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1話 全ての始まり

あー…俺はジェイド。しがないDランク冒険者だ。


いや、元Dランク冒険者って言った方が今は正しいかな…


何しろ、俺は今…



『人間、さっさと吾の身体から消えろ』



うるさいな!今は考え事してるんだから静かにしてくれ!


俺は今、龍と一体化している。はぁ…何でこんなことになったんだっけ…?



◇◇◇



始まりは一週間程前のことだった。



『何?この依頼が受けられない?何でだよ!』


『ですから、只今その地域には未確認の魔物が居ると報告されているので、騎士団の調査が終わるまで一帯を封鎖しているんです』


『俺は!こいつが受けられないと、困るの!』


『まぁまぁジェイドさん。そう怒らないでください』



俺が受付嬢と押し問答をしていると、別のギルド職員が来た。



『ヘレン…分かるだろ、時間無いんだって…』



こいつとは昔馴染みだ。と言っても、再会したのは俺がここのギルドを使うようになってからだった。



『そう言われても、受けられないものはどうしようもありません。これなんていかがです?』


『…一応見せてくれ。-鉱脈での作業中の入口見張番求む-…こんなつまらないのやってられるか!お、れ、は!この依頼を、今!したいの!』


『そうは言っても…ジェイドさん、ずっとDランクのままじゃないですか。あんまり魔物や魔獣の討伐は斡旋出来ないんですよねぇ…』



そうなんだ。俺はここ数年ランクが上がっていない。

最近街に来たやつにも抜かされる始末。

魔法に全く適性が無いっていうのも少なからずあるだろう。


だが、最近やっと後少しのところまで来ていた。

Cランクに上がるには検定合格か、半年以内に一定レベルの魔物を一人で4回狩ってこないといけない。

数年燻っていたのはそれに失敗していたからだが、今年はいける。後一度成功すれば俺もCランクに上がれる。


そう思って、その依頼を行おうとしたら、さっきのあれだ。

今期はもう一ヶ月も無い。これが受けられないとなると、また半年だ。



この時の俺は焦っていたんだろう。やっと訪れたランクアップのチャンス。

もっとしっかり事を考えるべきだったんだ。

そうしたら、あんなことにはならなかったのに。



◇◇◇



『わりぃ、ヘレン…俺はこのチャンスを逃したくねぇんだ…』



俺は、封鎖されている地域にある山に入り込んだ。



『何だよ、別に何も変わらないじゃんか…お、いたいた。課題の魔物、黒蠍(ブラックスコーピオン)の尻尾切り落として、腕持ってけば俺もCランク〜。遂にこの時が来たか…うん?何だ』



その時だった。地鳴りのような音が響いたのは。



-グォォォォオオオオッッ!-


『は?何だよ、あれ…もしかして古代竜(エンシェントドラゴン)!?それにしても何だあの姿は!?』



古代竜は太く短めの足に、身体を覆う鱗を持った太い胴体、まさしく大蜥蜴(おおとかげ)みたいなやつだ。

でもあいつは見た目がおかしい!


古代竜はあんな真っ黒じゃないし、目が赤く光ったりしない!それに煙なんか吐かない!



その真っ黒な古代竜は蠍を踏み潰し、辺りに炎を撒き散らす。

俺はすぐその場から走り出した。

蠍なんか知ったことか。ランクアップより命の方が大事なんだよ!



この時、こいつからは助かったんだ。

この変な古代竜からはなんとか逃げることが出来たんだ。

でも、俺の運はそこまでだったらしい。


俺が逃げた先の洞窟には龍が横たわって眠っていたんだ。

意味が分からない。


何でこんなところに居るんだよ!?


龍は言っちまえばでかい蛇だ。

竜はでかいトカゲ、龍はでかいヘビと覚えると分かりやすいぞ。



閑話休題。それは一先ず置いておいて。



『ここに人間とは珍しい…丁度いい。また眠りにつく前の軽い腹ごしらえにでもなってくれ…』



頭にそう響いた。旧い時代の龍は人間とコミュニケーションが取れていたらしい。恐らくはこの念話がそうなんだろう。

食われる直前、何故か俺はそんなことを考えていた。


あー…食われる。


何か変に気分が落ち着いてた。絶対に死ぬって分かるとこんな感じなのかな。

その時、変な声が聞こえた。



-発動条件を満たしました。寄生(パラサイト)発動-



何言ってんだ、俺…



◇◇◇



うん…あれ?生きてる…?


確かに俺、食われたと思ったのに…


いや、今はそんなことよりこの場から逃げよう。

まだ近くに居るかもしれない。



足、動かさなきゃ…

どれ動かすんだっけ…え?


何考えてんだ、俺?

足なんていつも通り動かすだけだろ?

考える必要すらないじゃないか。


そう考えた俺はこの違和感には気付かないように、とりあえず右側の足を上げて歩こうとしてみる。



ズン…



いや、違うだろう。

たまたま俺が足を上げたタイミングで、さっきの古代竜か何かが動いたりしたに違いない。

やけに身体の割に腕が下にある気がするが、手しか動かないだけだろう。


因みに怖いから腕は見てない。



足より下に身体が長く続いてる気がするが、多分寝そべっているから違和感を感じてるだけだ。


因みに、これもまた怖いから身体全体を見たりなんかはしてない。



怪我してるかもしれないからな。

ほら、前方に血の跡があるし。

そうだ。そうに決まってる。



頼む…夢であってくれ…!

じゃないと俺は…恐ろしい結論にたどり着いてしまう。



今、俺の身体は龍になってるってことを!!!



◇◇◇



そんなことがあったのが多分数日前。

その後、どうすべきか悩んでたら、突然、身体の中から龍に話しかけられた。



『おい、人間…何故吾の中に居る…』


どういうことが起きたのって聞いた方が良いのかな?


『貴様は吾が食らった筈だ。なのに何故精神が残っている…』


あぁ、やっぱ俺食われてんだ。じゃあ俺死んでるな。これ。


『何を納得している!さっさと吾の身体から消えろ!』


いや、無理だって。どうやってこうなったかも分からないのに。


『くっ…お前が生きているのは寄生という能力のせいだ。自身が選んだ相手に任意で身体を奪うことが出来る悪魔のような能力…それによって吾の身体にお前の精神が残ってしまったのだ』


俺、別に選んだ訳じゃないのになんでできたの?


『知るか。命の危機でも察したのではないか…全く、とんでもない外れを食ったものだ』


ていうか、龍はさ、人になれる能力持ってない?

俺、行方不明扱いされてると思うんだよね。


『何故、吾がお前に力を貸さねばいかんのだ。断る』


でも、身体の主導権を握ってるの俺だよね?


『……擬人化というスキルがある。お前にも使えるようにしてやる。後は勝手にしろ。吾は寝る』


助かる!よし、やってみるか…


-擬人化-


おぉ、手と足がある!

出来たぞ!ありがとよ…ってそっか、寝てるのか。


よし、じゃあ早速戻るとするか。




◇◇◇



「ええと…どちら様でしょう?」


「いや、だから、ジェイドだって!」


「どのジェイド様でしょうか?」


「Cランク昇格を狙ってる、ここ数年Dランクのジェイド!」


「そちらのジェイド様は半年前に行方不明となっておりますが…」



え?どういうこと?意味が分からない。半年経ってるだって?



「ですので、不明者をこれ以上名乗るようなら衛兵を呼ばせていただきますが…」


「う…分かったよ!出てけば良いんだろ!出てくよ!」



こうしてギルドを出てしまった俺だが、どうすればいいのだろうか。

俺は今、身分も戸籍も失い、何もかもなくなってしまった。



「おい」



この街を出て、冒険者をやり直すか…?

でもなぁ、せっかくヘレンと再会したのに…



「おい、お前!」


「ん?俺か?」


「お前以外誰が居るんだよ!」



はぁ?急にこいつ、何言ってるんだ。

言いがかりにも程があるだろ。



「魔族が人の街歩いてるんじゃねぇよ!尻尾なんかつけやがって!」



え?あぁ、ほんとだ。この身体使うの初めてだからな…

気付かなかった。

それより…



「お前、今何て言った?」


「はぁ?」


「別に好き嫌いは自由だろうさ…だけどな、人の容姿にとやかく言うんじゃねぇ!」



このいきなり絡んできた奴をギロリと睨んでしまう。



「うっ…あ、あぁ…す、すまねぇ。お、俺が悪かった。だから、それをやめてくれ!」


「は?」


「う…うあああぁぁ!」



はぁ?何で急に逃げ出すんだよ。絡んできたのそっちだろ。



「おい、お前。魔力を抑えろ」


「え?」



急に誰だ?知らないな…こんな人。いや、もしかして、こいつって…



「魔力を抑えろと言っているのが分からないのか…?周囲にだだ漏れだぞ、お前」



え…?本当だ…気付かなかった…



「すまねぇ…慣れてないもんで…」


「自分の身体にか…?まぁ、いいさ。気を付けろよ」



そう言ってその人は向こうへ去っていく。話を聞きたかったけど…ま、いいか。


これからどうしようか…取り敢えず、ヘレンに会いに行ってみよう。

その後は違う街で新しく冒険者登録するしか無いな。

犯罪歴も無いし、多分大丈夫だろう。



◇◇◇



ふー…半年も行方不明だった幼馴染が姿変えて帰ってきたらどう思うかな…。俺ならまず信じられない。


もういくら考えても仕方ない。俺はドアを叩く。


返事が無い。もう一度叩いてみる。

だが、それもやはり返事は無かった。家に居ないのだろうか。

俺がそこを立ち去ろうとすると―。



「…ジェイド?」


「…人違いです。失礼しま―」


「待って!ジェイドだよね!?見た目違うけど、ジェイドだね?」


「…違います」


「なら、何でここに居るの?」


「偶然です。人探しにここに来ただけです」


「嘘だ!嘘付いてる時に左向いてポケットに手を入れる癖同じだよ!ジェイドでしょ!?」



…こいつ、何で分かるんだよ?今の姿に前の俺の面影無いぞ?



「…なんで、分かった?」


「……うぅ、ジェイドぉぉ!良かった!生きてて良かったぁ!」



その後、俺は泣きじゃくるヘレンを慰め、こうなった経緯を説明した。

俺が龍と同化したことに理解が追い付いてないようだったが、この身体が何よりの証拠だ。なんとか信じてもらえたようだ。



「…で?なんで今更戻ってこれたの?」


「食われて半年経って俺の意識が戻ったらしいんだ。だから戻って来た」


「…そっか。まぁ、無事なら何よりだよ。ギルドには行ったの?」


「…行ったが、俺を語る別人扱いだったよ。だから、ヘレンに会えなかったら街を出るつもりだった」


「…付いてく」


「は?駄目だろ、お前には仕事が―」


「そんなのいい!別に私も冒険者出来るし!」



昔っからこうだ…こうなると意地でも動かない。もう、俺が折れるしかなくなる。早々に折れた方が良いだろう。



「…分かった。でも、急にはやめられないだろ。説明してこい」


「ジェイドは?」


「俺は別人になってるんだぞ?俺が付いていったら絶対に面倒くさい事になる。行かないからな」


「…かもね。分かった。明日行ってくるよ」


「じゃあ俺は帰る。明日な」


「え?何処に帰るの?」



何言ってるんだ。そりゃぁいつもの宿に…そういうことか。



「世間じゃジェイドは死人だよ?更に言えば宿なんて引き払われてるよ」


「しまったどうするか…金なんてないし」


「うち泊まりなよ」


「…いや、女の家に泊まるってのは…」


「何、なんかするの?」


「しねぇよ!」


「じゃあ良いじゃん。ほら、来なって」


「…すまねぇ」



翌日、ギルドに一身上の都合で辞める事になったと説明に行ったヘレン。

どうやら冒険者達だけでなく、職員からも人気があったようでギルドは死んだような空気だったらしい。



「…さて、新しい街で冒険者登録しなくちゃな。付いて来てくれるんだろ?」


「拒否られても付いてくからね。今度こそ!」


「…?ま、いいや。ほら、行こうぜ」



俺は右手を差し出す。それを迷いなく取ってくれるヘレン。

大切な人が出来た。今度は地道に生きて行こうと思う。



『…吾の身体で番いか?』



黙ってろ!邪魔してくるな、こういう時に!



ま、何ていうか…ここから俺の話が始まったってことなのかな。


今はこの身体の持ち主の龍も基本的に眠ってくれてるし、なんとかやっていけるだろう。

これから俺達は、今居るイバンツィオを離れ、帝国の近い西へ向かう。そっちは他種族にも寛容的らしい。


じゃあ、また何かあったら教えるよ。またな。

どうも、眞弥。です。

前に思い付きで書きかけてたのを取り敢えずまとめました。

連載にはしてますが、「九十九邑我」以上に不定期な気がします。

因みに書いておくとジェイドに声をかけたのは九十九です。(ここに書いてた世界線が〜とかいうのは無かった事にしてください。整合性取れました)


更には短編も分岐するんですが、それはまた今度に。


眞弥。

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