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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

好奇心

久しぶりの投稿となりました。

皆様の暇つぶし程度になれば幸いです。

 ぼくの友人にUという奴がいる。学生時代からの付き合いで、社会人になった今でもご飯を食べに行ったり、遊びに行ったりするかれこれ10年くらいの付き合いになる。こいつもぼくも怪談やホラー映画、心霊現象にゲームといった所謂ホラーコンテンツが好きで、遊びに行くとよく語り合ったりする。しかし口癖のようにUは、


「俺、ホラーな話は好きだけど、心霊スポットだけは苦手なんだよ」


 と良く言う。別に行ったこともないのに。ちょっと見に行こうという誘いも何度も断られている。

 Uと飲みに行った時の話だ。ビールを飲みながらUはこんな話をしてくれた。

 Uの通う小学校の通学路に古い一軒家があったそうだ。誰も住んでおらず、無人の一軒家だった。当時のUや友達はそこを幽霊屋敷と呼んでいたという。大人になった今でも思い出すと不気味な家だった、とUは言った。


「日頃は気にしないんだけど、ふと気づくとさ、何かこう…嫌な感じがするんだよ」


 通学路の道路を挟んで向こう側にその家はあったという。年頃の小学生なら怖いもの見たさで気になるそんな家だったそうだ。Uはその家に入ったことはないが、中を見てしまったことがあるという。


「その日は1人で帰っててさ。ふとその家の方を見たんだ。そうしたらその家のドアが開いてたんだよ。道路に面したドアだったから道路を挟んで正面を通った時に中が見えちゃってさ」


「それで? 何かヤバい物でも見たのか?」


「ヤバいっていうか、変だったんだよ。中は洗面台っぽい物が見えて、トイレか風呂場だったのか水場っぽかったんだよ。タイル張りでさ。床も色々散らかってていかにも無人の一軒家って感じ」


 覚えてるのはそれだけかな、とUは付け加えた。

 そんな家にUの弟くんは入ったことがあるという。Uには歳の近い弟と妹がいる。兄妹の仲は良く、小学生の頃は和室に3人で寝ていたそうだ(和室に2段ベッドを置き、弟が上、Uが下、妹は畳に布団を敷いて眠っていたそうだ)。これはその弟くんが体験した話である。

 弟くんはその日、友人2人と下校していた。他愛のない会話をしながらその家の前を通るとその日もUが言っていたドアは開いていたそうだ。


「なあ、入ってみようよ」


 誰かが言った。元々気になっていたこともあり、3人とも、中に入ったそうだ。入るとそこにはUが見た通りの光景が広がっていたという。鏡の割れた洗面台、物が散らかったタイルの床、トイレか風呂場だったのか、砕けた陶器製の破片物など、いかにも廃墟といった感じだったそうだ。入ってすぐにどうしてこんなタイル張りの水場のような部屋が、と思ったが、その疑問はすぐに違う感情に塗り潰される。

 見られているような嫌な感じ。ここには自分と友達2人の3人しかいない。2人はどんどん先に進んでこちらを気にする様子もない。振り返ってみても誰もいない。気味の悪さと頭をもたげた恐怖に弟くんは家を飛び出した。その瞬間、


 ゴォ!


 目の前を軽トラが彼の前を通過した。一歩間違えば大事故になるところだ。怖くなった弟くんは道路を横断し、いつもの通学路で友達を待つことにした。戻ってきた2人から「ビビって逃げた」「怖がり」と揶揄われることになったが、そんなことはどうでも良かった。あの時感じた気味の悪さに比べればそんなことは気にならなかった。




◆◆◆◆◆




 その日の夜のことだ。下校時のことを兄妹に話すことなく、弟くんは就寝した。さっさと忘れよう、そう思って布団に潜った。


 ガタン!


 大きな音で弟くんは飛び起きた。豆電球の橙の光が支配する寝室には自分と2段ベッドの下で眠る兄のU、そして畳に布団を敷いて眠る妹の3人。しかし、弟くん以外の2人は何事もなかったようにすやすやと眠っている。


「(気のせいだったのかな)」


 そう思って時計を見ると深夜1時を回っていた。まだまだ朝まで時間はあると、弟くんは再び眠ろうとした。


 ガタン!


 その直後に再び大きな音と衝撃。2段ベッドが大きく揺れた。びっくりした弟くんは咄嗟に下で眠る兄のUを見た。きっと寝返りでも打ってぶつけてそれで・・・、いや、違う。そんな音や衝撃じゃない。寝返りでぶつけたなんてものじゃない。Uや妹は静かに眠ったままだった。


 ガタン!


 気のせいじゃない。

 そう思うと怖くなり、布団を頭から被る。ベッドの枠にぶつかる音じゃない。下から突き上げるようなものでもない。誰かが2段ベッドの支柱を思いきり叩いている、そんな感覚だった。


 ガタン!


 それは、


 ガタン!


 まるでこのベッドだけが、


 ガタン!


 この世と異世界の間にあるような、そんな空間だったそうだ。

 怖くて布団から顔を出すことのできない弟くんが布団の隙間から見たのは、黒い人影がベッドの支柱を思い切り殴りつける様子だったという。何度も、


 ガタン!


 何度も、


 ガタン! ガタン! ガタン!


 何度も何度も、


 ガタン! ガタン! ガタン! ガタン! ガタン! ガタン! ガタン! ガタン! ガタン!


 次第に弟くんは意識が遠くなり、気がつくと朝を迎えていたそうだ。起きてすぐにUに「大きな音がしなかった?」「誰かそこに立ってなかった?」と訊ねたが「寝てたからわからない」の一言だったという。





◆◆◆◆◆



 ぼくはUの話を静かに聞いていた。一通り話し終えたUはタバコを咥えて続けた。


「弟が言うにはさ、「やっぱり怒ってたのかなぁ」って」


 自分たちの領域を勝手に侵したことに怒り、憑いてきたのではないかという。なるほど、確かにそういうこともあるかもしれない。そう納得しようとしたとき、Uは「でもさ・・・」と付け加えた。


「でも、何だよ」


「いや、弟の話を聞いて質問したんだよ。そもそも幽霊屋敷に最初に入ろうって言い出したのは誰だったんだよって。そうしたら弟含め、3人ともそんなこと言ってないって言うんだよ」


「は?」


「入ろうって言った奴なんていなかったそうなんだよ。変だろ? 間違いなく誰かが言った、けれど3人とも自分じゃないって言うんだ。それに家のドア、空いてたんだろ?」


 まるで誘っているように。


「ちなみに弟と一緒に家に入った2人な、どっちも全治半年以上の大怪我を負ったらしい。弟より長く、奥に家に入ったからなのかどうかはわからない。けどそれを聞いた後、俺には弟の見えた黒い影の男が」


 ・・・・・・・・・・・・もう少しだったのに


「って言ってベッドの支柱を叩くヴィジョンが目に浮かぶんだよな」


 Uはそう言ってテーブルを拳でコツンと叩いた。その後、ぼくらは分かれたが、Uの言葉に何か引っかかるものがあった。Uは言った。「俺には弟の見えた黒い影の男が」と。何故、その影が男だったとUは知っていたのだろう。もしかしたらUも、その家に入ったことがあったのではないか、弟くんと同様にその何かを見てしまったのではないか。何かそういう体験をしてしまったのではないか。

 例の家はUが小学生のときに火事でなくなったという。理由はわからないそうだ。家にいた何かはまだその土地にいるのだろうか。その場所で一体何があったのだろうか。今となっては知る由もない。


「だから俺は心霊スポットって奴が苦手なんだよな」


 そう言って快活に笑うUの顔がぼくは今でも忘れることができない。

読んでいただきありがとうございました。

心霊スポットに関する作品を書かせていただきましたが、実際に私たち生者が面白半分で訪れてはならない場所があることを少しでも意識できたら、と自分に言い聞かせています。

話が全体的に伝え聞いた語り口となっているため、かなりわかりにくい表現も多かったのではないかと思います。

拙い文章ではありましたが、少しでも皆様のお暇潰しに慣れれば幸いです。


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