5話 強襲せし者
「俺の誘いを断り、味方も居ない怠惰に引き込まれるとは。悲しくならないのか?」
「ならんな。私は主に全てを捧げると誓っている」
「何…つまり、まだという事か。なら、俺にもチャンスはあるよなっ!」
「おい、待てよ…主は俺だ。勝手に手出してくるじゃねぇよ。それに、話を勝手に進めるな」
俺はカルラと相手の間に割って入る。
全く、俺の周りの女はすぐ俺を置いていくんだから…
「あぁそういえばお前も居たな、怠惰。お前にはかなり興味がある」
「俺には無いぞ」
「お前に無くてもだ。俺にはある。お前という存在そのものにな」
「…」
なんて重い魔力だ…ここから一歩でも退いたら、負ける。死ぬ気がする。
「はっ…今日はお前達を見に来ただけだ。まだ戦う気は無い。尤も、今のままでは結果は見えているがな。では、俺はもう帰るとしよう。カルラ、俺の元に来たくなったらいつでも来るといい。歓迎するぞ」
そう言うと、奴は自分の魔力が込められた龍の鱗を置いていく。
俺が動けたのは、奴が完全に去ってからだ。
「はぁ、はぁっ!」
「大丈夫か、主!すまない、相手について話しておくべきだった…」
「大丈夫、聞かなかった俺のミスだ…あいつは?」
「…ひとまず、戻ろう。話はそれからだ」
◇◇◇
『情けない、あんな小娘に気圧されるとは…』
うわっ…。久しぶりに話し掛けてきたと思ったらなんだよ…
『吾の身体を奪っておきながら…その程度か、弱いな』
うるさいな…分かってるよ、そんな事。
『力を貸してやってもいいぞ』
なんだよ?急に。
『この戦いが始まった以上、最早鍛錬の時間など無い。が、吾がお前に力を与えれば、お前は今以上に強くなる。まぁ、それを扱えるかどうかはお前次第だがな』
……
『どうする。早く決めろ』
…分かった。力を貸してくれ。でも、今俺が使える分の力が欲しい。
『それは別に構わん』
◇◇◇
「主、大丈夫か?急に倒れたと思ったら眠っているから…驚いたぞ」
「あぁ…大丈夫だ。心配かけて悪かった」
「うん…?主、魔力が先程と違くないか?」
「あ〜…実は、アルバトロスに力を貸してもらったんだ」
「成る程。肉体に本来の力が戻ったという事か」
「そうなのかも…?とにかく、次にあいつが来るまでにこの力を使いこなせるようにならないと」
「では、私が訓練相手になろう」
「よろしく頼む」
その後、街に帰った俺達は、早速訓練を始める事にした。
あのゼノという奴がいつ来るかも分からないし、他の七龍のやつもやって来るかもしれないからだ。
「はっ!」
俺の蹴りを掌底で払うカルラ。だが…
「強いな」
「うん?何が?」
「今の蹴りだけでなく、攻撃の全てに魔力が籠もっている。これは自分で?」
「いや、無意識だな。俺はそんな事してるつもり無かったし」
「そうか…それを意識的に行えるようになると、更に良くなると思う」
「あとさ、こんなのどうだ?魔力を拳に集中させて、叩き込む!」
俺は近くの木に向かってそれを実演してみせる。
殴った場所に穴が空いてしまうが、その直後にその箇所から幾重ものヒビが入り、木を粉砕させる。
「おぉ…魔力を帯びた攻撃より先に、魔力を使った攻撃が出来るとは…」
「違うのか?」
「かなり。主が無意識にやっていた攻撃方法は、帯魔力という技術だ。これは攻撃特化の身体強化に近い。そして今行ったのは、魔力撃に分類される。自身の魔力を流し込む事で、内部破壊を起こす方法だ」
へぇ…そんなのもあるのか。全然知らなかったな。
「しかし、見張るべきはその膂力の強さだ。私と戦った時もかなりのものだったというのに、今は更に強化されている。主は魔力抜きの近接戦なら、龍の民でも最上位に値するだろう」
「そっか。よし、続きだ!」
俺は再度構える。カルラも応えるように体勢を整える。
「あぁ。何度でも相手になろう!」
「早速行くぜ、帯魔力ってのをさ!」
「来い、主!-龍爪-」
お互いの魔力が激しくぶつかろうとした、その瞬間ー。
「こらー!いつまでやってるの!」
「うおっと…ヘレン…」
「ヘレン…」
俺達を止めたのは、他ならぬヘレンだった。
いつの間にか、日が落ちてきている。
「ごめん、日が落ちる前に戻るって言ったのに…」
「すまない、ヘレン。私のミスだ。主との戦いに熱中してしまった」
「それは良いんですけどね〜?ジェイドは大分強くなったし?そうじゃなくて、私ともやってよ!」
「そうだよな、悪かった、ヘレー」
「カルラ!」
「「え!?」」
「俺じゃなくて…」
「…私?えっと、それは構わないが、ヘレンは戦えないんじゃ…?」
「ふふーん。違うよ?命を取るのは確かにあんまり出来ないけど、組み手なら少しは自信あるんだー!」
「ほ、ほんとかよ…」
「ジェイド、ちょっとごめんね?」
「へ?」
気が付くと俺は、天地が逆になっていた。
「どう?これでもまだ言える?」
「はは…これ程とは知らなかったよ。ごめんな」
「良いよ。私も黙ってたし。だから、カルラ。私とも、少しでいいから、戦ってくれる?」
「えぇ、やりましょう。これに向き合わないのは、失礼ですから」
俺の鍛錬の筈が、二人の戦いになったな…。やっぱり、俺は置いていかれるのね。ま、もう慣れたけどさ。
他も更新したいな…と思いつつ、これが書きやすいので、書いてます。まず、日曜更新します!
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