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お茶会と王子の思惑

 

茶会当日は、ローザに負担がかからないよう、子供の頃から付き合いのある令嬢たちだけを四人自宅に呼んだ。


早速社交界の噂話に花が咲く。


「今度、ラルフ様とお出かけすることになりましたの」

「まあ、ポピー様、よかったですね。おめでとうございます」

 ラルフはポピーがずっと思いを寄せていた貴族青年だ。ローザは素直に祝福した。

「いえ、まだ婚約と言うお話は出ていないのですが」

  ポピーは顔を赤くする。


「そうそう、タイラー子爵家のイライザ様は、ご婚約が決まったと聞いたわ」

  情報通のエラが言う。

 

 そこから先、噂話は尽きることなく次から次へと、ポンポン出てくる。ローザが社交界にいない間の情報はすぐに集まった。

 

 誰と誰が婚約し、友人に恋人ができ、今のところ社交界に取り立てて大きなスキャンダルはなし。


 結局、ローザが確認したかった王子とエレンが付き合っているという噂は、まだないようだ。

 

 そのようなことがあれば真っ先に皆がローザに伝えに来るだろう。何せ彼女たちはローザの取り巻きなのだから。


 しかし、原作ではもうとっくにヒロインのエレンと、ヒーローのアレックスの運命の出会いはすんでおり、ひっそりと付き合い始めているはず。


 ちなみにその出会いは、この手の漫画にありがちなもので、市井に視察に行った折に、ごろつきに絡まれているエレンを王子が助けるというものだ。


 それから、エレンがモロー家に引き取られ、舞踏会で二人は運命的な再開をする。


 前世のローザはそのべたな展開が大好きだった。実は今でも結構好きである。自分がピンチの時に金髪碧眼の超きらきらイケメンが助けに現れたら、これはもう惚れる一択だろう。


 そして、ローザが妄想にふける間にも、仲間内の話題は二か月後にある王宮の夜会にうつり、皆流行りのドレスやエスコートしてくれる殿方の話で、盛り上がっていた。


 ローザはふと、その夜会でアレックスとエレンがバラ園で密会するエピソードを思い出す。


 馬にけられた傷を盾に、ひそかに付き合っている二人を引き離し、婚約者におさまってしまうのが、当て馬ローザの悪役としての役目だ。

 しかし、前世を思い出したローザはアレックスとは婚約などしていない。 

 漫画では、エレンとアレックスの密会がローザの知れるところとなりひと騒動起こるのだ。


 この気の置けない友人たちを招いた茶会がローザの刺激になり、大切な前世の記憶を思い出し、ほっと胸をなでおろす。



 屋敷のバラの咲く庭で開いた茶会で、帰りにバスボムと紅茶をセットにして友人に渡すと、皆物珍し気に眺めていた。


  後日、ローザの元にお礼の手紙が届く。

  バスボムは、なかなか好評だった。


「う~ん、彼女たちは子供のころから、私のこと褒めまくってくれるからなあ」


 問題は取り巻きや使用人、家族にしか試してもらっていないということだった。


(ヘレナは正直者だが、実は身内びいきかもしれないし……。いや、それはないか)


  今世でも風呂好きなローザはどうしてもバスボムを布教したかった。なんなら、この漫画世界に転生した自分の使命のようにすら感じる。


 ◇



「よかった。クロイツァー嬢、だいぶ元気になったようだね」

 そういって、アレックスが淡い笑みを浮かべる。


 彼はローザが茶会を開いた翌日、突然見舞いと称して訪ねてきたのだ。ここはローザの自室ではなく、サロンで、ローザはすっかり回復していた。


「ええ、もう元気になりましたので、わざわざ足をお運びにならなくても結構ですよ」

 ローザはにっこりと微笑み、きっぱり断った。


「僕は君のけがには責任を感じている」

 アレックスは青い瞳を揺らして言う。


 しかし、この時点でアレックスはすでにエレンにひかれていることをローザは知っている。

 前世を思い出していなければ、この言葉にしがみついだだろう。


「責任なんて殿下にはありませんよ。たまたま馬の機嫌が悪かっただけではないですか。誰も悪くありませんよ。私の運が悪かっただけです」

 ローザは微笑みながら言った。


 このころには、表情を変えても傷が痛むこともなく、おしろいを塗れば、ほとんど気にならなくなっていた。

 

 なるほど、噂通りイーサンは腕のよい治癒師だった。あれほど、大きな傷を治してしまうのだから、びっくりだ。


 だがしかし、どうせ嫁に行く当てもないので、ローザにとってはどうでもいい。


 それよりも父から外出許可をもらって早くショッピングがしたかった。もちろん家のお金で。


「そういえば、先日茶会を開いていたのだってね」


 アレックスが突然切り出した話題にローザは目を瞬いた。すっかり、別の考えにとらわれ、彼の存在を失念するところだった。


 それにしてもお茶会は非公式なもので、幼馴染だけを招待したのにずいぶん情報が早い。


「え、どなたから聞いたのですか?」

 アレックスはローザの問いに答えることはなく、ただ微笑んだ。


「僕も招待してほしかったな」

 冗談とも本気ともつかない調子で言う。彼の真意はわかない。


「いつもの友人同士の内輪の集まりですわ」

 さらりとローザは言う。


「そう、モロー嬢は招待してあげたの?」

「え?」

 ローザは驚きに目を見開いた。なぜここでエレンの名前が出てくるのかわからない。


「いや、モロー嬢も君の見舞いに来たのだろう。君の親しい友人なのだろう?」


 エレンとはちっとも親しい間柄ではないので、ローザは戸惑いを覚えた。

 だいたいローザがエレンと親しいなどと、どこの誰が言い出したのだろう。


  そこでローザはイーサンがアレックスに伝えたのかと思った。イーサンが治療に来る前にエレンは見舞いに来ていたのだから。


「いいえ、招待したのは幼いころからお付き合いのあるご令嬢だけです」

 あまたの取り巻きの中でも幼馴染だけだ。


 クロイツァー家が失脚すれば、彼女たちの家門も巻き込まれてしまうかもしれない。結構一大事だ。ローザは彼女たちの育ちもよく、人のよさそうな顔を思い浮かべる。


「そう、それはさぞかしモロー嬢もさみしかっただろうね」

「はい?」

 ローザは首をひねった。エレンになつかれた覚えはないし、彼女が見舞いに来たこと自体が意外だった。


 アレックスは最初からエレンが招待されていないのを知っていたのではないかと思う。


(まさか、それを非難しに来たの? 私がエレンを仲間外れにしているとか思っている? そもそもエレンはどこの派閥にも属していないのに)


「殿下は、モロー様と親しいのですか?」


 アレックスがクロイツァー家の動きを探っているのではと、ちょっとした疑惑が生まれてきた。ローザの勘のようなものだ。


 なにせ漫画のエンディングで、クロイツァー家は没落させられるのだから、今の時点で何らかの仕込みがあってもおかしくない。


(まさか、王家に陥れられるとか? お父様はいつも強気だから、周りに気を付けるように言うべきかしらね)


 ローザは思案した。


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