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このヒロインがやばい!

 すると今度は取調官がイーサンの言葉を引き継ぎ、さらに追及する。


「モロー嬢は、ジリアンに脅されたのでしょう。噂を広めたのが自分だとバレるのが嫌で、ジリアンにしこたま酒を飲ませて橋から突き落とした」


「違う。違うわ。私じゃない」

 エレンは泣きながら、彼の追及に首をふる。


 事情を知らない人がみれば、まるでエレンが皆にいじめられているようだ。



「この髪飾りはジリアンが溺死体で見つかった時、持っていた物です。その際、ストロベリーブロンドと思われる髪の毛もついていました」


 はっきりとした口調で取調官が指摘する。エレンのストロベリーブロンドの髪を見ながら。


「どうして、そんな話になるのです。ひどいわ。私は何もしていないのに」 


 ローザは彼らのやり取りを、目を見開いて聞いていた。


(つまり、ジリアンを殺した犯人はエレン。どうしてヒロインが人を殺すの? そんなバカな)


 扇子の下に口元を隠し、ローザは一人混乱の渦中にいた。


 だが、状況は彼女が犯人だと指し示しているし、証拠もある。


「それに噂を広めたのは私ではありません」


 そのエレンの一言で、ローザの頭はやっと状況についていった。


「わかったわ! 私の自作自演の噂を広めるために、オリバー商会に頼んだものの、オリバー商会はマーピンを雇い、そしてマーピンはエレン様の幼馴染とは知らずにジリアンを使ったってことなのね!」


 真相がわかって、やっとすっきりした。悪いことはできないものだ。


 今までローザはヒロインが人を殺すわけがないという思い込みにとらわれ過ぎていた。


 証拠はエレンを指し示していたのに。


「違います!なぜ私がこれほど責められなければならないの。すべてはお父様が計画したことなのに」


 泣きながら、デイビスを見る。

 だが、デイビスは苦虫をかみつぶしたような顔でエレンを見るばかり。



 エレンはあくまでも被害者の立場を譲ろうとしない。


 そのうえ、デイビスとエレンは、そばにトマスがいると言うのにまるっと無視している。

 ローザはそこにいびつなものを感じた。


 そしてローザはひっそりと、心の中で悲鳴を上げる。


(ヒロインが、ヒロインじゃないわ! やり方が汚すぎる。もしかして、漫画に似た世界……ってことよね。いや、それしかないって!)


 ローザはハタと気づく、そうローザは漫画の登場人物で脇役なんかではない。


 エレンが正しいヒロインでないように。


 実際にこの世界に生きている。


 だから、死にたくない。


 いや、エレンは、物語のヒロインですらないのだ。

 没落寸前の崖っぷち伯爵令嬢。


 だから、汚い手を使い、人を貶める。


(とんでもない悪女ってこと?)


 そこを認めてしまうと、あっという間にエレンへの理解は進んでいった。


 今までヒロインフィルターをかけて彼女をみていた自分に気づく。


 ローザが目まぐるしく思考を巡らせているうちに、デイビスが口を開いた。


「家が、破産しかけていたんだ。仕方がないだろう。それに今回の件はお前が画策した。私はそれに乗っただけだ」


「そんな、お父様ったらひどい!」


 今度は、突然父と娘の罪の擦り付けあいが始まった。

(醜い! 醜すぎるわ)


「私は殿下の愛人で満足しろと言ったのに、お前がそれでは嫌だと言ったせいで、クロイツァーのわがまま娘を殺すことにしたんじゃないか」


 いきなり親子の諍いに巻き込まれるローザは平常心ではいられない。


「はあ? 誰がわがまま娘ですって? それになんで私が殺されなければならないのよ! 意味がわからないのですけれど!」


 ローザのこめかみに青筋が立つ。


 扇子をパチンと閉じるとローザはそれをぎりぎりと握りしめた。

 今にも扇子の要は飛びそうだ。


 するとエレンがローザを見据える。


「いつでも自分がかわいいあなたには、人を愛すると言うことがわからないのよ」


 また論点がすり替えられる。

 そしてエレンはあくまでもローザに対して上から目線だ。


「自分の欲のために人を陥れておいて、何が愛よ。殿下から贈られた大切な髪飾りを見たこともないって言ったくせに、いまさら愛を振りかざさないで!」


 するとエレンはほの暗い笑みを浮かべる。


「欲ではないわ。愛よ。あなたみたいに薄情で自分のことしか考えない人にはわからないだろうけれど。愛は中途半端なものではないのよ。愛しいものと結ばれるためなら、

 すべてを投げうつ覚悟が必要なの。何もわかっていないくせに偉そうにいわないで!」


 エレンの鬼気迫る様子にローザは一瞬ぞくりとした。だが、ここで気を飲まれてはいけない。


「すべてを投げうつ? 投げうつのは自分だけにしてちょうだい。私を勝手に殺すんじゃないわよ。誰かを愛している自分に酔うのもたいがいになさい!」


 ローザがびしりと扇子でエレンを指し示す。


 エレンはローザの言葉に泣き崩れ、再び取調官に取り入ろうとするが見事失敗。


 取調官は不快な表情を隠しもしなかった。


 彼女はトマスやデイビスと共に容赦なく、連行されていった。





 その後、モロー家の者たちを取り調べ、その際アレックスとの関係も調べられた。


 取り調べと綿密な捜査、目撃者の存在が明るみに出て、ついにエレンは観念し、ジリアンを川へ落としたことを認めた。


 エレンはその夜、フードを深くかぶって顔を隠していたが、もみ合った際にフードが外れ目撃されていた。


 しかし、ここで、一件落着とはいかない。


 ローザの馬車の襲撃事件と、クロイツァー家の使用人交代事件が解決していなかった。


 自宅で一連の報告を受けたローザは、サロンで紅茶を飲みながら、不敵な笑みを浮かべた。


(ふふふ、犯人さん、待っていらっしゃい。このローザ・クロイツァーがあなたを許さないわ!)


 





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