて、その隙に爆弾を仕込み、やつが帰ってきたらドカン。ドラゴンは死んだ!」
「ああ。それが一番だ」
レイヴン・ユニットの金子が言うのに村瀬が頷く。
「では、誰が爆弾を仕掛けに行くかってことだが……」
「俺がやろう」
もっとも危険な任務に自分で名乗りを上げた。
「いいのか、佐世保」
「ああ。俺がもっとも生き残れる可能性が高い。だろう?」
村瀬が確認し、俺は頷く。
正直、俺は死んでもよかった。ドラゴンと相打ちになって死んでも全く後悔がなかった。俺はこの狂った世界に未練なんて欠片もないし、俺が死んでも世界が終わるわけじゃないのだから。
「なら、あたしも一緒だ」
しかし、そこで湊が名乗りを上げた。
「湊。下手すれば今回は助からんかもしれんぞ」
「あんただったそうなんだろう? それに万が一の場合に優れた斥候がいた方が生存確率は上がる」
「クソ。分かった。確かにその通りだ」
認めざるを得ない。湊がいた方が生き残れると。
死にに行きたいのだと公言できない以上、生き残るための努力は示さなければならないのだ。そのためには湊が必要だった。
「決まりだな。詳細を練ろう。ドラゴンを爆殺するのにどれだけの爆薬が必要かも計算しなければならん」
「ああ。どうやってドラゴンを一度釣りあげるかもな」
「大井が戦力を提供してくれるらしいので、せっかくならそれも組み込みたい」
公社だけが血を流すのはごめんだと村瀬。
「しかし、作戦名は既に決まっているぞ」
「それは?」
湊が尋ねるのに村瀬がにやりと笑う。
「ゲオルギオス作戦。ドラゴン殺しの英雄になろうぜ、諸君」
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