暇すぎて、前世の思いでの品を作ってみた
エレンが訪れた翌日から、次々と友人という名の取り巻きたちが見舞いに訪れ始めた。
彼女たちは口をそろえてエレンへの不満を口にする。
どうやら、ローザと親しくもないエレンが、いの一番で見舞いに来たのが納得いかないようだ。
ちなみに漫画ではこのような話は描かれてはいなかった。
エレンは社交界デビューしてから殿方にかなりモテているようで、同世代の令嬢に嫉妬されていてる。
が、前世を思い出す前のローザは、自分が一番モテていると信じていたので、この頃エレンのことはまだ眼中になかった。
ヒロインなのだからモテて当然だと、今のローザは嫉妬することなく、冷静に受け止めることができる。
エレンの態度は前世で言えば、あざとい感じで、一部の女性には非常に受けが悪い。
このままでは雰囲気が悪くなってしまうし、エレンへのいじめが始まるかもしれないので、ローザは話題を変えることにした。
「そうだ。私が回復したら、家で親しいお友達だけを集めて茶会をしたいのだけど、皆さん、来てくださらない」
ベッドに座りながらだが、早速提案してみる。
「ええ、それはぜひ」
「楽しみですわ!」
皆喜んでくれた。
ローザはその時までに、前世で慣れ親しんだバスボムを準備しておくつもりだ。果たして、今世の貴族令嬢たちには受けるだろうか。
ローザは、そろそろ食っちゃ寝の病人生活にも飽きてきていた。
休養はもう十分だ。
◇
数日後、すっかり起き上がれるようになったローザは、早速バスボムの試作品を作ることにした。
バスボムを作るべく厨房に向かうと、使用人たちが一様に驚いていた。
「お嬢様。朝食に何かお嫌いなものが?」
前世の記憶を思い出すまでは、自分の嫌いなものを入れられると、いちいち厨房に文句をつけていた。
まるで子供だ。
しかし、今のローザは違う。ついでに食の好みも変わり、すっかり偏食は収まった。
「いいえ、おいしかったわよ。サラダもスープも最高のお味だったわ」
ローザのねぎらいの言葉に使用人たちが、胸をなでおろす。
(私、どんだけわがままだったのよ)
コホンと咳ばらいをするとローザはさっそく切り出した。
「今日はそういうわけではなく、ちょっと作りたいものがあってきたの。あなたたちのお仕事の邪魔にならないように隅の方をお借りするわね。それからこちらも」
厨房においてある重曹やクエン酸、塩、製菓用の型などをてきぱきと取り出す。
重曹もクエン酸も食品のあく抜きや、はたまた汚れを落とすのに便利だから、厨房にすべてそろっているのではと思いやってきたのだ。
使用人たちが唖然として見ているなかで、ヘレナが不思議そうに聞いてくる。
「お嬢様、お掃除でもなさるおつもりですか?」
「お掃除? まさか。違うわよ。今からバスボムを作るの」
「バスボム?」
使用人たちが不思議そうな顔をする。
できたら、彼らにも分けてあげようと思った。ぜひ試してみてほしい。
「そうそう、ヘレナ、庭師から予備の霧吹きを借りてきてくれる?」
まずはバスボムを覚えている手順で作り、その後色付けや香りづけをしてみようと決めた。
二時間ほど夢中になって作業をしていると、ヘレナに声をかけられた。
「お嬢様、あまり根を詰めるとお体に障りますよ。それでなくても傷がよくなったばかりですのに」
「ああ、ちょっとまって、風通しの良いところに置いておかなければならないのよ」
バタバタしながらも、ヘレナに強制的に自室につれていかれ、ベッドに寝かしつけられてしまった。
その後も二週間ほど、ほんの少し厨房を借りて試行錯誤を繰り返しただろうか。色も香りも満足のいくものができた。
完成品を見て厨房の料理人や使用人たちも集まってくる。
「お嬢様、これはなんというお菓子ですか?」
「お菓子ではないの。バスボムと言うものよ」
「バスボムですか?」
ロンという料理人が興味津々にのぞいてくる。
「ええ、バスタブに入れると、面白いことが起こるの」
楽しそうにローザが答えると、皆一様に不思議そうな顔をする。
ローザは何度か自分で使い心地を確かめた後、興味を持った使用人たちにも配った。もちろん風呂に入るのを手伝ってくれるヘレナにも。
最初は皆驚いたようだが、思ったよりも受け入れられているようで、ローザは気を良くした。
だが、彼らはあくまでも使用人で、ローザに気を使ってくれているのかもしない。
それならば、今度は家族で試してみよう。
まず興味を持ってくれたのが、新しいもの好きの父で、次に兄に試させた。二人ともほめてくれた。
母に勧めると最初はしり込みしていたが、今ではお気に入りになっている。
だがしかし、彼らは身内に甘いからローザのすることはなんでも褒める。
最終的には、正直者のヘレナにも好評だったので、ローザは茶会を開いて令嬢たちに配ることにした。
まだ傷に障るのではと父は心配したが、短時間ならと茶会の許可をもらった。
ローザはさっそく友人のためにバスボムづくりを始めた。




