偵察のための作戦立案
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──偵察のための作戦立案
俺と湊はドラゴンの調査に取り掛かることに。
まずは専門家である篠原の意見を聞こうと俺たちは再び研究室に戻る。
「篠原。偵察は決定した。で、作戦を立てるのにそっちの知恵を借りたい」
俺はそう篠原に申し出る。
「ふむふむ。それは何よりだが、私に手伝えるのは現状ドラゴンに関して分かっている情報を提供することぐらいだ」
「それでいい。頼むぞ」
まずはドラゴンについて可能な限り把握しておきたかった。
敵のスペックを知らずに挑んで、致命的な間違いを起こすことは避けたい。
「まずデフレクターシールドのない彼らの本来の頑丈さだが、もっとも薄い部分ならば口径20ミリレベルの対物ライフルで貫通可能だと報告されている。しかし、場所によっては貫通できないとも」
これまでのドラゴンの解剖記録と、そこで判明したドラゴンの防弾性能が俺たちのARデバイスにODIN経由で送られてくる。
「歩兵が装備する兵装ならば、携行対戦車ミサイルが一番適している。必要があれば私が対戦車ミサイルの誘導に関するコードを適したものに書き換えておこうではないか!」
「他に分かっていることは?」
「外見は爬虫類だが、目はかなりいいと考えられている。逆に音や臭いはあまり頼っていないとも。熱光学迷彩の有用性はいくつかの実戦で保障されている。オプションに入れておきたまえ」
「了解だ」
「あとはだね。ここに分かっていることを全てまとめたデータベースある! そこに私の人格を模したサポートAIを付けておいたので、有効活用してくれたまえ!」
途中で面倒になったのか、巨大なデータを俺たちに送りつける篠原。
「作戦はどうする?」
「重要なのはドラゴンの何を調査するか決めておくことだな」
「軍隊が相手ならすぐに思い浮かぶんだが、ドラゴンが相手となると、そこら辺あたしにはお手上げだよ」
俺が言うのに湊はそう返してくる。
「まずは相手の攻撃能力、それから機動力、そして予想される戦場。それぐらいだろう。今はあのデカ物のデフレクターシールドを無力化する方法をどうやって調べるかなど思い浮かばん」
俺はドラゴンとの戦いで必要になるだろう情報を列挙した。
攻撃力、機動力、想定される戦場の地形。
索敵能力については篠原から貰ったデータベースにある程度情報がある。俺たちはこのデータベースの穴を埋めるのが仕事だ。
「それをどうやって調べるか、だが。方法は威力偵察か、長期の監視かだ」
「威力偵察は無謀じゃないか?」
「しかし、それをやらなければ攻撃力や機動力について完全に把握できたと断言できない面がある」
渋い顔をする湊に俺はそういう。
無謀だということは分かっていた。だが、これで情報が手に入ればあとの戦いにおいて死人は減らせる。
俺はこのときこんな人生はどうでもいいと投げやりになっていたのかもしれない。
「ドローンを使おう」
ここで篠原がそう提案する。
「危険な任務は無人機にやらせればいいのだ。武装したドローンでドラゴンを刺激して怒らせれば、君の言った火力と機動力は把握できる。違うかね?」
篠原は俺にそう言ってきた。
「……そうだな。それで十分かもしれない」
「よろしい! 私は調査のためにとっておきのドローンを調達しておこう!」
俺が死のうとしてたことを篠原は読み取ったのだろうか? それは分からないままである。
「想定される戦場は?」
「どこまでドラゴンを引っ張って来れるかの調査の上で、こちらに有利な場所を探しておくだけだ」
「了解。仕事に掛かろうぜ」
俺たちは研究室を出るとレイヴン・ユニットと1階で合流した。
レイヴン・ユニットは狙撃手の中川蒼空と観測手の金子春木からなる。いずれも情報軍上がりの元軍人だ。
「佐世保、湊。早速組むことになったが、まさかその任務がカルテルじゃなくてドラゴン相手とはな」
「ああ。ダンジョンってのクソッタレだよ」
そして、俺たちは事務所に向かう。
「俺たちが調べるのはドラゴンの火力、機動力、それから想定される戦場だ」
「索敵能力については?」
「ここに篠原がまとめた情報がある。俺たちはこのデータベースの穴埋めをやる」
「了解。作戦について話し合おう」
中川が尋ねるのに俺はそう返し、ARでミーティングルームを構築。
「ドラゴンは現在もこの地点にいる。ドローンによれば通りかかった全てのものに襲い掛かっている状態だと」
「激怒状態ってわけか」
「ああ。俺たちはこれをさらにドローンで挑発し、やつの全力を引き出し、観測する」
作戦はドローンによる威力偵察だ。人命を犠牲にすることを避ける冴えたやり方。
「今、作戦に使用するドローンを篠原が準備している」
「篠原が?」
「ドラゴンの情報がほしいのはやつも同じってことだ」
意外そうな顔をする金子に湊がそう言った。
「ドローンを飛ばし、ドローンとドラゴンを観測する。万が一ドローンが撃墜されたら、それを回収するのも仕事のひとつになる」
「了解。観測地点は?」
「ここだ」
俺はドラゴンが陣取る大井の道路の近くとその周辺を見渡せる場所を選んだ。
「オーケー。想定される脅威は? ドラゴンとドンパチする以外で」
「道中にはカルテルの脅威が、現地には大井系列の民間軍事会社である太平洋保安公司の連中がいる。よほどのことがなければ、想定されるのは軽歩兵ぐらいだ」
「了解。ドラゴンとは交戦しないんだ?」
「それは絶対に避ける。デフレクターシールドがある以上、こちらの火力は全く意味をなさないものとなる」
効かない武器を持っていても意味はない。
「じゃあ、それぞれ準備したら、篠原からの連絡を待て」
そこで俺たちは装備を整えるために動く。
俺はいつも通りのサプレッサー付きのショットガン。湊はアサルトライフル。中川と金子は.338ラプアマグナムを使用する狙撃銃とマークスマンライフルで武装した。
他にも衛生キットや食料、水などを詰め込み、俺たちは作戦準備を整える。
想定される作戦時間は1、2日。それ以上長期間の作戦は考えていない。
あそこはドラゴンが陣取り、あらゆるものを攻撃している場所だ。下手に長居して炎に焼かれるのはごめんということだ。
「篠原から連絡が来た」
俺たちが待つこと7時間後に篠原からドローンが到着したから、至急飛行場に来るように連絡があった。
公社は本社の建物以外に飛行場を持っている。そこから大型のドローンやパワード・リフト機は飛び立っているのである。
「一体どんなドローンを手に入れたのやらだな。」
「篠原の伝手だろう。あいつはいろいろなところにコネがあるみたいだからな」
篠原は以前にも言ったが元は企業側の人間であり、そちらの方で活動していた。そのときのコネや政府とのコネを篠原は持っているようなのだ。
俺たちは装甲車で飛行場に向かう。企業が整備した道をぐんぐんと飛ばし、ダンジョンの中を走り抜ける。
飛行場までは本社から数時間で、道中はそこまで危険ではない。
篠原は一体どんなドローンを準備したのだろうか?
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