街に降る声
相変わらず渋谷の街は、若者たちの熱気で溢れていた。
ふだんの桂ならば、ただ立っているだけで、スカウトや逆ナンパで、時間や空腹を充たすのは容易いことであったが、今日はそういった誘いを断り、時間が過ぎるのを待っていた。
それは不意に現れた。"あの少年であった。"四年の歳月は少年を青年に変えていたが、桂には間違えようがなかった。
青年はキョロキョロ周りを見渡すと特に人の多い方に歩き始めた。
たったそれだけのことに、桂はなにか違和感を感じ、急いでその場を離れ、部屋にもどった。
それからしばらくして、テレビは緊急速報で日本中は蜂の子をつついたような騒ぎになっているが、それらが真実を伝えることは無かった。国家権力による情報の隠蔽である。
桂は眠りから覚めたように、事態の全容を把握していた。
青年が使ったウイルスは『天然痘α』それが今回使われたウイルスである。その致死率は通常の物の二倍近くあり、その強過ぎる毒性のお陰で一定のエリアで被害が収まった。
どのようにして青年がウイルスを手に入れたかは謎だが、国家規模権力が
働いていること桂でも想像出来た。
どこかほの暗い場所に二つの気配があった。
「やっと、一山を超えましたね」
それはカンダタと名乗るあの蜘蛛であった。桂に対するときとは違い、静かな声であった。
もう一人はなにか大きく、深い存在を感じられた。
「大丈夫、彼ならば、いつかそこに辿り着いてくれます。」
とても、優しく慈愛に満ちた声であった。
「見守りましょう。」
「はい。」




