婚約破棄の現場で~モブ騎士たちはまともに仕事する~
王子が婚約破棄を宣言した瞬間、彼の腕にしがみ付いていた男爵令嬢が息を詰まらせ、崩れ落ちた。
その後ろに立っていたのは会場の警備にあたっていた騎士の一人。
「シルヴィア?!」
「何をする、貴様っ!」
王子はすぐには現実を受け入れられなかった。代わりに騎士団長令息が剣を抜こうとして、帯剣していなかったことに気付き、手を彷徨わせて握る。
「王子を惑わした罪だ」
男爵令嬢の血で剣を汚した騎士が言う。
「なんだと?!!」
「男爵令嬢如きが王子を惑わすなど、不敬罪以外の何物にもならない」
「俺の愛する相手だぞ! 未来の王妃を殺してタダで済むと思っているのか?!」
「聞いたか。陛下とお妃様への殺害予告だ! 叛逆者どもを捕らえよ!!」
騒動に合わせて近寄っていた会場の警備をしていた騎士たちが王子たちを拘束する。
「放せ! 何を言っている?!」
騎士たちに取り押さえられた王子はどうしてこうなったのか、わかっていないないようだ。
「未来の王妃とは、陛下から王位簒奪する宣言に他ならない」
王子を取り押さえる騎士は言った。
「そんなわけあるか! 父上を弑いるなど、冗談でもあり得ない! 親子なのだぞ?!」
王子の側近を押さえ付けている騎士が言った。
「婚約者に言いがかりを付けて婚約破棄し、罰を与えようとした男が今更、陛下の決定に従うなど、誰が信じられるか!」
「なんだと!!」
会場の警備責任者である騎士は言った。
「陛下が結んだ縁談を勝手に打ち壊しにした挙句、公爵家に喧嘩を吹っかけて国を乱そうとした奴らだ。貴族用の牢ではなく、拷問室に放り込んでおけ」
王子の側近たちは不審者を王子に近付けるという、側近として一番、犯してはいけない失敗を追及された。
王子は国王夫妻を弑して王位簒奪する宣言をしたと、共謀した側近たちと共に公開処刑。
男爵令嬢を不敬罪に問うたモブ騎士は職務を全うしたと、報奨をもらうことになった。
王子が男爵令嬢を”未来の王妃”などと言わなければ、王子も側近たちも反逆罪に問われなかっただろう。
だが、王子は言ってしまった。
だが、側近たちは血筋も確かではない男爵令嬢を王子に近付けたままにし、王子に婚約破棄させて国を混乱に落としかけた。
多くの貴族の目のある場であった為、その罪は隠すことができず、毒杯ではなく、公開処刑という形になってしまった。
モブ騎士は王子を唆して婚約破棄を宣言させた不審者を誅しただけ。それはその場にいた王子たち以外と同意見だった。
毒婦に惑わされて、錯乱した言動をした王子がいたのなら、国王に忠誠を誓う騎士なら毒婦を誅し、王子を救わなければならない。
ただし、その王子に国王への害意があるのなら、他の犯罪者と同じく、反逆者として扱わなければならない。
ただ、それだけのこと。