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【書籍化、コミカライズ】王子様などいりません! ~脇役の金持ち悪女に転生していたので、今世では贅沢三昧に過ごします~   作者: 別所 燈


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夜会恒例マウンティング

「まあ、驚きましたわ。おひとりで夜会にいらしたの?」

 ジュリエットは不敵な笑みをうかべ開口一番そう言った。

 兄と入場したのを見ていないわけがないのに。


 ジュリエットのいつもの挑発手段だ。

 ローザが執心しているアレックスにエスコートしてもらえないことをからかっているのだろう。


(たまにはパターンを変えようと思わないのかしらね?)


 以前のローザなら乗ってやるところだが、これからのローザは違う。


「いいえ、兄と来ましたわ。お気づきになりませんでしたの? 今日のドレスはマダムの店で仕立ててもらったものですけれど、少々地味でしたかしら?」

 余裕の笑みを浮かべて答える。


 決して地味な装いではないが、赤が好きなローザにしては珍しく、濃紺を基調としたドレスを着ている。

 だが、そのドレスには銀糸の複雑な刺繍が施され、きらきらと宝石がちりばめられていている。さながら夜空のようなドレスだ。


「まあ、お兄様と? 私はてっきりアレックス殿下といらっしゃるとばかり。だってローザ様は殿下をかばって馬にけられたのでしょう? 傷ものこっているでしょうし、まさかそこまでしてもご婚約できなかったの?」

 ジュリエットがわざとらしく大きく目を見開き、いけしゃあしゃあと言い放つ。


 すっかり忘れていたが、ローザはあの時とっさにアレックスを庇ったのだ。やはり恋心はあったらしい。前世を思い出した今は無残に枯れている。


(それほどまでに殿下を思っても、すでにエレンと良い仲になっているのだものね。そのうえ毒殺されるし、家は没落するしで。誰かに恋をしている場合ではないわ)


 漫画を読んでいるときは脇役の当て馬のことなど考えたことはなかったが、少々ローザが気の毒になる。


 ローザは自分が後ろ盾になり、アレックスを支えるつもりでいたようだ。

 しばし、過去の自分の同情し感傷に浸っていると、ジュリエットが探るように見てくる。


 どうにかローザを挑発して醜態を晒させようとしているのだ。この王宮の社交の場で。


 注目が集まり、まるで加勢するようにローザの取り巻きもいつの間にか集まってきていた。


(あらあら、いい見世物になってしまったわね)


 ローザはパチンと扇子を鳴らし、艶やかに笑む。


 ここで怒って怒鳴り散らせば、いままでのローザだ。だが、今は前世の社畜生活で鍛えあげられた根性と忍耐がある。


 ジュリエットの計略には簡単に乗らない。


「ほほほ、なんて面白いことをおっしゃるのでしょう? もちろん殿下から『責任を取りたいから』とご婚約のお話はございましたわ。しかし、私の方から辞退いたしました。グリフィス閣下に治療していただいたので、傷なんてほとんど残っておりませんから。殿下に責任とっていただくようなこともございませんわ」


 グリフィス閣下のところに力を入れて言うと、ジュリエットが少し怯んだ。


 腕のいい治癒師で、ほぼ王族の専属の彼に傷を見てもらうことは名誉なことなのだ。


「そうはおっしゃいましても、お顔に傷がついたのですよね? それなのに婚約なさらないのは不自然ではないでしょうか? それとも殿下に婚約を申し込まれる夢でもご覧になったのかしら」


 そう言ってジュリエットが顔を引きつらせながらも、小ばかにしたような笑みを浮かべる。

 ローザは格下の貴族にずいぶん馬鹿にされていたようだ。


 まあ、格下とはいってもイプス家も名門で発言権の強い有力貴族ではあるが。


「それはどういった意図でのご発言ですの? 私が体の傷を盾に婚約をせまる卑怯者とでもおっしゃりたいの? もしくはどなたかに責任を取ってもらわなければ、私は結婚もできないといいたいのでしょうか? まさかとは思いますがイプス家のご令嬢が公衆の面前で私を侮辱しているのかしら? 罵倒するつもりでおっしゃっているわけではございませんよね?」

 ローザはにっこりとほほ笑み堂々と胸を張って言い返す。


 ジュリエットは、いつもと違いむきになって怒鳴り散らさないローザに焦りをにじませ、取り巻きたちも及び腰になる。


「いえ、そんなことは言っておりませんわ。それは曲解というものです。 それにローザ様はいつも殿下の後をついておいででは? だからてっきり私はローザ様が殿下をお慕いしているのではないかと……」

 勝負は決まっているようなものなのに、それでも悔し紛れにかみついてくる。


 恋は人愚かにする。さぞかしローザも周りの目には愚かかつ性悪女に映っていたのだろう。


「だから、私が傷を盾にとって婚約したと? まあ、とんでもない誤解ですわ。それとも傷のある私の今の顔は醜いとでも?」


 ローザが微笑みをうかべ、ジュリエットにずいっと一歩近づく。

「いえ、そんな醜いだなんて……」

 ジュリエットの言葉はしりすぼみになる。


「もう一度お尋ねしますわ。クロイツァー侯爵家の娘である私が、どなたかに責任を取ってもらわらなくては結婚もできないと? 答えいかんによっては家門に対する侮辱と受け取らせていただきます。あら、でも待ってよくよく考えてみれば、王族であるアレックス殿下のことも侮辱していらっしゃるのかしら?」


 落ち着いた声で、ぴしりと言い放ち、さらに一歩ジュリエットに近づいた。

 するとジュリエットの取り巻きが顔色を悪くして、さっと蜘蛛の子を散らすように去っていく。ローザの悪役面が役だったようだ。


「いえ、めっそうもございません!」

 周りに注目される中で、孤立し焦ったジュリエットが、いつも違うローザを前にそそくさと去ろうとする。


「ちょっとお待ちなさい! 何かお忘れでは? このような失礼なことを公衆の面前で言っておいて謝罪もなさらないの?」


 いつのように激昂せず威厳をもっていう。ローザにジュリエットに謝罪させるまで引かないつもりだ。

 どちらが上かわからせなければならない。


(お猿さんのマウントみたい。でも、しっかりやっておかないと)


 いつも癇癪を起こしていたから、クロイツァー家の反勢力の富豪の娘であるジュリエットにすっかりなめられていたようだが、今後はそうはいかない。


 ジュリエットは唇を噛み一瞬悔しそうな顔をしたが、貴族の世界を知っているだけあって深く膝を折り謝罪し、逃げるように会場を後にした。どうやら今日はもうお帰りになるようだ。


「まあ、ローザ様、すっきりしました」

「ほんとお見事です」


 取り巻きたちが驚きをにじませ、ローザを称賛しつつもほっと胸をなでおろしている。


 彼女たちは彼女たちで、ローザがいつ癇癪を起し、醜態をさらすかと不安だったのだろう。


 なにせ口の達者のジュリエットにはいつもしてやられていたのだから。

今回は彼女たちの名誉も守れたわけだ。


(権力とそれに付随する義務ね。セレブリティーって、結構背負うものあるわねえ)


 給仕から受け取ったシャンパンを優雅にかたむけながら、ローザはそんなことを改めて思う。

 



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