葬式に週五日出る男
1
車の後部ドアから出た。背広姿。
今回の葬式現場へ、ゆっくり近づく。
「ご一緒していいですか?」
人影が尋ねてくる。
「いいえ駄目です」と私は答える。
「あの」「私は」「いえ、私なら」
何人も声をかけてくるが、しっかり断る。
そのうち目当ての相手を見つけた。
「あの、よかったら御一緒しませんか?」
相手は驚いたようにこちらを見て、
「ええ、お願いします」。
私は相手の手を取った。
そのまま葬式会場へ。
2
親族の一人に話を通してあり、その人が横に付いてくれた。
亡くなった人の知り合いのふりをする。
そのうち・・・「あいつだ!」私は声に出してしまった。
会社の同僚の一人。
仕事仲間とは、仲が良くも悪くも無い、
ビジネスライクなドライな関係でいいはずだが、こいつは
他人に日常的に嫌がらせする習性があった。
「よくも俺を殺したな!」俺はそいつにつかみかかった。
「何言ってんだこいつ!」
俺はその時の状況をこの場でぶちまけた。
普段からの嫌がらせにうんざりして俺は、そいつを殴り、相手は
ナイフを出してきて、俺は刺し殺された。
俺しか知らない、そいつの今までのせこい悪事を全部ぶちまけると。
「やめろ!何でそんなことまで知っている!」
周りの知り合いにも話す。
「おまえ、本当に**なのか?」
「ああ、そうだ、この体に憑依してる」
車にいた警察官たちがその男を連行した。
両親や知り合いと話し、こまごました故人の後始末を、本人が頼んでから、
幽霊は私から抜け出ていった。
3
これが私の仕事。
子供の時から葬式に行くとかならず幽霊に取り付かれてしまい、
奇矯な振る舞いをしてしまう。
仕事を始めてからも幽霊に取り付かれてぼうっとする事が多くてクビばかり。
ハローワーク(職業斡旋所)で、その悩み事を話した。
そのうち警視庁がスカウトしてくれて東京へ引越し。
殺人事件の被害者の幽霊をとりつかせて犯人を示す役割。
被害者の写真を見て、波動が荒い、本人が邪悪な場合は断っている。
取り付かれたら、大暴れする可能性が高い。
週に5回、指定された葬式に行く。
写真で見た被害者の幽霊を探して取り付いてもらう。ほとんど見つかる。
葬式に犯人がいれば告発、いなければ殺害状況を警察、信頼できる親族に話す。
隠してセットしている複数の動画カメラで映像・音声を撮影している。
4
6日目は海水浴場の近くに借りているアパートへ。
鮫除けネットの手前に沿ってゆっくり泳いで砂浜で休み、
体にこもってる霊気をリセットする。
夏でなければウエットスーツで泳ぐ。
かならず海でないとリフレッシュできない。
塩分と波の波動に揺られることが必要らしい。