閑話 クロイツァー家の使用人たち ヘレナ
ローザが固く決意する一方で、クロイツァー家の使用人たちは、彼女の変貌ぶりに恐れおののいていた
「いったい、お嬢様はどうなさったのでしょう? 朝食をお持ちしましたら、『ありがとう』とおっしゃられたんですよ」
新人メイドが目を丸くして、ローザ専属のヘレナに報告にくる。
「私もシーツを交換にいったら、『いつもありがとう』って言われたんです!」
下働きのメイドまでも、驚愕している。
「もしかして、馬に蹴られて性格が変わられたのでは? 私にも挨拶されるんですよ」
従者まで言い出す始末。
「さあ、お嬢様のお考えはわかりませんわ」
ヘレナはなんでもないことのように答えたが、内心では混乱していた。
実はローザの専属メイドはヘレナに落ち着くまでに、何人もかわっているのだ。わがままに耐えきれなくなり、去っていったものも多い。
そして、強靭な精神力を持ち、はっきりものを申すヘレナが、わがままお嬢様の専属メイドの最長記録を更新中だった。
急に親切になったローザを不気味の思う者が多く。頭を打ったせいで情緒不安定になったのではないかと使用人部屋ではささやかれるようになっていた。
そしていつしかそれは祈りに変わる。
「ああ、お嬢様にこのままでいてほしい」