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ヒロインがやってきた1

 ローザの傷がふさがると、ヘレナが体をいたわりながら、湯あみをしてくれていた。

 患部はすっかりふさがり、傷が痛むということもない。


 久しぶりの風呂でいい気持ちだった。

 

 ヘレナがローザお気に入りのバラの香油を垂らしてくれる。


 立ち上る香りのよい湯気の中で、ローザはぼんやりと前世で記憶を思い出す。


(そういえば、私、風呂好きが高じて、バスボムを手作りしていたわね)


 ローザはあのシュワッとした炭酸の清涼感が忘れられない。


 入浴しながら、スマホを密閉された袋に入れ、漫画を読むことが唯一の癒しであった。


 傷が完治したら自分でバスボムを作り、試してみて、よかったら友人たちに配ってみようかと思いついた。


 もしも評判が良かったら試しに売ってみるのもいいかもしれない。


 ふとそんな素晴らしいアイデアが浮かぶ。


 前世ではいつか自分の店を持ってみたいとささやかな夢も抱いていたが、それもブラックな社会人生活に塗りつぶされてしまった。


 幸い今のローザにはそれが可能だ。


 小遣いもびっくりするほどたくさんあるし、家はもともとあった財産に加え、父が投資や商売で稼ぎ、すごい金持ちだ。



 確か漫画の中で第三王子の婚約者になったローザは、高価な宝飾品をねだり王族にも周りの貴族にも反感を買っていた。


 ローザは高価な贈り物を貰えるイコール愛されているという残念な考えの持ち主だったのだ。金イコール愛なんて、ちょっと気の毒な気もする。


 結局、彼女はアレックスに愛されることはなかった。


 それならば、殿方へのおねだりはやめて、自分の家の金を使えばいいではないか。


(考えてみたら、王族より、クロイツァー家の方が金持ちなのではないかしら?)


 そろそろ寝たきりの生活にも飽きてきたし、早く傷を治して街に遊びに行きたいとローザは思う。


 たくさん買い物をして、王都ではやっているスイーツの店を訪れたい。

 

 今までは周りの目を気にしてダイエットをしていたが、今はそんな必要もないのだから。



 ◇


 ローザが自力で起き上がれるようになったころ、見舞い客がやって来た。

「ローザ様、お見舞いのお客様がお見えですよ」

「どなたがいらっしゃったの?」

 ローザには取り巻きがいたので、幾人か心当たりがある。

 彼女はベッドから起き出しショールを羽織る。


「モロー男爵家のエレン様です」

 ヘレナの言葉に、ローザの動きはぴたりと止まった。


(エレンとは親しくないのに、なぜいの一番に見舞いに来るの?)

 意味が分からなくて、そこはかとなく不安を覚える。


 漫画の中でローザは、このころはアレックスとエレンの恋心を知らず、社交の場で顔をあわせれば挨拶し、時に雑談をする仲だった。


 つまり、通り一遍のお付き合いしかなく、見舞いに来てもらうほど親しい間柄でもない。


 ましてや彼女はローザの取り巻きですらなく、身分が低いのでライバルとも思っていなかった。


 それが、いったいどうしてローザを訪ねてきたのか。


「もしかして、殿下のことが気になっているのかしら」

 残念ながら、漫画にはこのようなくだりはなかったような気がする。


 前世のことも詳しく思い出せているわけではないし、ましてや漫画の細部など思い出せるわけがない。


 それにローザは悪役という名のモブなので、おそらく漫画に記載されていない些事なのだろう。


 エレンはローザがけがをしたことにより、アレックスと婚約してしまうのではと不安になったのかもしれない。


 それならば、下心はないとアピールしておいた方がよさそうだ。


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