陛下は頭痛がするそうです。 〜甘いものを差し入れて、癒やしてさしあげますわ!〜
────カツカツカツカツ。
一定の速度で、早くもなく遅くもなく、前を向いて歩きます。
廊下にヒールの音を微かに響かせて、軽やかに。
目的地の前に到着。
スカートの裾をつまみ、右足を膝の高さまで上げ、足の裏全体で蹴るっ!
陛下の執務室の扉を。
────バァァァン、ギィギィギィキィィィィ。
「……何か用か?」
「蝶番の滑りが悪いですわ」
「…………何か、用か?」
あら、陛下の額に青筋が見えますわ。
また何かしらの問題のせいで頭痛がするのでしょうか?
「まぁ……頭は痛いな」
「あら、ちょうど良かったわ! 蜂蜜ティーとクッキーを持ってきましたのよ」
婚約者である陛下を悩ませるものとは何でしょうか?
きっと国のためにいろいろと考えて考えて、考えすぎているのでしょうね。
休憩の間だけでも忘れさせてあげたいと思い、毎日こうやって甘いものを差し入れしています。
「……甘い。塩っぱいものはないのか?」
「甘味は疲れがとれますので、甘味しかございませんわ!」
「だよな。期待するな、俺……」
陛下が何かをボソリと呟かれましたが、聞き逃してしまいました。
「何かおっしゃいまして?」
「気にするな。…………いつもありがとう」
陛下はツンデレです!
時々、こうやってお礼を言って下さるのです。
少し困ったような眉で、仕方なさそうに笑いながら。
何故にその表情なのかは全く理解できませんが、少し幼く感じるのでとても好きな表情です。
頬が熱くて両手で押さえていましたら、陛下がクスリと笑いながら執務に戻ると言われました。
仕方ありません、そろそろ退散の時間ですね。
「では、失礼致しますわ」
カーテシーで挨拶をして、陛下に背を向けました。
スカートの裾をつまみ、右足を膝の高さまで上げ、足の裏全体で扉を蹴──。
「──なぁ」
「はい?」
今! という瞬間に陛下に声をかけられてしまい、ちょっと肩透かしです。
「ずっとな、気になっていたんだが、何故扉を蹴破る」
何故と言われましても。
「扉って、蹴破ると気持ちよくありません?」
「……だよな」
「あ、蝶番に油を差しておいてくださいませね? 余韻の音が濁ってて気持ちよさが半減ですので」
「…………期待するな、俺」
── おわり ──
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