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ドラゴン問題の発生

……………………


 ──ドラゴン問題の発生



 俺と湊、マオは地下2階の研究室に入った。


「よくぞ帰ってきた!」


 篠原は俺たちを栄養バー片手に出迎えた。机の上には泥のように黒いコーヒーが注がれたカップが置いてある。


「さて、ドラゴンが問題になりそうだね。あれだけ巨大なドラゴンを無害化するのは、そう簡単なことじゃない」


「そうだな。話を聞いたが大規模な兵力が必要になるみたいだ」


「かといって、ドラゴンを放置すればまたしてもダンジョン戦役のようにダンジョンから地球への攻撃も起こりえる」


「それは最悪だな」


 ダンジョンの外には昔と違って出島が存在している。ダンジョンからあのドラゴンが外に出れば大惨事になるのは間違いない。


「恐らく公社はドラゴン対策を最優先事項にするだろう。そこで、ドラゴンについてもっと詳細な情報がほしい。あれが何を食べ、どれほどの縄張りを持ち、そして弱点は何かということをだ」


「俺たちにまたドラゴンを調べてこいと言うのか?」


「無論、君たちだけに頼らないよ。公社の他の職員にも頼むつもりだ」


「そうしてくれ」


 俺たちだけでドラゴンの調査をするのはぞっとする。


「マオ。君はドラゴンについてどれだけのことを知っている?」


 ここで篠原がマオにそう尋ねた。


「しろいドラゴン、きけん。とても、こわい。むら、とし、くに、ほろぼす……。だから、マオたち、くろいドラゴン、まもってもらう」


 篠原の質問にマオはそう語った。


「黒いドラゴンというのはこれまで観測されたことがないな……」


「一度もか?」


「ああ。観測されている一般的なドラゴンは赤い鱗のドラゴン。次に緑の鱗のドラゴンで、白い鱗のドラゴンも稀に目撃されてきた。ダンジョン戦役から記録されているドラゴンたちの中に黒い鱗のドラゴンはいない」


 湊が尋ね、篠原はそう返す。


「6階層に存在する存在なのかもしれない。企業の報告にも黒いドラゴンはないからね。しかし、まずは白いドラゴンに対処しなければ」


「科学者としてどうすればあいつを無害化できると思う?」


「私は科学者だがドラゴンスレイヤーではない。分からないよ。ただ、デフレクターシールドを中和する手段を考えなければ、我々は大損害を出すことだろう。だから、まずはデフレクターシールドの物理的特性の把握が必要だ」


 俺の問いに篠原はそう答えてから机の上に置いていたコーヒーを飲み干す。


「デフレクターシールドなんてのは現代の物理学で実現可能なのか?」


「そんなわけないだろう。そんな便利なものがあれば、今頃は全ての車両に搭載されているはずだ。どんな秘密の研究機関も開発できていない。ただ、だ」


「ただ?」


「企業は間違いなくドラゴンを調べ上げ、その仕組みを調べ、その技術を確立しようとしているだろうね。ダンジョンはそういう意味でも宝の宝庫なのだから」


「違いない」


 ダンジョンから技術が輸入されている。


 人間の寿命を劇的に伸ばすと期待されてるダンジョン由来の化学物質や本来空を飛べるはずがない重量のドラゴンが空を飛んでいる仕組み。


 そういう狂ったダンジョンの技術は地球に輸入され、ダンジョンによって生じたゆがみを拡大させていた。


 俺の知っていた世界は遠い昔の光景になりつつある。


「ドラゴンは倒せないわけじゃない。ただそのためのコストが膨大だ。ダンジョン戦役では正規軍を動員し、火力を持ってしてねじ伏せられた。だが、今はどうだね? それが可能だと思うかね?」


「いいや。企業の連中がダンジョンを無法地帯にした。そのせいで国家は介入できない。不可能だ」


「そう、ならば責任は企業にも取ってもらおう。我々は公社単独でドラゴンに挑むことはないよ。多分だがね」


 予言のようなことを篠原は言っていた。だが、道理は通っている。


「だといいのだが。企業の連中の責任逃れの腕前は科学者の想像以上かもしれないぜ」


 湊は皮肉めいてそう言う。


 だが、それでもやつの瞳にはドラゴンに対する確かな憎しみがあった。


「まずは調査だ! 情報なくして勝利なし!」


「はいはい。詳細な偵察計画が決まったら教える」


「そうしてくれたまえ。さあ、マオ。今日も勉強しよう!」


 篠原がマオを引き取ると、俺たちはこれからのことを話し合うのために事務所へ。


「今回のドラゴン退治に村瀬が言っていたような大規模な砲兵や空軍は動員できない」


「だから、ドラゴンのデフレクターシールドを無力化する方法を見つけないといけない。そうしないとドラゴンが出島に来て暴れ回り、山ほど人が死んだあとにしか、日本政府は関与できないから」


「いっそそうなればダンジョンなんてクソを封じられるような気もするんだがな」


「おい。これ以上、ダンジョンで死人を出すわけには…………」


「もう死人なら腐るほど出ただろう。いまさら数百人追加されてもかまうかよ」


「自棄になるなよ、佐世保」


 俺の肩をドンと湊が叩く。


「悪かった」


 俺はそう言ったが、このダンジョンというものを今後一切見ずに済むならば、出島での被害を許容する気持ちは変わらなかった。


 それから俺たちは事務所に戻ってきた。そこではさっきと変わって村瀬が忙しそうにしていた。


「村瀬? どうした?」


「理事会がドラゴン問題を迅速に解決したいそうだ。ドラゴンが出島に出てくることを日本政府が懸念しているとかで」


「クソ。親分の命令か」


 日本政府と公社の間にあるのは、公益財団法人としての認定ぐらいだが、実際には俺たちは日本政府の意向を受けているし、それに伴って活動資金も受け取っている。


 だから、日本政府の意向は無視できない。


「こっちも篠原からドラゴンの調査を依頼された。どうにかしてやつのデフレクターシールドを引き剥がさなければ、ドラゴンは殺せない。あたしたちはそのための手段を探してくる。何か見つかればいいんだが……」


 湊がそう言い、考え込む。


「少なくともダンジョン戦役中は見つからなかった。火力を叩き込んでエネルギーを飽和させる以外に方法はなかった」


「その方法がダンジョンでは使えない。ダンジョン戦役は総力戦だったからこそ可能だった。企業がいくら民間軍事会社(PMSC)の連中を動員しても、あれだけの規模の戦力を投じることは不可能だ」


「それが問題だ」


 ダンジョン戦役で国家が受けたダメージは何も人命だけではない。国家財政にも大打撃を受けた。近年まれに見る大規模な戦争──総力戦はあらゆる国家を経済的に弱体化させてしまった。


 そのせいで復興に力を出した企業が力を持ち、国家にダンジョンに関する要求を押し付けるに至ったのだ。


「もう国にしたところで総力戦はごめんだろう。どうにかして少ない戦力で効率的に子を殺されて怒れるドラゴンを仕留めなければならない。どうするのかはとんと見当がつかないものの」


 村瀬はそう言いながらも理事会から求められたドラゴン問題の解決に頭を悩ませる。


「まずは偵察だ。よければ部下を2名ほど貸してくれ。俺と湊だけだと調査でもリスクがある。情報は必要だろう?」


「分かった。早速レイヴン・ユニットの連中を付けよう。使ってくれ」


「助かる。作戦を立てたらそっちと理事会に報告して、俺たちはすぐに動く」


「ああ」


 ドラゴン問題。


 忌々しい空飛ぶトカゲを始末しなければ。


……………………

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