白毛の道標
嵐のような風の音が聞こえる。刺すような冷たい空気を、鼻に感じる。次第に肌にも寒さが伝わってきて、瞼がやけに重い。開けるのが面倒に感じるほどだ。それでもゆっくり力を込めると、ようやく目が開いた。
目の前に広がる光景に驚いた。
ゴツゴツとした岩肌が広がり、所々に淡く光る植物が生えている。おかげで暗闇は免れている。先ほどから耳に響く音の正体は、横殴りの雪――絶望的な吹雪のカーテンだ。
頭の中は、まるで砂嵐のようだ。そのせいで体が気だるく、動くのも考えるのも億劫になる。何かを思い出せそうで、でも出てこない。どうしよう。下を見れば、白い毛に包まれた可愛いあんよと胸毛が目に入った。
「……」
あんよを横にしてみる。裏側はピンクの肉球で、爪はまだ小さいけれど鋭そうだ。首を動かして見える範囲を確認すると、どうやら私は白い毛に包まれた小さな生き物になっているらしい。
「ヒ、ンッ」
変な声が出た瞬間、頭の中の砂嵐が一瞬晴れた。
何かが湧き上がる感覚があった。 私は人間の女性だった。でも、何かに巻き込まれて死に、神様と出会った。そこで『私の世界に転生すれば望みが叶う』と言われたのだ。
転生する身体は前とは違い、最初は苦労するとも言われた気がする。その後、何か話し込んでいたはずだけど、また頭が霞んで思い出せない。
いや、一つだけはっきりしていることがある。 神様は、そんな私に道標を授けると言っていた。どんな形になるかは分からないけれど、この世界で一人で生き抜く自信がない。誰かの力を借りないと。
ぼんやり考え込んでいたけれど、それはそれとして。ここは寒い。白い毛に包まれていても感じるこの冷えは、命に関わるかもしれない。ゆったりと立ち上がろうと、あんよに力を入れる。 ぷるっぷると震える四足だ。あはは。笑えるほど身体が不安定で、四苦八苦しながらもなんとか立てた。
後ろを振り返ると、ここは洞窟らしい。まだ奥があるみたいで、寒さを少しでも遠ざけるために歩き出す。抜き足、差し足、忍び足。 光る植物のおかげで、進むのはそこまで怖くない。寒さが和らいだ中央まで来て、壁際に寄りかかろうとしたら、なぜかぐるぐる回りたくなった。
くるくる。二、三回回って、落ち着いて座る。すると、ふっと鼻に気になる匂いが届いた。なんだろう。 その時、頭の中の砂嵐が晴れ、昔の記憶が一つ蘇った。
犬の動画で見た、あのぐるぐる回る仕草だ。懐かしく思っていると、遠くからかすかな音が聞こえてきた。
「おーーい!!」
「無事かー?」
洞窟の奥から、高い声が響く。映画の吹き替えのようなその声に合わせて、小さな身体に枯葉型の耳をつけた、白い毛のミニコウモリが飛んできた。
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