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漫画の展開を思い出せ

 ローザは痛みをこらえつつ、ベッドに横になりながら、漫画の展開を思い出すことに意識を集中する。


 発端はローザがアレックスを強引に観劇に誘ったことだった。


 第三王子であるアレックスは、政治的な発言権を持つ有力者の娘ローザのしつこい誘いを断わり切れず、渋々観劇に行くことになったのだ。


 事件はその帰りに起きた。


 迎えに来た王家の馬車につながれていた一頭の馬が急に暴れ出し、ローザは蹴られて昏倒してしまう。


 その後、意識を取り戻したローザは、これ幸いとアレックスを毎日のように呼びつけ、痛みを訴え、家の権力を笠に着て責任を取れとせまる。


 立場上、強く断れない王子は結局婚約者にならざるを得ない。第三王子アレックスは側室腹なので、強い後ろ盾に恵まれていないのだ。

 実母の勧めもあって、ローザと婚約することになるのだ。


 そして漫画の通り、このまま第三王子の婚約者になるとますますローザは増長し、各方面に恨みをかうことになる。


 茶会や夜会に取り巻きを連れて繰り出しては、わがままを言い、まるで王子妃にでもなったかのようにふる舞う。

 

 やがては王太子妃にふさわしくないとされ、結婚式の半年前に何者かによって毒殺されてしまう。


 だが、今のローザは漫画の中の犯人については何も覚えていない。そもそも書かれていたのかいなかったのか、それすら定かではない。


 ローザは遠い目で、今世での夜会や茶会を回想する。


 彼女はいつもでも人の中心にいた。


 取り巻きの貴族令嬢の中でも一番仲良くしていたのは、エラにポピー、ライラだ。


 彼女たちはローザの言うことに、皆イエスとしか言わない。


 ローザは気に入らないことがあるとすぐにかっとなり、叱責する。特に美人やかわいらしい令嬢に対してあたりがきつかった。


「なんて狭量な……」


 ローザが思い出し、懊悩する横で、いつの間にかまた部屋に戻ってきていたヘレナがあきれたような視線をおくってくる。


「お嬢様、最近独り言が多いです。誰が聞いているやもわかりません。お気を付けくださいませ」


「そう、そうよね。貴族令嬢たるもの、弱みを見せてはいけないわね」


 ローザはヘレナの言葉に頷いた。


 最近、ヘレナから向けられる憐みの視線がいたい。

 

 以前は、はっきりとものを言うヘレナとローザのあいだには、常に緊迫感があったような気がする。


 それが今はすっかり、弛緩しきっていた。

 

 しかし、こうして前世を思い出してみると、以前はかわいげないと思っていたヘレナが、仕事ができる女の典型だと気づく。


 彼女は紛れもなく、メイドのプロフェッショナルだ。世が世なら出世していたことだろう。


 つくづく身分社会に生まれて気の毒である。


 その後、疲れたローザは爆睡した。ここら辺の神経の図太さはローザそのものだ。前世の彼女はもう少し、神経が細かった気がする。



 その日も定刻通りイーサンがやってきた。


 ローザはなるべく言葉少なに、余計なことを言ってしまわないように気を引きしめる。


(優秀な治癒師に殺されるとか、怖すぎない? 証拠すら残さないわよね?)


 内心では前世の『推し』であるはずのイーサンに、恐れおののいていた。


 そしてローザが話さなければ、彼も絶対に話さない。よって、治療中は痛いほどの沈黙と妙な緊張感が漂う。


 苦行のような治療も終わるころ、部屋のドアをノックする音が響いた。


 入って来たのは侯爵家執事ロンバートだ。


「お嬢様、殿下がお見えです」

「は?」


 呼んでもいないのに来るとは思っていなかった。


 だが、常識的に考えたら、見舞いにくらい来るだろう。


 それとも親ばかな父がアレックスに見舞いに来るように圧力をかけたのだろうか。


「ああ、えっと、まだお会いできるような状態ではないので、お父様に言って、お断りを入れてくれる?」

 イーサンをチラ見しながら、ローザが言う。


「いや、あの、それが」


 バタンと扉が大きく開かれる。


 そこにはアレックスが悄然とした様子で立っていた。


(いやいや、ちょっと待ってよ)




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