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フランクフルトで白い奴は間違いなく美味い


 『あけましておめでとう』とは、いつまでを期限とした挨拶なのだろう。

 理想としては、年があけて三ヶ日までか。お世話になった方々と今年も引き続きご迷惑をかけそうな方々に挨拶して回りたい所である。


 しかし、日本は広すぎるし、帰省した人間が出来る行動はあまりにも少ない。

 そんな訳で、ここは一つ。一月中ならばいつ言ってもよい特例を賜りたい。


 あけましておめでとうございます。

 今年も宜しくお願いします。





 さて、義実家でカオナシのように過ごした私は、帰りのSAで荒れ狂う暴食獣と化していた。『千と千尋の神隠し』でも屈指の山場となる、逃げる千尋を大口開けて追い回すカオナシもかくやの爆食ぶりである。


 ……そもそも、SAに美味しいものが多すぎるのがいけないのだ。


 柔らかく白い生地に、しっとりと具の詰まった餡まん。

 コーン部分をラングドシャにしたソフトクリーム界の鬼才、クレミア。

 そして、その土地の名産を思い思いに詰め込んで揚がった熱々サクサクのコロッケ――――


 それらを寒空の下で、あるいは震える車の中で食した時の充足感と多幸感は何にも替えがたいものがある。特に、ここ二年ばかりコロナ禍で帰省もご無沙汰だったから、久々のSAで私の食欲は止まらない。止められない。

 そんな中、休憩に立ち寄った大きなSAにソレはあった。


 網の上に乗せられているのは、客寄せようのディスプレイ。そうだと分かっていても惹かれてしまう、強烈なこの魅力……!


 奴の名は、『フランクフルト』。

 ご当地系コロッケと肩を並べる、SA食界の豪傑である。


 SAに屋台があれば、たこ焼きや焼きそば、コロッケと共にラインナップされる事も多いフランクフルト。だが、決して油断してはならない。

 フランクフルトはそもそも、何処で食べても外れが少ない安定のジャンク。その上、肉の質に店が拘っていた場合、段違いの旨味を出してくるのである。


 特に今回は、網の上に乗せておくような、凝った演出をする専用屋台――奴は、焼きそばの片手間で焼いたフランクフルトではない。見ればわかる。オーラが違う。


 私は財布を出し、覚悟の面持ちで屋台の前に出た。そして――――驚愕した。


 『一本 六百円』


 比較的安価なジャンクとして知られるフランクフルト。それ一本に六百円。ワンコイン弁当よりも、これは百円分の価値を上乗せしているということだ。


 この価格で出すからには、相当美味しい肉を使っているに違いないぞ!!


 口の中がもう潤って潤って仕方がない。

 私は胸をときめかせながら、お店のお姉さんに「フランクフルトを一本ください!」と注文を出した。


「はぁーい! 一本ですねぇ!」


 愛想の良いお姉さんが、フランクフルトを奥にある網の上で温め始める。屋台という都合上、あらかじめ中に火を通しておいて、後から仕上げに焼き目を付けて出すスタイルをとっているらしい。


 一月の冷えた空気に、炭火の温かさが広がってゆく。じりじり、ぱちぱちという油が落ちて弾ける音に、私の期待は否応なしに膨らんでいった。

 そして――――


「それでは、仕上げに入りますー!」


 シュボっ!!!

 じゅわわわわわ~~~~―――


 お姉さんが笑顔で取り出したガスバーナーから、青い炎が吹き出て来る。さっきまで白かったフランクフルトが、バーナーの炎に炙られて、みるみる狐色の美味しそうな焼き目を作ってゆくではないか!


 何だそれずるい!

 そんなの見せられたら余計に美味しいに決まっている!!


「お待たせしましたぁ!」


 渡されたフランクフルトは、油紙の中で未だジュワジュワじゅくじゅくと肉汁が煮え滾った音を立てている。SAには空っ風が吹き荒んでいるというのに、ここだけはまるで灼熱活火山のよう。


 私は夢見心地のまま、車の中に戻った。

 流行る気持ちを抑え、アルコールティッシュでしっかりと手口を拭く。そして口の中をお茶で潤し――いざ、実食。


 ――――ブチンッ!!

 ――――ドババババババババ……ッ!!!!


 弾力の強い皮を噛みきった瞬間、口の中に()()()()()!!

 破れた皮の裂け目から、熱々の肉汁が一気に噴き出してきた。お茶の味が吹き飛ぶくらい濃厚な肉の旨味が、口の中いっぱいに広がってゆく……!

 鼻に抜けたのは胡椒の香りだろうか。少しピリッとした味と、シンプルな塩気がもう、たまらない。


 しかし、ぼーっと旨味に浸っていてはすぐ冷めてしまう。フランクフルトは、熱々のうちに食べる“速さ”も大切だ。

 我にかえっては頬張り、奥歯で噛めば噛むほどさらに肉汁が溢れ出る。油紙がなかったら、私の服はフランクフルトの肉汁でびしゃびしゃに汚れていたに違いない。

 わざわざ油紙で出来た袋に入れ、渡された理由はここにあったのだ――――

 

 油紙に滴った肉汁をお行儀悪く飲み干す頃、寒さで冷えたお腹の中は熱々ぽかぽかに温まっていたのだった。


 二年ぶりのSAに、こんな美味しいフランクフルトがあったのは。

 この肉汁にもう一度溺れる為に、今年もめげずに頑張りたい所である。




余談だが、別のSAで売っていたネギのコロッケも美味しかった。ご当地食材をほぼすべて受け止めて美味しく仕上がるコロッケは、もしかすると宇宙なのかもしれない。

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