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TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない)  作者: 鐘楼


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誠意だぜ! もう一人

 「あんな……っ! 偽物を置いていくことのどこが……!」

 「偽物? はーっ、分かってないなぁヒョウヤくんは」


 虚空に映されたもう一人の俺の姿を指さし、怒りを露わにするヒョウヤだったが、これは全くの的外れと言わざるをえない。


 「あのハナビは、私が身体だけでなくメモリーも完全に複製して作成した、紛れもないもう一人のハナビだ」


 そう、キヌの問題を何とかするための最善の策。それが、以前レフバーちゃんから聞いた女体バージョンを創ったときの技法を人間にも使えるという情報を思いだし、それを実行に移すことだった。


 「さすがに冥王の腕は再現できなかったが……」

 「いやー、キヌはザラさんの腕にアレルギー起こしてたし、むしろ都合が良かったっしょ」


 ここにいる俺の持つザラさんの腕はさすがに再現できなかったらしく、あっちの俺は純粋な人間の身体だ。逆に人間の身体なんていくらでも創れるレフバーちゃんがヤバい。


 「だっ……だとすれば、なんでそんな平気な顔をしてるんだよ……! 自分と全く同じ記憶を持った存在を作るだなんて……!」

 「あー、まぁ、創作だとよくあるし?」


 そうは言ってみたが、本質は異なっている気がする。たしかに俺はクローン展開に慣れているし、それを抜きにしても前世では同じ型で同じ顔の兄弟がたくさんいるような境遇だった。


 「いや……違うな。役割が明確だからだ。俺もあっちの俺も平気な顔をしているのは」

 「役割……?」

 「キヌのために生きることと、こうしてリュッケたちのことを諦めないこと。両方やりたいことだったけど、同時にはできない。だから二人になった」


 一人が二人になって、争うことになるのはどちらが本物かどうかとか、そういう立ち位置を巡って争うことが多い。その点、俺たちは明確だ。たしかに今ここにいる俺がオリジナルなのかもしれないが、向こうの俺だってキヌにとっての本物なのだ。そういうアイデンティティがあれば、人は大抵平気なものだ。


 「さてと、レフトオーバー。協力者として頼みがある」

 「何かな?」

 「この二人を外に出して、自由に生きさせてやって欲しい」


 ヒョウヤとの会話を切り上げ、ニコちゃんたちを指さしてレフトオーバーにお願いする。


 「それはなぜかな?」

 「いや、これは半分レフバーちゃんのせいだから。ニコちゃんが、奪われたはずだった弟くんとの生活を送らせてくれたらレフバーちゃんへの恨みをチャラにしてくれるっぽいんだよ。これから表面上協力するために必要だろ?」

 「なるほど。良いだろう」


 レフトオーバーの承諾に、ニコちゃんの表情に隠しきれない喜色が浮かぶ。レフバーちゃんはノンデリロボだが、逆にわだかまりを引きずらない。こういう時にちゃんとメリットを提示すればすぐに頷いてくれるのは、正直言ってありがたかった。


 「あ、じゃあついでなんだけど。キヌたちやニコちゃんたちが安全に暮らせるように、ここの人間の他種族を憎む本能消して欲しいんだけど」

 「了解した」

 「やったぁ」

 「なっ……! そんな簡単に……!」


 あっさりと己の人生を狂わせた世界のルールが書き換えられたことに、ヒョウヤとニコちゃんが驚愕する。やっぱり一応ちゃんとこの世界の神様なんやなって。


 「とはいえ、本能がなくなったからと言って蓄積した価値観や恨みまで消えることはないはずだが」

 「ま、それはもうしょうがないっしょ。ニコちゃんも、弟くん守るくらいは余裕だよな?」

 「うん。……ありがとう、ハナビさん」


 そう言って、ニコちゃんは弟くんを連れて外の世界へ出て行った。ちなみに、この場所はレフトオーバーがこの世界を一括で管理するためのスペースらしい。


 「さて、要求は終わりかな?」

 「あぁ。そうだな」


 レフバーちゃんが確認してきたので、もう特にやってもらうことは思いつかないなと首肯する。すると、レフバーちゃんはとんでもないことを言いだした。


 「ならば、彼女やもう一人のキミが無事に人生を終えるまで時間を加速したいのだが」

 「……え? んなことできんの?」

 「無論だ」


 ……本当にこの世界はレフバーちゃんのシミュレーターみたいなものなんだなと、つくづく思う。たしかに、何世代もの人々の戦いをリアルタイムで追うのは非効率だろう。戦争ゲーだって、大抵一分で一ヶ月経ったりするし。


 「それ、キヌたちに不都合はないんだよな?」

 「もちろん。あの世界の内側にいる存在にとっては何も変わることはない」

 「……なるほど」


 そうすることで、なにか不都合はあるか考える。一番は、シャーリー、ハズミラ様、ウェルヌさんにもう会えないことか。でもまぁ……向こうも俺を探してるっぽいし、いつかあっちの俺と鉢合わせすることもあるだろう。じゃあ、その辺りのケジメはもう一人の俺に押しつければ良いか。


 「よし、俺は問題ない」

 「そうか」


 話がまとまったところで、俺とレフバーちゃんの視線は同時にある一点へ向けられる。それを受けたヒョウヤは、まるで恐れるかのように後ずさった。


 「ということでヒョウヤ。お別れだ」

 「っ……!」


 ヒョウヤをここに置いたままで時間を加速すれば、ヒョウヤの顔見知りも復讐対象もみな勝手に死んでしまう。だからヒョウヤを追い出そうと声をかけたのだが、ヒョウヤの顔は曇りっぱなしだった。


 「……嫌だ」

 「え?」

 「あんな……お前たちの意向で好き勝手にされる世界には、戻りたくない」

 「いや、気持ちはまぁ分かるけどさ……どうすんだよ復讐は」

 「……やめる」


 一瞬、耳を疑った。


 「もう、いい……疲れた……」

 「お、そ、そうか……」


 俯き、力なき声でそう呟くヒョウヤに、俺はそれしか言えなかった。ヒョウヤの姿は、完全に心が折れた人間のそれだった。自分以上の復讐者との戦い、自分の決意を俺の行動に否定される形になったこと、そしてさっきまでの俺との会話。ヒョウヤにとって、それらは俺が思っている以上に重かったらしい。さすがにちょっと申し訳なくなってくるが、まぁやめたいならそれが一番良いだろう。


 「では、良いかな?」

 「あー……ヒョウヤ? 本当に良いのか? もう中にいる奴らとは……」

 「……やれよ」


 吐き捨てるように言うヒョウヤ。その言葉を合図に、レフバーちゃんが何やら世界を操作した。


 すると、もう一人の俺とキヌを映していた映像が、とんでもないスピードで加速し始める。目覚めたキヌと俺は、焔精族の土地に帰ることなく二人だけの生活を始め、平穏な暮らしを送る。一度冥葬族との接触があったようだが、それ以外は代わり映えしないイチャイチャ生活が続き──成長し────老い。やがて全くの同じ瞬間に、二人は永い眠りについた。


 「…………死ん、だのか……? こんな……あっさりと……」


 そんな光景を目にしたヒョウヤが、絞り出すような声でそう呟く。


 「いやいや、これ以上ない幸せな一生だっただろ。ここから見てるからあっさりしてるように見えるだけだって」


 ていうか、ちょっと感動したわ。選択次第で俺でもあんな平穏な人生を送れるんだなって……。


 「は、は……なぁ、ハナビ」

 「え、なに?」

 「あいつは……キヌは、本当のお前がこうしてここにいることも知らずに死んだんだろ……? あいつは、あんなにお前のことが好きだったのに……これじゃ……俺の方が、お前の真実に近い場所にいるみたいだ……これで、良かったのかよ……」

 「うーん、一理ある」


 だが、意味のない話だ。もう一人の俺は、ここにいる俺という真実を隠し通した。その時点で、キヌにとっての真実は共に眠ったあのハナビなのだから。


 「けどさ、キヌが幸せならそれがすべてだと俺は思う」


 ヒョウヤは、何も答えなかった。

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