3話 龍の民統一戦 開幕
ヘレンの久しぶりの依頼を行った翌日。その後俺達はグレントを生活拠点とすることにした。
そんな中、それは唐突に訪れた。口元を布で隠し、額に角を生やした女性が目の前に現れたのだ。
何やら俺に敵意を向けている。
「貴様が、怠惰の血族だな?」
「…は?」
「とぼけても無駄だ。我らと同じ特徴が出ているではないか。アルバトロスの血族の生き残りだろう」
「違うんだけど、合ってなくもない…みたいな…?」
「何をごたごた言ってる!話は終わりだ、覚悟!」
「嘘だろ…急すぎるって!」
俺はひとまず脚に身体強化をかけ、距離を取る。ここは街中だ。ここで戦うと後で街を追い出されかねない。
今は走る!
「貴様、逃げるのか!」
「違うとこで相手してやるよ!」
「ふ、そうこなくてはな!」
俺は街からある程度離れた、森に入り込む。
ここなら簡単には見つからないだろう。そう思っていたのだが。
「ふ、馬鹿め。わざわざ私の得意な場所に招待してくれるとは!」
嘘だろ?この女の言う事が本当なら、俺はピンチになるためにここに来た事になってしまう。
それは不味い。
「お前が得意だからって俺が不得手な理由にはならないだろ!?」
「それは確かにそうだ。だが、お前は私の攻撃をどうにか出来るのかな?」
そう言うと彼女は飛び上がり、翼を開く。
木と木の間を飛び回り、俺をかく乱してくる。
「風と共に舞え!-風花雪月-」
凍るように冷たい風が俺の身体に傷を付けていく。
心なしか、辺りも寒く感じてきた。いや、勘違いじゃない。俺の周辺が凍り付いている。
「嘘だろ…!?」
「どうした、この程度か、怠惰の血族!」
「仕方ない、今はやらないと…-表体温上昇-」
俺は身体の表面の体温を上げる。さっきよりはましだけど、やはり万全とはいかないな…。早めに終わらせないと!
「-魔力爆発-!」
俺は魔力の球を放出させ、辺りの木々を破壊し、煙で身を隠す。
「馬鹿め、魔力反応で分かるぞ!」
彼女は俺の魔力がある場所へ強行する。
「怠惰、討ち取ったり!っ、なっ…」
そこには俺は居ない。それは俺が魔力で形成した囮だ。
本物の俺はー。
「後ろだ!龍の息!」
「ぐわぁぁぁっ!!まさか…私が負けるとは…」
かなりのスピードで岩に叩き付けられた彼女は気を失う。
◇◇◇
「う、うん…私は…」
「よう、起きたか。どうだ、身体の調子は?」
私は手を動かしてみる。体力や魔力の消耗はしているが、命に関わるような怪我などはしていない。
「負けたな、これは…」
「何がだ?」
「いや、いい。それより、私は暴食の血族の長、カルラだ。貴殿の名は?」
「俺はジェイドだ…一応、怠惰の血族らしい」
「そうか…ジェイド殿、これから宜しくお願いします、我が主」
「へ?」
ジェイド殿はポカンとした表情を浮かべる。私は何か可笑しな事を言っただろうか。
「この戦いに於いて、戦った者の命を奪わない。それはその一族を自分の庇護下に加えるという意味である事を知らないのですか?」
「いや、あの…俺、そもそも何も知らないんだよね…」
どういう事だ。そういえば先ほども有耶無耶な反応を見せていた。何か理由があるのだろうか。
「実はさ…」
「なんと。そう言う事でしたか」
まさか主が肉体的には怠惰そのものだったとは。通りで急に反応が出た筈だ。
「でさ…その主って何?俺リーダーやればいいって事?」
「あぁ、簡単な事です。私を娶るので、主と呼ぶのは当然の事では」
「はい??」
何言ってるんだ。この人は。
少し前まで女っ気なんか欠片も無かった人間に二人も養える訳無いだろ!?
「ですが…血族代表同士の戦いかつ、命を取らないという事はそう云う事を意味します」
うわ〜…まじか。ヘレンがなんて言うかな…
「じゃあさ、同性同士の戦いだったらどうなんの?」
「はい、負けた側の長が死ぬか、血縁者を差し出しますね」
「で、俺らは異性だし、俺が君を殺さなかったから、そうなると…」
「はい」
「…とりあえずさ、街、戻る?」
「はい、主の思いのままに」
頼む…街に着かないでくれ……
◇◇◇
「はい?」
ですよね…そりゃそうなるよね…
だって買い物行ったら自称嫁が付いてくるとか、誰も思わないよね…
「正妻殿、貴女の憤りは尤もです。しかし、これは龍の民の掟なのです。しかし、どうしても受け入れ難いというのであれば、自害致しますが…」
「わ〜っ、待った待った!分かった、分かったから!いや、本当は分かりたくないんだけど、とりあえず一旦、一旦受け入れるから待って!」
「ありがとうございます。それではー」
「…その正妻って呼ぶのやめて。まだ、そう云うのじゃないし。それに、丁寧語じゃなくて良いよ」
「…ありがとう。懐が深いな、えーと…」
「私はヘレン。よろしくね、あなたは?」
「私はカルラと言う。これから宜しく」
「あ、俺にも普通に喋って良いぞ」
二人の会話に入り込む俺。このままだと、空気になりそうだった。危ない、危ない。
「ですが…そう云う訳には…」
「俺は主従関係とか好きじゃないからさ。それだと、命令しちゃう事になるんだよ。だから、な?」
「……分かった。主の言う事に従おう」
「いや、だからその主ってのを…」
「悪いが、これは譲れない。暴食が怠惰の傘下に入った証明でもあるのだから」
「うん…分かったよ…それ以外は普通に喋ってくれよ…?」
「分かったぞ、主」
黒髪ショートヘアの龍人彼女は硬い返事をするのだった。
前回は2ヶ月空いたのに、今回は大分早めに更新しました。
Lost Fantasia以外は話数は多くならない予定です。今作も宜しくお願いします!
必要か分かりませんが、七龍の設定をここに載せておきます。
怠惰:アルバトロス
暴食:セヴァロス
嫉妬:ディアドロス
憤怒:ミラグロス
傲慢:イカロス
色欲:ネルギュロス
強欲:リヴェロス
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