鼻先の相棒
白毛のミニコウモリが、まっすぐ私の鼻先に飛んできた。マズルにしがみつく形で止まると、ふわっと小さな重みが伝わる。柔らかい毛と軽い羽の感触に、思わず目を細めた。
「ふー、無事に会えて良かったぜ、転生者さんよ。で、どこまで思い出した?」
高く澄んだ声で質問され、私はとりあえず口を開く。
「貴方が、私の相棒?」
低い唸りのような声で答えた。自分でもびっくりするほど犬っぽい響きだ。不思議な気分で、つい質問を返してしまった。
「あぁ!すまねえ、その説明が先だったな」
スノーはそう言うと、鼻先から私の頭の上にぴょんと移動する。そして、自己紹介を始めた。
「初めましてだ。俺は神の使いで、これから君の相棒になるスノーだ。君は名前、思い出したかい?」
「えっと、私が思い出したのは――」
その瞬間、頭の中の砂嵐が静まり、神様の声が響いてきた。
『昔の名前は使えない。だから君はゼロだよ』
「神様が、昔の名前は使えないから……ゼロ。私の名前はゼロだ。思い出した」
「なるほど、分かった。ゼロよ。記憶が戻るのはまだゆっくりで、時間がかかるはずだな」
スノーの言葉に、私は大きく頷く。その通りだ。記憶が戻る感覚は、頭の靄が晴れるようで、でも少しずつしか進まない。そして今、急に眠気が押し寄せてきた。
眠い。瞼が重くなり、頭がふらふら揺れ始めると、スノーの慌てた声が聞こえた。
「おいおい!記憶が戻るたび、体力や精神力がガクンと減るからな。この世界の説明とか色々は明日からでいい。今日はこのまま寝ちまおうぜ」
スノーがそう言うと、もしゃもしゃした羽が私の頭を撫でてくれる。柔らかくて温かい感触に、思わず体が緩む。私は自然と伏せの姿勢になり、目を閉じた。すると、スノーの羽がそっと私の目を覆ってくれて、そのまま深い眠りに落ちた。
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