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夜会1

 会場はグリフィス家のタウンハウスではなく、王都近郊にある別邸でかなり大規模なものだ。


 招待客も百人は軽く超えるだろう。招待されたのは貴族だけではなく、ブルジョア層も混じっている。


 これは販路拡大のチャンス……と張り切りかけて、ローザはハッとする。


(目的を見誤ってはいけないわ。私の悪評はやがて商売にも影を落とす。なんとして解決して見せるわよ。てか、毒殺されたくないのだけど!)

 

 ローザは改めてプライオリティーの確認をする。


 今夜の夜会にはローザの友人のライラやポピー、エマも来ているはずなのだが、さっぱり見つからない。


 それにエレンとアレックスも……、ともかく屋敷の広さは驚くほどで、人も多いのだ。


 加えて今回の夜会は派閥が入り乱れている。


 だが、それも時間がたつごとに派閥ごとの島ができ、わかれていく。

 

 ローザが恨めしそうにアルノー派を見ながら、果実水を飲み軽食をつまんでいると、楽団の奏でるダンス曲が流れてきた。

 

 ダンスタイムの始まりだ。男女がこぞって参加し始める。若いカップルたちは楽しそうだ。

 


 ふと視線を感じローザが顔を上げると、その先にアレックスがいた。


「お兄様、緊急事態です!」


「おいおい。ローザ。食べながらしゃべるな。お前はそれでも淑女か」

 横でシャンパンを楽しんでいたフィルバートに窘められる。


「それどころではありません。今すぐ、踊りましょう」

「は?」

 アレックスはちょうどフィルバートの死角になっている場所から近づいてきているのだ。


 ここでファーストダンスを踊ったら、面倒なことになることは必須。


 やっぱりアレックスが好きなのではないかと言われてしまうだろう。


「アレックス殿下が近づいてきています」


 ローザの訴えに、フィルバートが顔を引きしめる。


 それから先のフィルバートの行動は早かった。


 あっという間にダンスの輪に入り兄妹は踊り始める。


 フィルバートの肩越しにちらりとアレックスを見るとどこかのご令嬢にダンスをせがまれているようだった。


 よほどのことがない限り、アレックスが断ることはない。ローザはほっと胸をなでおろす。  


「ほら、見ろ。僕がついてきてよかったではないか」

「何を言っているんですか。殿下を先に見つけたのは私ですよ。お兄様は無警戒で、のんびりとシャンパンばかり飲んでいたではないですか」


 ローザが抗議する。


 するとフィルバートはごまかすように咳ばらいをした。


「それで、僕たちは何曲踊ればいいんだ?」

「殿下が去るまで、永遠に」

 ローザがしれっと言う。

「そんなこと不可能だ。ローザ、こういう時のための殿方は用意していないのか」


「どうして、ダンスは男女ペアでなくてはならないのでしょう?」


「何を言い出すかと思えば。へ理屈をこねている場合ではないだろ?」


 ローザはまったくモテない。


 たまにクロイツァー家の財産目当ての男が下心丸出しで近づいてくるだけだ。 


「まあ、お兄様、足元がふらついていますよ。あんなにシャンパンをお飲みになるから」


「ローザ、あのシャンパンはとんでもなく旨い」

 フィルバートはほんの少し酔っているようだ。

 兄妹で話している間に、二曲目に突入してしまった。


「お兄様、このまま踊り続けるわけにも行きません。どなたかご友人をご紹介ください」

 緊迫した声でローザは言うが、薄情にも兄を首を横に振る。


「それは、まずい。相手が勘違いするだろ。僕が、お前を貰ってくれと圧力をかけているようではないか」

「それって、どういう意味ですか!」


 なんとも失礼なフィルバートの物言いに、ローザが腹を立てている間に三曲目が始まってしまった。


 結局、兄妹は三曲目に突入する。


「おいおい、兄妹で三曲続けて踊るとか何の酔狂だよ」

 かなりの美形なのだが、面の皮の厚いフィルバートも周りの反応が気になるようだ。


「ああ、もう面倒なんで殿下からダンスに誘われたら、断りますけれどそれでいいですか?」

 するとフィルバートが笑い出す。


「相手のメンツは丸つぶれだが、お前の名誉は保たれる。それでいいんじゃないのか? 三曲踊って疲れたとかいえばいい」

 話しているうちに三曲目が終わった。


「ふう、では結論が出たので休みましょうか」

 フィルバートと並んで、会場の隅にある休憩用のテーブルに座る。


「お兄様、私、喉が渇きました。果実水を持ってきてください。それからお兄様はもうアルコールは禁止です」

「やれやれ、世話のかかる妹だ」

 なんだかんだと文句をいいつつもフィルバートはいそいそとローザの世話をして、軽食コーナーへ取りに行く。


 兄の言う通りここで出される軽食は、サンドイッチも焼き菓子もフルーツも果実水もすべてが最高に贅沢でおいしい。

 

 ローザはとりえず食欲を満たすことにした。


「やあ、ローザ、見事なダンスだったね」


 椅子に座って休んでいるところへアレックスがやってきた。


 ローザは、まずは完璧なカーテシーを決めて挨拶を返す。隙を見せてはならない。

「ありがとうございます」

「ところで、もう一曲どうだ。私と踊らないか?」

 気軽に誘ってくる。


「申し訳ございません、今日はもう疲れたので踊りませんの」

 にっこり微笑んで断りと入れると、一瞬アレックスの笑顔が引きつった。

 こんな彼の表情は初めてみた。


(まあ、でも陰でエレンと付き合っているわけだし。そういえば、エレンと付き合っているという噂は一向に流れないわね? 流れるのは私の悪評ばかりで)


「足も痛くて。ほほほ」


 ローザはいちおう相手は王族なのでフォローのつもりで一言付け加えた。


「いや、残念だよ。まさかフィルバートと三曲も踊るとは思わなかった」


「ええ、私もです。話しに夢中になっているうちに気が付いたら、三曲終わっていました」


「兄弟仲が良くて羨ましい」


 アレックスの美しい顔に一瞬陰りがみえる。


(まあ、この人はこの人でかわいそうなのよね。確か漫画では子供の頃に暗殺されかかって、たびたびイーサンの治癒術に助けられていたって描写があったわね)


「うちは皆商売が好きなので、そのことに関してだけ話が合うのです」

 そこへフィルバートが戻って来た。


 アレックスは、フィルバートと和やかな雰囲気の中で、社交辞令的な会話を二つ三つ交わし去っていった。


 今度はアルノー派のほうへと向かう。




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