フサール作戦
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──フサール作戦
俺たちは無事に飛行場に到着した。
「ここだ、諸君!」
飛行場には先に篠原が待っていた。白衣のままだ。
「ドローンはどれだ?」
「これだよ、これ」
篠原はそう言ってガレージに俺たちを案内する。
「こいつは……」
「無人攻撃ヘリか」
大きさは通常の攻撃ヘリの半分程度。曲線的なシルエットをし、コックピットと呼べる場所が存在しないヘリ。両翼にはウェポンベイが存在し、ミサイルやロケット弾を格納することができる。
「そう、アロー・ダイナミクス・アヴィエイション製無人攻撃ヘリ──フサールだ。とある筋から調達してもらった!」
アローはアメリカの国防産業を担う会社で、日本との繋がりは薄いはずだが篠原はどういう伝手を使ったのか……。考えても無駄なんだろうな。
「これはあいにくアメリカ軍には採用されなかったが、いくつかの民間軍事会社が運用している。それによれば火力と機動力ともに不満はないそうだ」
「あたしも見たことがないと思ったが非採用兵器か。欠点は?」
「値段だ」
「なるほど」
兵器の値段は無視できない重要な要素である。結局のところ、戦争もある意味では経済活動なのだから。
「今回はただで調達したから、コストのことは考えなくともいい。これで思う存分ドラゴンを引っ掻き回し、彼の弱点を暴こうではないか!」
「オーケー。こいつの操作はドローンオペレーターが?」
「そうだよ。私がやるとでも思ったかね?」
「あんたならやりそうだ」
篠原が冗談めかして笑うのに俺は肩をすくめた。
「それじゃ、俺たちは観測位置に向かう。ドローンの動きはODIN経由で知らせてくれ」
「ドローンオペレーターにそう連絡しておくよ。では、フサール作戦開始だ!」
フサール無人攻撃ヘリを使うからフサール作戦とは安直な。
俺たちは再び車両に乗り込み、今度は観測地点を目指す。
ダンジョンの1階層はドラゴン問題が勃発してから緊張状態になっている。いつドラゴンが自分たちに襲い掛かるだろうかと不安になり、企業も犯罪組織も逃げられないものはドラゴンの襲撃に備えている。
あちこちにそういう人間が飛ばしたドローンが飛んでおり、さらにはドラゴンに挑んで破壊されただろう車両が道路に点在している。
「カルテルは部分的に停戦したらしい」
ここでレイヴン・ユニットの中川がそういう。
「そうなのか?」
「通信傍受班がそう言っていた。カルテル同士で殺し合う贅沢はお預けだと」
「カルテルにしては理性的だな」
中川は俺たちにそう言った。
確かに今は人間同士で殺し合っている贅沢はできない。そんなことをしていれば全員揃ってドラゴンに火葬にされる。
「あたしたちへの攻撃はどうなってるんだ?」
「そっちは分からん。連中にとっては俺たちはドラゴンがいようがいまいがずっと敵みたいなもんだしな」
湊が尋ねるが中川は情報を持っていなかった。
「道中、襲撃される可能性はあるわけだ。警戒しろ」
「了解」
公社は企業にも犯罪組織にも恨まれている。それはドラゴンが存在しようが、消え去ろうが未来永劫変わることはないだろう。
俺たちは警戒しながらドラゴンを観測するための丘の麓に車両を止めた。それから車両を厳重にカモフラージュする。
「行くぞ」
それから俺たちは静かに丘の上に登った。
「あれだな……」
忌々しいドラゴンは数キロ離れたこの地点からもよく見えた。
相変わらず太平洋保安公司に殺されたドラゴンの傍にいて、周囲を警戒するように見張っている。その周囲には民間軍事会社がけしかけ、そして撃墜されたドローンやミサイルの残骸が山ほど転がっていた。
「こちらハングドマン・ワン、配置に着いた」
『本部、了解。これからドローンを飛ばす』
俺たちは観測地点付近に軽く陣地を構築し、それから本部に連絡。
『ドローン接近中』
「ドラゴンに未だ動きなし」
ODIN経由でドローンの情報が送信されてきて、俺たちはそれを見ながらドラゴンを観測する。ドラゴンはまだ大きく動く様子はなく、ドローンの接近に気づいていない様子であった。
状況が変わったのは俺たちが目視でドローンを確認できるようになってからだ。
「あれだ。3時の方向にドローンを確認」
「オーケー。順調に接近中だ」
匍匐飛行で飛来したドローンを俺たちが確認したとき、ドラゴンが翼を広げた。
「動くか?」
「記録はしてるな?」
「ばっちりだ」
レイヴン・ユニットはカメラを持ちこみ、それによってドラゴンの動きをしっかりと記録していた。
ドラゴンは威嚇するように翼を広げるが、ドローンはそれを無視して接近。
『ドローンは攻撃を開始する』
そして、ドローンのウェポンベイが開き、対戦車ミサイルがドラゴンに向けて放たれた。ミサイルは勢いよく加速してドラゴンに突っ込む。
「デフレクターシールドってあれか……」
金子が呟いたようにドラゴンに向けて飛翔したミサイルはデフレクターシールドによって防がれ、空中で爆散した。
それから怒れるドラゴンは炎を放ち、ドローンは回避運動を取りながらドラゴンの周囲を飛行する。
『再攻撃実施』
今度は口径30ミリ機関砲の射撃がドラゴンに浴びせられる。しかし、同様にデフレクターシールドはそれを弾き続けていた。
「攻撃を浴びせ続ければデフレクターシールドのエネルギーが飽和するって話だったが、気が遠くなりそうだな…………」
「ああ。そう簡単に殺せれば、誰もダンジョン戦役で犠牲にはならなかった」
金子と湊がそう言葉を交わす中で、ドラゴンはついに飛翔してドローンを追い始めた。その巨体が助走もなしに垂直に飛び上がり、ドラゴンはドローンを追う。
「凄い機動力だ。あの巨体であんな動きするのかよ……」
「速度も速い。対戦車ミサイルを命中させるのは難しそうだ」
しっかりとカメラで記録が取られ、ドラゴンの情報が集まる。
ドラゴンは現代の戦闘機でも不可能な空中機動でドローンを追い、ドローンはついに逃走を開始した。
あとは逃げるドローンをドラゴンがどこまで追うかだが……。
「もし、飛行場までドラゴンがドローンを追いかけたら?」
「ドローンを途中で自爆させることになっている」
「それならいいが」
湊の質問に俺が答え、俺たちはドラゴンがどこまで追うかを調べるために車両に戻り、ドローンを追跡する。
「見失ってないよな?」
「ばっちり。ドローンはまだ逃げてて、ドラゴンは追いかけてる」
湊は複数の画像を処理する能力を使って、ODIN経由で送られてくるドローンの映像を捌いていた。俺たちはドラゴンとドローンのチェイスからある程度距離を取りつつ、ドラゴンたちを追い続ける。
「おっと。ドラゴンがドローンを追うの止めた」
それからそれなり距離を追ったときに湊がそう報告。
「やつはどこに向かっている?」
「元居た場所だ。ぐるっと180度進路を変えて帰還しつつある」
「ふむ」
俺たちはドラゴンがドローンを追うのを止めた距離を測定。
「大体25キロだ。その範囲でドラゴンは引き返した」
「これがやつの縄張りか」
「さてな。それは分からん。今日は気が向かなっただけの可能性もある」
俺たちは記録を確認すると、それを一度ODIN経由で本部に送信し、それから再び観測地点へと戻った。
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