2話 それはあまりに唐突で
『魔力を使え…』
いきなりなんだよ!?この忙しい時に!
『魔力を使えと言っているのだ…』
話があるなら後にしてくれ!今ピンチなんだからっ!
◇◇◇
今から3日前。王国の西側へ向かっていた時のこと。
馬車の中でうたた寝していると突然、龍から話しかけられた。
「…え?なんだって?」
『お前は、これから龍の民に狙われる、と言ったのだ』
「は〜?いきなりなんでそんな事になるんだよ?」
『お前が、私という存在と同化したからだ。お前は何故、吾が彼処で眠っていたか知るまい?』
「…確かに知らないけどさ」
『吾は、来る戦いに備えて力を蓄えていたのだ』
「?…それがなんだよ?」
『分からん奴だな。吾は貴様に肉体の主導権を奪われている。おそらく貴様を吾の血族と勘違いして、その身を狙ってくる者が現れるだろう』
「はぁ?なんでだよ!従者とか、なんか居るだろ!?」
「吾にそういったのは居らぬ。面倒だったからな」
「…なんで?」
勘違いで命を狙われるんじゃたまったもんじゃない。
まぁ、確かにこの体はこいつのだから、分からない訳でもないけど…
『吾は七龍の一体、-怠惰-怠惰のアルバトロス』
「お前…真龍だったのか」
古代竜と真龍は違う。古代竜は言わばただの長生きな竜の事だけど、真龍は龍の祖だ。
「まさかそんな事が…」
『吾も驚いた。まさか力を蓄える筈が肉体を奪われるとは』
「その、さっきから言ってる戦いってのは?」
『簡単な事だ。吾等七龍が再び集い、新たな龍族になる時がやって来たのだ』
「なら、龍同士の戦い合いか?」
『違う。そこで先刻のお前が狙われる理由になる。ガイアスは吾等に血を与えた眷族、血族を作るよう命じた。だが、吾にそれは居らぬ。即ち、吾の肉体を乗っ取った貴様が吾の唯一の血族としてその身を狙われるのだ』
………。
ヤバいじゃん!な、なんでだよっ!?
折角なんか生きてたと思ったら、何で俺、龍同士の争いに巻き込まれるのっっ!!??
『知るか。ならば、吾の養分となれば良かったのだ』
ちくしょおぉ………はぁ、もう、今は良いや。
「ジェイド!そろそろ見えてきたよ!」
そろそろ街だし。それ、後で考えるわ。
ガイアスって…そういえば、三神を創った創世神と同じ名前だな…偶然か。
「あれ、ジェイドまた寝てる…。全くもう…」
「あ、あぁ…おぉ、そう云う事か。凄いぞヘレン、この国は!」
「はは、まだ違うよー」
「いや、そうかもしれないけどよ…検問の時点でこれか!」
俺達は検問を行っている二人の門番を見ていた。
二人のうち一人は人間だが、もう一人は人間の身体つきに狼の頭をしている。人狼族というやつだろう。
ここなら俺も…!
「ようこそグレントへ。では、二人分、銅貨4枚を支払いください。…はい、受け取りました。どうぞ」
俺達は門をくぐる。すると、そこにはさっき以上の驚きがあった。
「綺麗な街並みだね。しっかり整備もされてるし!」
「あぁ…流石この国で一番評価されてる場所だな」
ここ、グレントは首都と同等に国外から高い評価を受けている街だ。
諸国同盟や他の小国と会談を行う時にここが使われる事もある程である。
「ね、早くギルドに行こう!私も久しぶりに依頼受けたいし!」
ギルド職員は基本、非冒険者の人間がなるが、偶に元冒険者も職員になる事がある。
怪我や事情など、理由は様々だが実力はあるも続けられなくなった者が職員としてギルドに携わるのだ。
そして、この世界ではギルド職員もある程度戦える力がなくては、なる事が出来ない。
冒険者という、実力が重視される職業の為、ギルド内での争いや、職員に手を出そうとする奴も居る。
それを制圧、または防衛の手段として、ある程度実力を求められるのだ。
ヘレンも元冒険者から転職したタイプらしい。理由を聞いてみると…
『私ね、殺せなかったの。魔物すら。…駄目だよね。魔物すら殺せない人が冒険者やったらさ…』
俺はその時何も言えなかった。そんな思いを抱いた事が無かったからだ。
俺はまだ人を殺した事は無いが、魔物なら普通に狩ってきた。
それさえ、ヘレンは出来なかったと言うのだ。
『でも、大分前の事だしね…ジェイドと一緒に居るなら、それぐらい乗り越えなきゃ!』
笑ってそう言うヘレンだったが、その表情にはどこか陰りがあった。
やはり、そこに立ち向かう恐怖があるのだろう…
「…無理するなよ?なんかあっても俺が守るからさ―」
「それが出来ない時があったらどうするの?自分の身は自分で守れるって証明したいの!」
「そっか…でも、この依頼で危険なとこがあったら助けに入るからな?」
「じゃあその時はお願いね!」
ギルドに行き、依頼を探す。
ヘレンが選んだのは角兎の依頼だった。
復帰初めての依頼にしてはレベルが高くないか…?
大丈夫か?まぁ、俺が居るし良いか…
翌日、依頼の為に草原へ向かう。はじめは薬草なども積んでいたが、いつの間にか角兎と対峙しているヘレン。
とどめを刺せないヘレンと、決定打に欠ける角兎では、勝負が付かないのは仕方ないことだった。
「代わるか?別に無理して今やらなくても―」
「駄目!ずっと先延ばしにするくらいなら…今やった方が良い!」
「…分かった。なら、待つ」
そして、角を折り、最後の段階までやって来た所で、彼女の手が止まる。
「…一緒にやろう。な?」
「…うん、お願いできる?…ごめんね」
「謝る事無いさ」
そうして、二人で魔物を切った。
こんなに刃が重かったのは久しぶりかもしれない…
まさかの続きです。あまり多くならない予定です。
不定期に更新するのでご理解のほど、よろしくお願いします。
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