銀世界の第一話
目が覚めた。スッキリした気分で、昨日の気だるさや頭の砂嵐は消えている。伏せた姿勢から顔を上げると、あんよの先に小さなオレンジの実が薄く積まれていた。
「おはよ、ゼロ。とりあえず、この洞窟で取れる唯一の実だ。朝ごはんにしようぜ」
声がした方を見ると、スノーが私の腹の下からひょっこり現れた。
「ふはっ!」
思わず変な声が出て、笑ってしまう。
「ふふ、スノー、ありがとう」
「……ゼロの体温が暖かかったから、な。ほら、食べるぞ」
どこか照れた様子のスノーと一緒に実を食べる。異世界での初めての食事だ。味は薄い甘さで、シャクシャクした食感が楽しい。
食事を終え、スノーを頭に乗せて洞窟の外へ向かう。昨日みたいな産まれたての不安はない。力強く、ぽてぽてと来た道を戻る。吹雪の音はなくなり、氷柱が下がる入り口に着いた。そこで立ち止まり、ついお座りしてしまった。
寒さは昨日よりマシだけど、雪山特有の冷たさが残る。目の前に広がるのは一面の銀世界だ。全てが白く輝き、まるで絵画のよう。遠くの山々が水色の空に向かってそびえ、白い帽子をかぶっている。大きな木々は雪の重みで枝が垂れ、風が吹くと雪が舞い上がってキラキラ光る。綺麗だ。 そして足元には、ふかふかの雪が絨毯のように広がっている。
深さが分からない。踏み出すのが不安で、足が動かない。悩む私の頭から、スノーが声をかけてきた。
「ゼロ」
「スノー……」
困惑した犬声が漏れ、彼の名前をつぶやく。そんな私に、スノーがそっと声をかけた。
「ゼロ、俺がついてるから、とりあえず話を聞いてくれ」
私は小さく頷き、スノーに目を向けた。 今は一歩を踏み出せない。不安で仕方ないから、スノーの話にすがることにした。
スノーの話はこうだ。この世界には人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族が住んでいて、昔やったRPGゲームの世界が現実になったような場所らしい。魔法もモンスターもある。前よりずっとシビアな状況だから、最初の魔法の言葉を教えてくれるという。
「まずは“ステータス”って言葉を頭に浮かべてみてくれ」
スノーの言葉に少し首を傾げつつ、目を閉じる。
『“ステータス”』
心の中で唱えた瞬間、不思議な力が湧き上がった。目を開けると、目の前に文字が浮かんでいる。私とスノーは一緒に覗き込むようにそれを見つめた。
書き直して、投稿しています。お気入りや評価して頂くと活力になります。