1兆円持ってる俺は、ギャンブルで無双して美女にデレられてしまう~日常的に美少女を競わせてリアル版ウ〇娘やってるようなもんだからね
キンコンカンコーン
午前中の授業が終わったチャイム。昼休みだ。
「君が六文銭幸斗くんね」
教室の後ろの出入口で夏のセーラー服を着た、ショートヘアの女が腕組みして立っている。
身長150センチくらいで小柄。でも胸が盛り上がっている。トランジスタグラマーってやつだ。
「俺になんか用?」
半袖シャツに学生ズボンの俺は立ち上がって、女の子に怪訝な目を向ける。
「あたしと勝負して」
突然、意味不明なことを言われた。
近くで見ると、かなり整った顔立ち。目が猫っぽいのが特徴的。
……この子、見覚えがあるぞ
◆◇◆
高校2年生ながら俺の資産は1兆円。
ちょっと前まで孤児院育ちでイジメられてたけど、じいちゃんが超絶金持ちで遺産を相続したのだ。
じいちゃんの遺産を相続する数ヶ月前。
弁当がなくて昼飯抜きだった俺はお腹を空かせて屋上の給水塔の影で座り込んでいた。
そのそばでは、猫目の女の子がパンをうまそうに食べている。
学食のパン売り場で買ったものだろう。白いビニールの中にはパンが10個くらい入ってそうだ。
ごくり……
ぐー
パンの山を見たから、俺は大きな腹の音を立ててしまった。
「ん、お腹が空いているのか。困った時はお互い様だ。これを食べるといい」
猫目は俺にビニール袋を差し出してくれた。
「え? でも俺はお返しなんてできないよ」
「いいって。君が腹を空かせている時に悪いことをしたよ。どれでも好きなのを選んでくれ」
猫目はやさしく言い聞かせてくる。
良い子だ……
「あ、ありがとう、じゃあこれを」
高校生男子が空腹に勝つことなど不可能。施しを恥ずかしく思いつつも手を出してしまう。
ただしちょっとは遠慮して一番小さいチョコパンを選んだ。
「トバで勝てたからな。今日は豪勢にいってるんだ」
「トバ?」
初めて聞く言葉だ。
「知らないのかい。賭場と呼ばれる部屋が校内にあるんだ。あらゆるギャンブルが行われている」
「へえ」
無茶苦茶だな。知らなかった。
普通の高校だと思っていたが、とんだアングラ世界があったものだ。
まあ金のない俺には関係のないところだね。
猫目は女の子なのに、ギャンブルをやるんだな。賭場で大勝ちして、気が大きくなってパンを爆買したのだ。
猫目は俺を忘れているっぽいけど、俺は忘れていない。
◆◇◆
俺は廊下の壁にもたれかかって猫目と話す。
「なぜ俺と勝負を? 俺にギャンブルしろってことか?」
「そうだ。あたしは金がいるんだ。君は超絶お金持ちなんだろう」
「まあ、そうだが……賭場で負けが込んで借金ができたのか?」
最近はリムジンで登下校したりして、金持ちぶりが校内で知れ渡りつつある。
「そんなとこだが、詳しいことは聞かずに勝負を受けてくれ。頼む」
切羽詰まった感じの猫目。
「しかし、俺はギャンブルがわからない」
「うう……だったら、君がスポンサーになってくれ。ギャンブルで勝てたら、金は山分けだ」
「乗った」
俺は恩返しできるなら、満足。金は増えても減ってもどうでもいい。高校生のギャンブルなら、せいぜい数千円でしょ。
◆◇◆
猫目が連れて来たのは校舎4階の奥。
来たのは初めてだ。人気が無くて静かである。
俺たちの足音しかしない。
猫目が立ち止まる。
部屋の入り口には確率研究会という札が下げられている。
廊下に面したガラスは全て曇っていて中は見えない。
「賭場ってここなのか?」
俺が問うと猫目は頷いた。
猫目が戸をガラガラとスライドさせる。
中は使われていない教室。机や椅子は後ろで積まれている。
がらんとした部屋の窓際に一人、座ってスマホをいじっている者がいる。
逆光で顔がよく見えない。
そいつは立ち上がって近づいて来た。
セーラー服の女だ。
細い体だが、アンバランスなほど胸は大きい。
「なんだ、またお前か。こりもせずに毟られに来たか」
女は猫目にぞんざいな口をきく。
「く……」
猫目が口を結んでいる。
「この人が金を巻き上げたのか……」
「ああ、3年の赤城しげ子、あらゆるギャンブルに精通する賭場の主だ」
しげ子は近くで見ると、3年らしく大人びて整った顔立ち。
異様なのは、肩ほどまである髪の毛が灰色だ。
「幾多の修羅場を潜って来たせいで、髪が白くなったらしい」
猫目がちょっと怯んだ感じで話す。
「お前はもう金がなくなったのに、何しに来たんだ?」
しげ子が冷たく尋ねてくる。
「勝負に決まってる」
「ほおぅ 金はあるんだろうな」
「金なら俺が出しますよ」
代わりに答える。
「賭場には初めて来たようだね」
しげ子は俺の顔を知らないらしい。
俺は大金持ちのスーパー高校生として、女子の人気者になってきたんだけどな。
「いろいろ教えて下さいよ、先輩」
俺は下手に出ておく。
こっちを舐めて、油断してくれた方がいい。
「よかろう。だが今、賭場には私しかいない。私との対戦になっていいのか?」
てか、そのうち午後の授業始まる。
しげ子はサボりだろう。俺たちもサボるけどな。
「もちろん、先輩を倒しに来たんだっ」
猫目が言い張る。
「ではゲームはお前が選べ」
しげ子が腕組みして言い聞かせる。
「俺は参加せず、金出すだけにしてくれ。猫目だけで戦うゲームを選んでくれよ」
俺が混じったら、猫目の足を絶対引っ張る。猫目の本名を俺は聞かされてない。つい猫目って呼んじゃったけど、猫目はスルーする。
「よし、あたしが一番得意なゲームを選ばせてもらう」
「ああ、それで行け。何なんだ?」
「競馬だっ」
猫目が言い放つと静まり返る。
競馬って対戦するものなのか。俺はキョトンとした。
「よかろう」
しげ子は平然と応じる。
「待て、どういうことだ? 競馬で対戦って?」
俺は猫目としげ子を交互に見る。
「ふふ、見せた方が早いな」
しげ子は黒板にくっつけて置かれた教卓に歩み寄る。
ノートパソコンがあって、しげ子は電源を入れる。
マウスを操って、動画を表示させた。
「ちょうど今日は○競馬場がやっている。こんな地方のレースでいいのか?」
しげ子は猫目をちらと見て確認する。
「無論、データは頭に入っている」
堂々と言い返す猫目。
動画では競馬場で、馬が引かれている様子が映る。
猫目は馬の速さとかのデータを覚えてるってことか。
呆れる。そんな立派な記憶力があるなら、勉強に使えよな。
「で、対戦はどうやってやるんですか?」
「ふふ。猫目が勝つ馬を予想して、賭け金を積む。当たれば、私が競馬場のオッズと同じ金額を払うのだよ。外れたら賭け金は私がもらう。最終レースまで終わって、金が増えていた方が勝ちだ」
ふーん……
ルールはわりと単純だな。俺でも理解できる。
「だが、それだとあまり対決って感じじゃないような。猫目が選んだ馬が勝つかとうかだけだからな」
「ふふ、私と勝負する時は特別ルールが加わる。猫目が賭けたレースに応じるか、私に決定権を持たせてもらうよ」
「な? てことは、どうなるんです?」
「猫目が賭けた馬が勝ちそうだと、私も思ったら私は勝負を避ける。そのレースは無勝負だ」
「ええ!? それって先輩が有利すぎません?」
「そうでもない。何百倍という馬券を当てられたら私は破産だ。それに競馬は外れる可能性の方が大きい。無勝負にすれば、私は得られる金を逃すことになるからね。まあ、無勝負にするのはよっぽどの時だ」
「ふむう」
頷くものの、いまいち腑に落ちない。
猫目が競馬の客で、しげ子が競馬場の胴元ってことだ。ギャンブルは胴元が有利というのは俺でも聞いたことがある。
ただでさえ胴元が有利なのに、勝負を避ける権利を持っているんだぜ。ますます有利ってことになるんじゃないかな。
「大丈夫なのか?」
俺は心配そうに猫目を見る。
「行けるよ。いくらしげ子先輩だって場末の地方競馬まで調べているはずはない。あたしは再戦のために毎日データをチェックしてきたんだ」
「なるほど。こっちに有利な点もあるわけだな。ところでこの競馬の2人対戦ゲームには名前が付いてたりするのか?」
「ノミ行為」
猫目が即答。
「ふーん、初めて聞く言葉だな。俺はスマホで戦い方のコツがあるのか調べてる。じゃ、がんばって戦ってて」
リュックから百万円の束を取り出して、猫目に渡す。超絶金持ちの俺は普段から、多少の札束を持ち歩いている。
「ありがとう。必ず勝ってみせる」
猫目は緊張した顔。百万円にビビるかと思いきや、驚いた風ではない。もしかして普段から結構な額が動いているのか……
俺は教室の後ろに行って、積まれた椅子を一つ床に置く。
座って、スマホで調べ始めた。
ノミ行為……
競馬場とは別に、私的にレースに賭けること。
行う者は、競馬開催にかかる費用を払わずに胴元になることができ、競馬主催者よりも収益性が高い。
競馬法違反。
暴力団の資金源だったが、警察の徹底的な摘発でほぼ絶滅している。
めっちゃ犯罪じゃん!!
俺は血の気が引いた。
こんな違法行為が校舎で行われているなんて、おかしすぎる。
これはヤバい。
そろりと逃げ出そう。
俺は後ろの出口に視線を向ける。
「ずっと付いててくれよ、幸斗」
猫目が心細そうに声を掛けてくる。
「お、おう」
俺は座り直す。仕方ない、付き合ってやるか。
「今から4レースある。まもなく最初のレースが始まるが賭けるか?」
しげ子が確認してくる。
「オッズを見せてください」
猫目がノートパソコンを覗き込む。
「よし、複勝でアホノテイオウに10万円」
猫目が宣言。
「受けよう」
即答するしげ子。
「俺は何言ってるか全然わからん……」
「複勝っていうのは、3位までに入る馬を予想するんだ。アホノテイオウが3位までだったら、私の勝ち」
猫目が10万円を教卓に置きながら、解説してくれる。
「へえ、1位を当てるわけじゃないんだな」
「1位を当てるのは単勝。複勝は3位までに入ればいいから単勝よりずっと当たりやすい。その分、当たっても倍率は低めだ」
一斉に馬がスタート。
俺も立ち上がって、ノートパソコン前で観戦。
「アホノテイオウは7番だ。今は真ん中にいる」
猫目が指差してくれる。
「負けてるじゃん」
前にいっぱい馬が走っている。
「大丈夫。アホノテイオウは追い上げが得意だから」
「さすが、よく知っているねぇ」
嫌味な感じのしげ子。
馬の速度が増してきた。
「ラストスパートか」
俺もちょっと興奮。
「行けっ アホノテイオウ」
猫目に応えるように7番の馬がぐんぐん加速。
一つ前の馬を抜き、さらに次の馬に追いすがる。
アホノテイオウは2位でゴールイン。
「よしっ」
ガッツポーズする猫目。
「やるねぇ。オッズは3.0倍か。30万だな」
しげ子はカバンから札束を取り出して来て、数える。
札びらが飛び交う様子は、まさに賭場。
「なんでこの研究会の存在が許されてるんですか」
俺は呆れまくって、しげ子に尋ねる。
「ああ、校長も教頭もここの常連だからな」
「バカな!? 腐ってやがる」
「もっとも、奴らがやるのは麻雀。点ピンの低レートで、逮捕はされない。ふふ、奴らは私の華麗な牌さばきを学びに来ていると言っている」
「色々と教育者失格だろ」
本音はしげ子の巨乳に見とれているだけなんじゃないか。
「さて、次のレースは?」
「複勝でバカスギダヨーに100万円だっ」
「受けよう」
速攻で賭けが成立。
猫目は130万に増えたとはいえ、大半の100万円を一気につぎこむ。
「大丈夫かよ。さっきは10万だったのに、いきなり10倍かよ」
「大丈夫。さっきは競馬場のコンディションを把握する目的だ。負けていいくらいだった。画面越しじゃわかんない風向きや土の状態が把握できたから勝負を賭ける」
猫目が通っぽいことを言う。
ほんとにそんなことわかんのかね。
第二レースが始まる。
「オッズは5倍か。怖い怖い」
そう言いつつしげ子は余裕たっぷりな感じ。
「バカスギダヨーは9番。こいつも追い上げ型だ」
猫目が指差す。
9番は最後から2番目。
俺はとても心配になる。
「ふふふ」
しげ子が含み笑いしている。
馬が加速。一斉にラストスパートだ。
バカスギダヨーが大外を駆け上がる。
「おおお、まさか勝つのか」
俺も興奮。
バカスギダヨーは次々と抜いていき4位になる。
「あと少しっ いっけー」
猫目が叫ぶ。
だがそこまでだった。僅差で3位には届かなかった。
「そんな」
床にぺたんこ座りする猫目。
「ふふ、3位のソロソロクルは登り調子。予想通りの着順だったよ」
「なんだって!?」
猫目が驚いて、しげ子を見る。
「何か?」
「こんな地方競馬まで把握してるっていうの? 私よりも……」
「どこが不思議なのかな。私はここの帝王として長年君臨してきたんだ」
上から目線すぎるしげ子。
いや、そのエネルギーと記憶力を別のことに使おうよ。
しげ子が教卓の百万円を回収。
「ううう……」
泣きそうな猫目。
残り30万。もはや取り戻せるようには思えない。
そもそもギャンブルで取り戻すっていう発想が俺には間違っていると思う。
「なあ猫目、もう止めようぜ。百万円はお前にやる。返せって言わないから、ここで止めるんだ」
俺はへたり込んでいる猫目に手を差し伸べる。
「いや、お金を300万に増やさないといけないんだ」
「は? 何でだよ?」
「お母さんがガンなんだ。陽子線治療っていうのをやったら治るかもって言われているけど、保険が利かなくて。300万かかるんだ」
涙を流しながら話す。
母親がガン……
それで猫目は必死にギャンブルで金を増やそうとしていたのか。
俺の母さんは、俺が幼い頃にガンで死んだ。
猫目が母親を想う気持ちはわかるつもりだ。
「なあ、先輩。猫目の話聞いただろ。金返してやってくんないか。猫目が今まで突っ込んだ金は結構な額になるんだろ」
俺はしげ子に頼み込む。
「ふ、断る」
冷然と言い放って、しげ子は後ろ髪をたなびかせて窓際に行く。
「自己責任だ。命を賭けたギャンブルにキャンセルはない。私は何度も死線をくぐってきた」
外を眺めながら、しげ子は話す。
自己責任。俺の最も嫌いな言葉を口にしやがった。
この世はしょせんガチャに当たるかどうか。俺がじいちゃんガチャに当たって1兆円もらったみたいに、人生は運で決まっているんだ。
自己責任ってのは、ガチャに外れた者を切り捨てる強者にとってのみ都合の良い言葉。
ぶちっ
俺の頭の線が、切れた。
「さあ、次のレースはどうする。もうおしまいか?」
振り返ったしげ子が確認してくる。
「やれよ、猫目」
「え? でも金が」
「金は俺が出す。1億だ」
「な!?」
びっくりするしげ子。
「嘘じゃない。これを見ろ」
俺はスマホで仮想通貨のアプリを立ち上げて見せる。
「1億以上の仮想通貨を持っている。負けたら、先輩が同じアプリをインストールしてくれ。そこに送金する」
金が有り余っている俺は仮想通貨のトレードで遊んでいる。
いくつか仮想通貨を持っているうちの最も額が少ない奴の画面を見せた。
「へ、へえ、すごいじゃん。億り人だったとはね」
しげ子が感心している。
「はっ 幸斗はな、億り人どころか……」
「しっ」
俺は猫目を黙らせる。
「あんた、数万円で買った仮想通貨が億になったっていうパターンだろ。いいのかい、せっかく一生分の運を使っちゃったっていうのに」
しげ子が哀れんでいる。
「構わない。さあ、受けてくれるのか、先輩。負けた時に、全財産売り払っても払えないんじゃないのか?」
「いや、もちろん受けるよ」
こともなげに言い返す。しげ子は胸ポケットからスマホを取り出す。
「私も仮想通貨を何億か持ってるよ、ふふ」
アプリの画面を見せつける。
「何いい!?」
俺もさすがに驚いた。
めっちゃ金持ちやん、しげ子先輩。
何百倍の馬券を当てられたら破産と言っていたけど、全然耐えられるじゃん。普通の高校生程度の財力じゃ、しげ子先輩にはかないっこなかったんだ。
しげ子こそ仮想通貨で金を何万倍にも増やした人だ。さすがギャンブラーだな。
普通の人だったら、十倍や百倍になったくらいのところで売ってしまう。
持ち続けられるのは頭のネジが飛んでいるような人だけだと思う。
「こんな賭場なんかで違法行為に手を染めなくていいんじゃないですかね」
「勝負のひりつく感覚を味わったら、止められはしないよ」
「なるほど……よし猫目、馬を選べ。複勝じゃなくて、シンプルに単勝で頼む。一気に先輩を葬ってやろうぜ」
「う、うん、単勝なら倍率は高くなる。でも外す可能性は高いよ」
「俺は猫目を信じる。母親を助けたかったら勝つんだ」
ぶっちゃけ300万の治療費くらい出してやっていいんだけどね。
自己責任と言ったしげ子をボコりたい。
「ハヤクニゲキリタイだ。こいつが鉄板っ」
猫目が告げる。
「まあそうするよね。オッズは4倍。さすがに負けるとやばいなあ」
しげ子が額に手を当てて、辛そうな顔をしてみせる。
「先輩、やっぱやめとく? 勝負から降りる特別ルールをここで使う?」
俺はしげ子を挑発。
しげ子が逃げて、勝負は終わりでも良い。
「いや、受けよう。私が勝ったら1億ゲットだ」
やはりしげ子はネジが飛んでいる。
第三レースが始まる。
「ハヤクニゲキリタイは3番。今1位だ」
「おお」
「先行逃げ切り型だからな、このまま行けー」
「たまらない、たまらないよ、この感覚」
しげ子がうっとりしている。
最終コーナーまでハヤクニゲキリタイは1位。
「よし、いっけー」
すっかり俺も夢中。
「あ、外から来る」
画面に、ハヤクニゲキリタイの横に追いすがる馬が映る。
「やはり来たな、ツメヲカクス。こいつの真の力はこれから開花すると思ってたよ」
しげ子はこの馬がいるから勝負を受けていたのか。
「くっ これほどとは」
うめく猫目。
二人ともこの展開を予想してたのか。お前ら異常だよ。
どっちが読み勝つんだーー
「あっ!?」
猫目が叫ぶ。
ツメヲカクスが鼻の差で抜いてゴールイン
「負けた……」
膝をつく猫目。
「ククク」
しげ子が含み笑い。
「ごめん、幸斗」
手を床について、負け馬を選んだ謝罪をする。
「ふん、気にするな。次のレースの馬を考えてくれ。今度も単勝で頼む」
俺は仮想通貨アプリを操作。
「先輩も同じアプリっすね。IDを教えて下さい」
「ふふふ、金に執着しないのは感心だね」
しげ子がスマホをかざしてIDを見せる。
「ぽちっとな」
俺は1億円分を送金した。
「次は最後のレースだよ。もう止めとくかい?」
しげ子が薄笑いして確認してくる。
「じゃあ最後のレースは100億円行きます」
俺はこともなげに告げる。
「な――――!?」
しげ子が絶句。
「払えますから、ご心配なく」
俺からするとどうと言うことのない金額だが、しげ子からしたらさすがに超大金だろう。
「参ったね。君がそんなお金持ちだったとは」
「どうします、受けてくれますか?」
「いや、負けた時に金を払えないよ」
かぶりを振るしげ子。
「だったら体で払ってもらいましょう」
俺はニヤリとする。
「や、止めろよ、幸斗」
顔を赤くした猫目が、俺としげ子の会話に割り込む。
「私の体にそんな値打ちがあるかね」
「食べた時のお楽しみです。金は先輩の全財産をもらえれば十分です」
「ふふふ」
見つめ合うしげ子と俺。
「待て、幸斗、いくら何でも百億は多すぎる」
猫目は落ち着かせようとしてくる。
「いや、中途半端に十億とかだと、先輩は勝負を降りる。百億なら逃すのが惜しくなって、先輩は受けてくれるのさ。そうでしょう?」
「その通りだよ。君はギャンブラーの心理がよくわかっているね」
腕組みしたしげ子がまた俺に感心。
「じゃ、じゃあ、複勝にしよう。複勝なら勝てる可能性は高い」
猫目が俺の腕をつかんで食い下がる。
「ダメだ。一点狙いの当たる確率が低い単勝じゃないと先輩は受けない」
「本当によくわかってるね。最初は競馬のルールも知らなかったのに、もはやいっぱしの天才ギャンブラーだよ、君は。才器は私よりも上だねえ」
感嘆するしげ子。
猫目が震えている。
「マジか……あたしが先輩に勝てなかったのは当然だった。こんなイカれた次元で勝負してたなんて」
俺は猫目の肩に手を置く。
「どの馬がいいかは俺には全くわからない。決めるのは猫目だ」
「無理だよ、あたしに百億円賭けられるなんて」
「ふ、俺にとったら百億なんて、百円玉みたいなもんだ。気楽にしろ」
「そんなこと言ったって……」
「むう……」
百億にしたせいで、猫目がすっかり萎縮してしまった。
百億じゃないとしげ子を勝負に引きずり込めないから仕方ないんだけどな。どうしたものか。
「さて、最終レースが始まるぞ。どの馬にするんだ? オッズはもはや関係ない。どの馬が一位になろうと私は破産だ」
しげ子が猫目に催促。
「ここに来る前から最終レースの展開は予想している。この馬が来るだろうなっていうのはあるんだ」
猫目が声を絞り出す。
「じゃあそれでいいじゃないか」
「ダメだよ。私の読みはことごとく先輩に上回られている。最後もきっと……だから今、考え直しているんだ」
「深く考えすぎるな。直感でいけ。しょせんは運だろ」
俺はもう百億を捨てる覚悟。
「わ、わかった。最初に閃いたのは、アタルハズナイだ」
「よし、じゃあ先輩、そいつで受けてくれますよね」
他に選択肢はない。まあ俺が選ぶよりましだろう。
「なぜ、そいつを……?」
しげ子は難しい顔をした。
何だろう。まさか、しげ子も本命だと思っているのか。
だとすると、受けてはくれないか。
「まさに直感ですよ」
猫目が答える。目がちょっとイッている。
「確かに本命とは言い難い。だが、あり得る」
「へええ、止めときますか、先輩、きひひひひひ」
猫目が奇声を上げる。
気持ち悪いが、猫目の頭がおかしくなってしまうっていうのはわかる。
初めて猫目がしげ子を押し込んでいる感じだ。
「受けるよ。何しろ、百億だからね。私が失うのは全財産の数億円とこんなシケた体だけだ。ノーリスクハイリターンの勝負だよぉ、くふふふふ」
しげ子は気味の悪い笑いをする。
俺が投げ込んだ百億のせいで、しげ子も狂気に陥った。
数億円を失うのと、体を汚されることをノーリスクって……本当に頭のネジが外れている人だよ。
命を取られる修羅場を何度も潜ってきたってのは伊達じゃないな。
「いよいよ本日の最終レースが始まります」
パソコンから実況の男の声。
俺達は固唾をのんで画面を見つめる。
「各馬一斉にスタート」
「アタルハズナイは5番。追い上げ型だ。まずまずのポジション」
猫目が指差す。
5番は真ん中を走る。
「だがソッコウニゲキリが本命」
しげ子が先頭の馬を見つめて微笑を浮かべている。
こいつが本命だってのは猫目もきっとわかっている。
それでも別の馬を選んだんだから、本当に直感なんだろう。
ソッコウニゲキリが先頭をキープするものの、アタルハズナイは後に付ける。
レース終盤。各馬がスパートをかける。大混戦状態。
「いっけー」
猫目が叫ぶ。
アタルハズナイが猛烈に追い上げる。
「逃げろ、ソッコウニゲキリ」
しげ子も応援。さっきまで落ちついていたしげ子ももはや冷静ではいられない。
アタルハズナイが2位に出て、ソッコウニゲキリに追いすがる。
「あと少しだ。頼む、勝ってくれー」
猫目の絶叫。
ゴールは目前。
「どっちだどっちだ!?」
ソッコウニゲキリとアタルハズナイが同時にゴールインしたように見えた。
「写真判定だ」
猫目が大興奮。
「ふふふ、たまらないね、この時間は」
しげ子が含み笑いをしている。
写真判定の結果、1位はアタルハズナイだった。
「やったー」
部屋に猫目の叫びが響く。
「やるね。負けたよ。負け惜しみに聞こえそうだが、私もこの展開はあると読んでいた。だからこの勝負は降りようと思った」
しげ子が俺の方を見て言う。
「だけど、受けたのは?」
「百億の魅力に勝てなかった。百億を積んだ君の勝利だ」
しげ子は俺を讃えてくれる。
「勝ったのは猫目です。俺は何もしていません」
俺は感慨にふけっている猫目を見つめる。
「あ、あたしは幸斗が金を出してくれなければ勝負できないし、どの馬にするか迷ってた。決められたのは幸斗のおかげだ」
猫目は首を振りながら応える。
「ふ、見事なコンビ技だったというわけだ。とにかく金はあるだけ払おう」
しげ子はスマホを操作する。仮想通貨とか現金をアプリ経由で引き渡そうというのだ。
「5億円ほどあるな。全額送金する」
「いいんすか、そんなにあっさりと」
俺はしげ子の諦めのよさに感銘を受ける。
「なに、また稼げばいいだけだ」
笑い返すしげ子。
俺のアプリに着金した通知が出る。
「よし、猫目。俺がさっき払った1億を引いて4億がお前の取り分だ」
「は?」
キョトンとする猫目。
「送金してやる。アプリをインストールするんだ。お母さんに最高の治療を受けさせてやれ」
「いくらなんでも4億もかからないよ。勝てたのは幸斗のおかげだから、幸斗の取り分だろ」
「んー 別に俺は金が要らないんだよね。十分持ってるから。猫目にやるから、もうギャンブルから足を洗え」
「うう……何これ。幸斗がやさしすぎるだろ。あたしに幸斗のハーレムに入れってことなのか」
猫目が勘違いして顔を赤くしている。
「いや、そういうつもりはないから」
俺はきっぱりとお断り。
ちらっと、しげ子の方を見ると、セーラー服のスカーフを外している。
「ん? 先輩、何をするつもりですか?」
「早速ここで私を抱いていくんだろう」
こともなげに答えるしげ子。
いきなり裸になろうとするとはイカれた人だ。そばに猫目がいるのに。
「あ、先輩、体はいいっす」
俺は目を逸らして告げる。
「は? 体で払えって言ったのは君だろう」
「冗談ですよ。代わりにこの賭場は閉鎖して下さい」
「……わ、私を抱いてはくれないのか。君にだったら抱かれてもいいんだが。初めてを……」
しげ子が顔を赤くして、初めて女の子らしい仕草をしている。
「いらないですって。何しろ俺は……」
ガラガラガラガラ
後ろの扉が突然引かれる。
「幸斗がいたわ」
女の子がぞろぞろと入ってくる。
実は俺には、じいちゃんの遺言でお嫁様候補が5人いる。全員がSランクの美少女で、この学校に通っている。
3年生の千紘。
俺を弟のように可愛がり、甘やかしてくれるお姉さん。ゆるふわな性格でJカップ爆乳の持ち主。
さっきスマホで賭場に行くと連絡しておいたが、訪ねてくるとはね。
俺がトラブって危ない目に遭うんじゃないかと心配してくれたんだ。やさしい子たちだよ。
「賭場ってここか。ゆきとー やっと見つけたぞ」
2年生の桃香。金髪ギャルで、人懐っこい。Gカップ。
早速俺の右腕に抱きついて、デケェの谷間で締め付けてくる。
「ゆきとさん、だいじょぶですか」
1年生のニーナちゃん。北欧の妖精で銀髪ツインテール。身長140センチのロリッ子。
「大丈夫だよ。賭場はもう潰しちゃったから」
俺は笑顔を向けて、ニーナちゃんを安心させる。
「よかったのです」
ニーナちゃんが俺の左腕に抱きついてくる。
「ウチも幸斗さんと遊びたかったのになぁ でも幸斗さんはさすがやわ」
2年生の麿莉奈。長い黒髪がツヤっとしている京都出身の没落令嬢。
「賭けで負かした女の子に体で払えって要求してるんじゃないですか。先輩は変態ですね」
1年の藍。ショートヘアで小柄。生意気な性格で、毒舌な後輩。やたら頭の回転が早くて、俺を変態だと責めててくる。
俺はMな一面があるから、藍にいぢめられるのは嫌じゃなかったりする。
「ご、誤解だ。俺は体で払ってもらわなくていいと言ったんだ」
さっき俺がしげ子に体で払えと言ったことは内緒にしておく。
「ふ、これほどの美少女が君のものだったら、私ごときはいらないはずね」
しげ子が軽く嘆息して、スカーフを付け直す。
そのとおり。
俺はタワーマンションの最上階でSランク美少女5人と同棲している。一緒に暮らしてみて、俺は1番気に入った子を選ぶのだ。
なので5人が、俺のお嫁様の座を獲得するため俺を甘やかしまくるハイレベルな競走をやっている。
俺は日常的にリアル版ウ〇娘をやってるみたいなもんなんだよね。
誰が勝つかは俺にも読みきれない。
女の子たちの過酷なバトルロワイヤルに巻き込まれているうちに、俺も勝負勘とか駆け引きってやつが自然と身についてしまう。
「さ、幸斗さん、帰りましょ。ウチが腕を振るった料理を召し上がっていただきます」
「なぁゆきとー 一緒にお風呂に入ろうぜ」
「ゆきとさんは、わたしと遊ぶです」
俺は女の子たちに取り合いにされて、実に忙しい。
両腕に女の子たちに抱きつかれて、教室の外に引きずって行かれる。
「ま、待って、幸斗。なんて礼を言えばいいんだ。とにかく、ほんとにありがとう、うう……」
背後で猫目が涙声で伝えてくる。
「礼など必要ないぞ。お母さんを大事にしてやれ。俺の母親は死んでるからな。親孝行は生きているうちにしておかないとな」
「あたしの……他人の母親のために……100億つっこんでくれたのかよ……」
「俺にとったら大したことじゃないよ。じゃあな」
「ふ……なんてスケールのでかい男だ。勝てるはずがなかったよ」
しげ子の嘆息が聞こえてきた。
教室から出る。
「先輩、また他の女にフラグを立てたんですね」
「もう幸斗さん、ウチというものがありながら」
Sランク美少女たちが拗ねている。
「ち、違う。そんなつもりはない。もう会うことはないし」
きっぱりと否定。
モテるってつらいね。
「今日もいっぱいイチャラブさせていただきますからね」
美少女たちが俺をタワマンに連行していく。
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本作は
『最弱高校生が1兆円もらったら、Sランク美少女5人がお嫁様になりたくてバトルロワイヤル始めました~甘やかし競争がハイレベルすぎ……ハーレムエンド禁止って1人選ばないといけないの!?』
https://ncode.syosetu.com/n7447hu/
の短編版です。
幸斗が美少女たちと甘々同棲生活を送っていますので、連載版もご覧いただければと存じます。
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